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ライト・オブ・シャドウ  作者: スラリン
大寒波編
11/11

第九章 大ゲンカと友情と

大寒波編がようやく完結します。

「・・・グレイス、ようやく見つけたぜ。」

氷の扉を砕き割り、ベルクが一言言い放った。その顔は毅然として、気迫に満ちていた。後ろに続くライト、リーフの二人も同様の気迫を放っている。しかし、グレイスは臆することなく、ため息をついて、呆れたように言った。

「これが扉の開け方か?ちょっと見ない間にずいぶん野蛮になったな。」

「うるせえ!なんで街が凍りついたのか、なんでお前やみんなが突然姿を消したのか、なんでお前がこんなとこにいるのか!知っていること全部に答えろ!」

ベルクがかっとなって言い返す。その語気は炎のように激しかったが、グレイスはあくまでも氷のような冷たい対応を崩さない。

「知りたければ、俺を倒せ。『四天王』の一人であるこの俺を。」

「四天王って、どういうこと」

ベルクが言い終わる前に周囲の<物質>を取り込み、気を練り上げていたグレイスが中級氷結魔術を放った。

「<アイス・クレイモア>!」

「があっ!」

叫んだ直後、リーフの足元から氷の剣山が出現し、突き上げられたリーフは高く吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。

「リーフ、しっかりして!」

「グレイス、てめぇ!」

「もう一度言う。俺と戦え。」

グレイスが本気で自分たちを倒そうとしていることをようやく悟ったベルクは、覚悟を決めて剣を構えた。ライトもナイフを順手持ちで構える。リーフも傷ついた体に鞭打って立ち上がり、弓を構える。

「そっちがその気なら、やらせてもらうぜ!ライトは補助を頼む!リーフも無理しない程度に頑張ってくれ!」

「うん!」

「わかった!」

「<アイスウェーブ>!」

グレイスの足元からライトの足元に向かって立て続けに氷の波が押し寄せる。ライトは飛び上がって避けるとすかさず剣技を発動した。

「<スリップアクセル>!」

高速で突進し、すれ違いざまに切りつける。しかしこれだけでは終わらない。この技は、一度繰り出した後、背後からも突進する往復突進技。そして、前方にいるのは今にも<フルスイング>を繰り出そうとしているベルクがいる。

「ベルク!挟み撃ち!」

「わかった!」

「<フルスイング>!」

「があっ!」

挟み撃ちの攻撃を受け、グレイスが吹っ飛ぶ。そこにリーフが更なる追い打ちをかけた。

「<ウインドボール>!」

「ぐっ!」

吹っ飛んだグレイスにさらに風の球がぶつかり、弾け、さらに勢いよく吹き飛び、床に叩き付けられた。ベルクの前に倒れ伏す格好となったグレイスを、ベルクがじっと見下ろした。

「どうする?まだやるか?」

「貴様ら・・・、やらせておけばああああ!」

叫ぶとともに、氷戒のものとは比べ物にならないほどの吹雪を発生させ、立ち上がった。

「手加減すれば調子に乗りやがってええええ!貴様ら全員氷像にしてやる!<ブリザード>!」

「がああ!」

氷のような冷静さはすでになく、悪鬼の形相で攻撃を仕掛けるグレイス。放たれる吹雪はさらに勢いを増し、超低温と暴風に乗ってくるひょうがライトたちを苦しめる。超低温の暴風の中でグレイスは寒がるそぶりさえしないで、むしろそれを浴びようとするかのように両手を上げ、狂笑し、叫んだ。

「あっはっはっは!いい気味だ。これが力だ!抑え込むものではない、さらけ出すこと、ぶちまける事!まわりがどうなったって知ったことではない!これが強者のあるべき姿だ!」

「違う!」

ベルクは、立っていた。二人を守るように、立っていた。これから言おうとしていることを、体で示すように。

「本当のお前は、そんなやつじゃない!力ってのは、守るためにあるんだ!忘れてないぜ。子供のころ、俺がでかい犬に追っかけまわされた時、体を張って助けてくれたよな!それが俺たちが親友になったきっかけだった。なぁ、こんなこともうやめてくれよ、目を覚ましてくれよ。グレイス!」

かすかな沈黙の後、グレイスは一瞬目を閉じ、少し微笑むと、はっきりこう言った。

「チャンスをやるよ。この吹雪の中、30数え終わるまでに、俺のとこまで来て、一太刀浴びせて見せろ。そしたらこの勝負、俺の負けにしてやる。知りたいことを、全部教えてやる。」

「言ったな?・・・じゃあ、いくぜ・・・。」

30、29、28。

無情なカウントダウンの中、ベルクは歩き出す。吹雪も強さを増し、氷のつぶてが頬を抉る。それでも歩き続ける。

27、26、25、24、23。

何度も転ぶ。つまずく。それでも進む。一歩一歩、確実に距離が縮む。

22、21、20、19、18。

視界がかすむ。でも、近づいているのはわかる。ベルクに、苦痛の色はない。笑顔だ。それこそ、ずっと昔に遠く離れた親友に再会するような。

17、16、15、14、13、12。

反対に、グレイスの方には焦燥しかなかった。吹雪に隠れて顔は見えないが、顔は青ざめ、本物の命知らずが自分に向けて特攻してくるような恐ろしい感覚が襲う。後ずさりしようにも、もう壁と背中がぴったりくっついてしまっている。

11、10、9、8、7。

ようやく顔が見える。かすかに見える。手も足も千切れそうだ。頭もガンガンする。感覚なんて、とっくになかった。

6、5、4、3、2。

3メートル、2メートル、1メートル。もうろくに動かすことのできない体。ただひとつ、魂だけが、友のために全てを(なげう)つ魂だけが体を動かしていた。

「とどけええええええええええええええええええええええええ!!!」

ラスト一秒。ベルクの渾身の叫びとともに振られた大剣が力なくグレイスに触れた。

「これでいいんだろ?グレイス・・・。」

呟くと、大剣を手放し、ぐたりとよろめいた。

「ああ、俺の負けだよ。ベルク・・・。」

倒れるベルクを抱き留め、グレイスが答える。そして二人は意識を失い、崩れ落ちた。その顔はまぎれもなく、親友同士が笑いあう顔そのものであった。





まさか1バトルにこれほどの時間を要するとは思わなかった。

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