2 出会い
4月も半ばになったけど、結局親しいお友達は遥ちゃんと鈴ちゃんしかいない。
元々そんなに社交的じゃないから、2人もできたのがすごいと思うことにしてる。
遥ちゃんも鈴ちゃんも、どんくさい私に呆れもせず付き合ってくれるいい人達。
私も2人が大好きだ。
だけど、2人は選択美術の授業に図画を取ったので、書道の私とは離れ離れになる。
選択美術は、2クラスを図画・書道・音楽の3つに分けるから、周りの半分は別のクラスの人達だ。
2時間続きの授業だから、なおのこと辛い。
特に、男子はほとんど音楽を取らないから、図画と書道は男子の比率が高い。
私は絵は下手だし、音痴で楽器もできないし、選択科目の申し込みは遥ちゃん達と仲良くなる前だったから、「書道しかないよね」と簡単に決めてしまった。
せめて図画を取ってたら、遥ちゃん達と一緒だったのに…。
2回目の選択美術の日、教室移動の前に1人でトイレに行って教室に戻ってきたら、もう誰もいなかった。
慌てて教室を飛び出したけど、慌てたせいなのか曲がる角を間違えたみたいで。
恥ずかしいことに、私は校内で迷子になってしまった。
まだ選択美術は2回目だったから、私の頭では道順を覚えられなかったみたい。なんて残念な頭。
どうしよう、こんなことなら、教室を移動して、その近くのトイレを探すんだった。後の祭りだけど。
途方に暮れていたら、後ろから声を掛けられた。
「あんたも置いてかれたクチ?
みんな冷たいよなぁ、ちょっとくらい待っててくれてもいいのになぁ。
あんたも習字だろ、さっさと行こうぜ」
振り向くと、小柄な男子が笑ってた。
私とあんまり変わらない身長…157くらいかな? 男子にしては、低い方だと思う。
右手に、私と同じ書道バッグを提げてる。
つまり、この人も私と同じで、トイレに行ってる間に置いてかれたってことなのかな。
人懐こい笑顔を浮かべたその人は、バッグを左手に持ち替えて右手で私の左手を掴んで走り出した。
「ほら、さっさと行かないと、本当に遅れちゃうぞ」
私は手を引かれるままに走って、無事教室に辿り着くことができた。
「あ~、なんとか間に合った。 じゃな!」
その人は、あっけなく私の手を放して、教室に入ってしまった。
うちのクラスの人じゃなかったから、きっと隣のクラスなんだろう。
私は、弾む息を整えながら、席に着いた。
クラスも違う、名前も知らない、ただ同じように置いてかれて特別教室まで一緒に走っただけの男子を、私は忘れられなくて。
遥ちゃんに心配されちゃった。
「どしたん、明日翔? ボーッとして」
「あの、今日、特別教室行くのに道に迷って走ったら、疲れちゃって…」
「あ~、明日翔は少し運動した方がいいよ」
「う、うん…」
どうしよう、誤魔化しちゃった。
なんでほんとのこと言えなかったんだろう。
3日後の朝、学校に行く途中で、自転車で転んでるおばあさんを見掛けた。
朝市か何かの帰りみたいで、自転車の前カゴからタマネギやらジャガイモやらがこぼれてて。
大変そうだから拾うのを手伝ったんだけど、自転車を起こしてみたら、チェーンがはずれてて。
私には直せなかった。
おばあさんに謝って離れようとしたら、この前の男子が通りがかった。
「あれ? 君、この前の。何やってんの?」
事情を説明したら、あっという間にチェーンをはめて、お礼を言うおばあさんに
「お礼なんかいいから、気ぃつけて帰んなよ」
と言って走り出した。
また、私の手を引いて。
「あ、あの!」
「急がないと遅刻するって!」
校門の辺りまで来た頃には、私はすっかり息が上がってたけど、このドキドキが走ったせいなのか、手を引かれてるせいなのか、わからなかった。
突然手を放されて、え? と思ったら
「ここまで来りゃ、もう大丈夫。
君、走るのあんま得意じゃないだろ? ここからなら、もう歩いても遅刻しないから。じゃ!」
と走って行っちゃった。
あ、また名前聞けなかった…。