11話 討伐
――晴人たちが本田先生に除霊研究部を作ると相談してから1週間が経った。
除霊研究部設立に向けて2人は、部室でメンバー募集のポスターを作っている最中だ。晴人は〈部員募集!!〉の字をレタリングしている冬花に、
「なあ。明日からどうするんだ?」
「ん?なにが?」
と冬花はきょとんとして作業中の手を止めて晴人の方を見た。
「なにって部活だよ。明日からゴールデンウィークで学校休みだから、その間部活はどうするのかな?と思ったんだ」
冬花は右手を口元に当てながら
「う~ん。どうしよっか。ポスターは今日中に完成するだろうし。…なにか悪霊が関係してそうな噂聞いてない?」
「さあ。あんまりそういうのは聞かないなあ。大方、俺の代わりに頑張ってくれてる人たちがいるんじゃないのか。最近、あんま大きな討伐指令とか来てないしな」
「俺の代わりにって…。霧生君も滅霊師でしょ?」
少しあきれた風に言うと、晴人が手に持ってるものに気づき、
「それって〈指令伝達用タブレット〉でしょ?」
「ん?ああ、そうだけど」
「さっきからずっとそれ見てるけど、やっぱり討伐指令とかあるんじゃないの?」
晴人は一瞬、タブレット端末に視線を落としたが
「俺の場合は特別だから、ちょっとした指令は来ないんだ」
「霧生君は他の人とは違うの?」
「まあ。こっちの世界も色々あるんだよ…」
と曖昧な風に返し、タブレットに目を向けた。
冬花は先ほどの続きの作業をし、ふと晴人の方を見た。晴人は変わらない様子でタブレットの画面を一定の間隔で画面を横にスライドしながら見ている。
冬花はすらすらペンを動かしながら、
「ところで霧生君」
「なに?」
晴人はタブレットを眺めている。
「指令が入ってないのになんで眺めてるのかな?まさかとは思うけど、自分の仕事ほったらかして遊んでるわけじゃないよね?」
と顔を上げ、にこにこして晴人を見た。
晴人はタブレット端末を自分の顔の位置から右側に倒し、冬花の表情を見た。
冬花はにこやかな表情をしているものの、晴人はほんの少しだけ怒気を感じたので、ぎくりとしながら
「いっ今からやろうと思ってたんだ」
と晴人も紙の上でペンを動かした。
―――その日の夜。
晴人たちが住んでいる街の路地裏に人影があった。
その人影はうつむき、右へ左へとふらつきながらゆっくりと歩いている。
人影の左手には自分の背丈の半分位の刀身の刀を持っている。 見た目は普通の人間だが、よく見ると左腕や両脚は熊の腕や脚のような形状になっていて、それを覆い隠すような大きめの冬用のコートを身に付け、頭にはフードを顔を覆うようにかぶっている。
悪霊は窓から電気の光が漏れている一軒家の手前ま近づくと、ビリビリと耳元まで口が裂け、少し目が突き出ていった。
まるでその表情は獲物を前にし、今にも襲いかかろうとしている野性の肉食動物そのものだ。悪霊は鞘から刀を抜き、シャーーッと蛇が威嚇するかのような声を出した。
玄関のドアに近づいたそのとき、
悪霊の斜め後ろの方向から赤い光線のようなものが、悪霊の側頭部を掠め足元に着弾した。
フードが青い炎に包まれた後、その足元に、フードだったものが焼け落ち、青い炎に包まれながら消滅した。
顔がむき出しになった悪霊はその光線が飛んできた方向をにらみつけた。
悪霊の顔の輪郭は人の形をしているが、口は蛇のように耳まで裂け、目はカエルのように飛び出ている。
悪霊が見た先には塀があり、その上に誰かが立っていて悪霊に銃口を向けている。
「わりぃ、わりぃ外しちまったー。あーあっもったいねぇなー」
と〈彼〉はわざとらしい口調で、相手を嘲るようだった。悪霊は相手に無機質な声で
「オマエハ誰ダ。ソノ武器…メツレイシダナ」
と殺気のこもった声で言い放った。
「ほう。滅霊師を知ってるのか。悪霊にしては知識があるな。なら話がはやい。俺は霧生晴人。お前を消しにきた」
と対悪霊用コートの左ポケットから銃を持っていない左手でもう一丁の銃を取り出し、悪霊に向け両手の
銃を向けた。
そして嘲笑するかのように、にやりと笑った。
それがおかしいとでも言うように悪霊はゲラゲラと笑いだし、
「オレヲ消スダト…。ソレハ不可能ダ。オレハ、オマエノヨウナヤツヲ幾人モホウムッテキタ。イマサラオマエゴトキニ消サレルナドアリエヌ」
晴人は冷ややかな声で、
「そうか…」
と言い、両手の銃のトリガーを引いた。
周囲に独特な銃声が鳴り響き、銃口から赤いビーム弾が直線軌道で悪霊に向かっていく。
悪霊は晴人からみて右へ回避した。
直後、悪霊に向かって赤いビーム弾を連射していく。
悪霊は晴人から見て右へ右へと素早く移動しながら回避。
