7話 滅霊師
リハビリを無事に終えた晴人は、約半年ぶりに帰宅するために両親の車の後部座席に乗っている。晴人の母は
「はる君が後遺症もなく無事に退院できてよかったわー」
「うん。心配させてごめんなさい」
と晴人は申し訳なさそうにしている。父は
「晴人。実はなあ1週間後に神奈川に転勤しなきゃならないんだ。帰って早々落ち着かなくなってすまないなあ」
「いいよ。会社が決めたことだし、しかたないよ。仕事だし」
「そうか。中学校の頃あれだけ頑張って入った学校だったのに。ほんとうにすまない」
「いいって。確かに進学率がいい学校だったけど、どこの学校からでも俺が行きたい大学に入れるように頑張るから。心配しなくて平気だよ。それに事故に遭ってかなり休んだし」
「そうか…ありがとう。父さんも頑張んなきゃなぁ」
というような会話をしていると、晴人はふと、ある事を思い出した。
『あのディーラーって人から金属ケースを受け取ったけど、病室を探しても見当たらなかった。結局あれはなんだったんだ?』
と考えていた。そうこうしえいるうちに
「とーちゃーく」
と母は後ろに座っている晴人を見て言った。
「あー。久々に家に帰って来たって感じがする」
と懐かしそうにしている晴人に父は申し訳なさそうに
「久々に家に帰って来てゆっくりしたいのはわかるが、一週間後にはここを出なきゃならないんだ。今週中に自分の部屋の物をいるものといらないものを仕分けしておいてくれ」
「うん。わかった」
と晴人は残念そうな表情をした。
晴人の部屋には必要最低限のものしか置いていなかった。晴人はあまり苦労せずに部屋の家具の仕分けをしていると
「あれっ、こんなものここにあったっけ」
とベッドの下になにか箱のような物を見つけた。ベッドを起こし、例の箱を引きずりだすと
「これは…」
言葉を失った。そこにあったのは、臨死体験したときにディーラーと名乗る人物から受けとたった金属ケースだった。晴人は恐るおそる金属ケースの留め具を外した。
バシュッ
という空気が漏れる音が鳴り、金属ケースのふたが少し開いた。晴人はその中身を見て驚いた。ケースの中には、黒いジャケット、左右の黒のグローブ、黒のスニーカー、黒く塗られた二丁のデザートイーグルそしてその拳銃専用のマガジンが4つ入っていた。
/*注釈*/
デザートイーグル
…自動拳銃の一種。
マガジン
…発射の際に次弾を供給するための部品。
晴人は
「えっこれ本物?」
と警戒しながらその拳銃を手に取って眺めている。すると、ケースの中に『必読』と書かれたタブレット端末が入ってるのが目に入った。
『何だ?』
と思いタブレット端末を起動させた。タブレット端末には
『TO霧生君』と書かれたフォルダが現れた。晴人はそのフォルダを開くと、画面には文字がずらりと表示されていた。
(指令)
やあ霧生君。退院おめでとう。君のように、悪霊を狩る力を与えられた人々のことをわたしは『滅霊師』と呼んでいる。君には滅霊師として必要な仕事道具を渡しておこう。ケースの中身と指令についての説明をここに記す。
(ケースの収容物)
・対悪霊用グローブ 左右×1
・対悪霊用シューズ 左右×1
・対悪霊用デザートイーグル ×2
・対悪霊用銃収納ポケット付コート ×1
・対悪霊用デザートイーグル専用マガジン ×4
・指令伝達用タブレット ×1
(指令内容)
この世に彷徨う悪霊を消滅させていく。悪霊を消滅させたときに貰える討伐点数を一万点までためると、自分の願いを叶えることができる。
(悪霊とは)
それぞれが死んだ原因で、無差別に人を殺していく負のエネルギーを持った魂。
悪霊にも階級があり、討伐点数もそれぞれ異なる。
(殺害成功率とは)
悪霊が人1人あたりを殺すことができる確率のこと
階級D 討伐点数 1~3
人を殺そうとするが軽症程度で済まされることが多い。
殺害成功率10%未満。
階級C 討伐点数 3~10
人を殺そうとするが重症~致命傷を負わされることが多い。
殺害成功率10~30%。武器はナイフを使う。
階級B 討伐点数 10~50
致命傷から殺害させることが可能。
殺害成功率30~60%。武器は刀。
階級A 討伐点数 50~100
狙われた人間は、ほぼ殺害される。殺害成功率60~90%。武器はデスサイズと呼ばれる大鎌。
階級S 討伐点数 1000~5000
滅多に出現しないが、極稀に自然災害を起こし、大規模な殺戮を行う。出現すると百万~一千万単位で人が死ぬ。殺害成功率99%。
尚、なお討伐点数は弾丸の補充や武器の整備、負傷した魂の修復に使われる。
(討伐点数の使い道)
・弾丸の補充
マガジン4セット…10点
銃の修復 10~30点 交換 50点
・刃系統
刃こぼれ修復 10点 交換 50点
・損傷した魂の修復
(魂について)
・魂が損傷しても、肉体は損傷しない。
・魂の損傷は人間の怪我と同じように治る。しかし、ダメージが大きすぎた場合は死に至る。
・腕を切断されるなどの自己修復不可能なレベルのダメージを負った場合。損傷の程度により20~60点で修復可能。
君はこれらの特記事項を読んだ時点で、選ばれた人間の1人だ。もうこれまで通りの日常には戻れない。では健闘を祈る。
と表示されていた。
「もう、これまでどおりの日常には戻れない…か…」
と重々しく呟き、深く溜息をついた。