晴人はそれを追うように休みなく銃弾を打ち込む。
悪霊は回避。
右へ右へと回避し続けているうちに、悪霊と晴人の距離がどんどん離れていった。
晴人は
「へー。よくかわすな。弾がもったいないじゃないか」
とせせら笑いながら、両手の銃の空になったマガジンを器用に片手で交換する。
その隙を逃さんと悪霊は跳躍し、一瞬で塀の上にいる晴人の正面まで移動。
「ヌウアアァ」
と怒気の混ざった叫び声をあげながら、悪霊は刀を上に振りかぶり、今にも晴人の頭をかち割ろうと振り
下ろした。
既にマガジンの交換を終えていた晴人は、刀を振り下ろされたのと同時によけ、相手の刀がぎりぎり自分の体の真横を空振りしたのを見送った。
そして身軽に塀から飛び降り地面のアスファルトに着地。
瞬時に、両手の銃を悪霊に連射。
「ソンナモノ…。オレニハ当タラン!」
と悪霊は威勢よく言い、素早く右へ左へと体をひねらせながら、赤いビーム弾を一弾ずつ全て避ける。
よけられたビーム弾が次々に悪霊の背面へ流れていく中で、悪霊は晴人に接近しようと右足を大きくアスファルトを踏み込んだ瞬間。
晴人の口元が少しにやけた。
異変に気づいた悪霊は刀を中断に構えた。
がその直後…
ボシュッ
と鈍い音がした。
悪霊は
「…ウゥ…」
とうめき声をあげ、ゆっくりと自分の胴に視線を落とした。
悪霊の胴体に大きな風穴を複数個空いていた。
「オマエ…ナニヲシタ…」
悪霊は言い終えるや否や力尽きたように膝を地面に落とし、そのまま前に倒れた。
その直後に悪霊の空いた穴から青い炎が噴き出し、やがて全身が青い炎の火だるまとなった。晴人は落ち着いた風に
「連射したビーム弾のうち、何発かホーミング弾を打った。その自動追尾したビーム弾にお前は背中から被弾して貫通して行っただけだ」
「ソウカ…」
と聞こえるか聞こえないかの弱々しい声がし、蝋燭に点る火が消えるように悪霊の姿が消滅した。晴人は両手に持った銃をベルトに付けているポケットへしまった。
すると晴人の後方から数回拍手する音が聞こえた。晴人はぶっきらぼうに、
「今日の昼に指令があった通り、階級Bの悪霊を討伐した。討伐点数は何点だ?ディーラー」
「今回のは結構高いねー。そいつは何人もの滅霊師を殺していたんだ。いやーしかし大した者だよ霧生君
は。わたしが見込んだだけある」
口調は賞賛しているようだったが、どこか白々しいものだ。
「俺が倒したのは何点のやつだ」
晴人は“何点”と強調させて吐き捨てるように言いディーラーをにらみつけた。
「そうあせるな。わたしは君に1つプレゼントを渡しに来たのだよ」
とにやりと笑った。
「プレゼント?」
と言いながら晴人は体の向きをディーラーに向けた。
「そうだ。受け取りたまえ」
となにか黒い物体を投げてよこした。晴人はそれを手にとってまじまじと見ている。ディーラーは
「それの使い方は、君の持っている専用マガジンを自動拳銃と同じようにセットし、トリガーを引くだけ
だ」
「そうか…これは…刃の持った武器か。とりあえずありがたくもらっておく」
とジャケットの内ポケットへしまった。
「じゃあこの武器用と今回の戦闘で消費したマガジンを買う」
「そうかい」
と口元をにやつかせて、タブレットをコートのポケットから取り出し、
「まず、討伐点数の精算から始めようか。君が今までに貯めた討伐点数は倒した悪霊の討伐点数は725
点だ。そしてさっき倒したやつの討伐点数は50点だ。そして合計は775点だ。」
「じゃあ20点をホーミングブリットマガジン4つと標準20発マガジンを4つ頼む。」
「まいど~」
と鞄から品物を取り出し、晴人に渡した。晴人はそれを受け取り、ジャケットの外側のマガジンを収納す
るポケットにしまっていると、ディーラーはにやけながら
「最近銃弾の消費が多いのは、君がここ最近、下級の悪霊を逃さずに消滅させてるからかな?前は階級A
やSにしか興味ない風だったのになあ。やはりあのクラスメイト…たしか…白崎さんだっけ?そいつの影響が大きいのか?」
「なんだよ、さっきからやたらとにやけてると思ったら、そんなことかよ…。別にあいつはかんけーね
え。ただ、ああいうのが俺の周りでうろついてるのが邪魔なだけだ。今日はもういいだろ。じゃあな!」
とディーラーに背を向け両手をジャケットのポケットに突っ込みながら歩いて帰っていった。
ディーラーは歩いていく晴人の後姿をみながら、
「やはり君はおもしろい、霧生晴人君。わたしは君を選んで正解だったよ。あの出来事以来、君は進化し続けている。どこまで進化していくのか楽しみだよ」
と呟き、にやりと笑った。
今週から、更新を再開していきたいと思います。
よろしくお願いします。