盗賊たちの身の安全が心配になりました
セーカさんからざっくりと方向を教えて貰って、進むこと三日。
未だ目的地に到達できず。遠くに見えた山にようやく辿りついて山道を登り始めたところだ。
遠い。遠すぎるわ! 魔王さんはなんてとこに召喚しやがったんだ。
だが、お陰で状況についてもだいぶ理解できた。
まず自分の状態について。
空腹、眠気がほとんどない。メインメニューに表示された体力ゲージが時折少し減るが、止まって少し待つとそれも回復する。どうも体力ゲージと疲労等は連動しているようでゲームの都合の良いところまでそのまま反映されているようだ。
睡眠は少し試したが可能だった。しないよりはマシ程度で正直起きたままでもあまり変わらない。
次にアイについて。
実際、彼女の存在そのものが不明すぎるのでこの辺に割いた時間が一番多かった。
まず体力については、俺から魔力を供給されている限り疲労は全く見せない。飲食は可能なのか聞いたところ、可能と回答があった。
こちらの常識について一から説明しようとしたが、例の記憶にアクセスで一通り把握できたらしい。ただし、倫理的な理解が追いつかず、例えば朝起きて挨拶をするのは分かったが、なぜする必要があるかが不明とのこと。この辺のコミュニケーション能力が乏しいのはこれからの課題になりそうだが、まぁ何とかなるだろうからあまり気にしない。
また、彼女が言うには記憶にアクセスとは彼女しか持ち合わせていない特別な能力で、それをユニークスキルと言い、『共有』と呼ぶらしい。その能力は対象が俺とアイの相互間のみだが、記憶を共有できるらしい。
つまり、俺がアイの記憶にアクセスすることも可能らしく、試しに聖剣カラドボルグについて知っている情報を与えるように指示したら『聖剣カラドボルグ』についてとタイトルがついたメッセージが届いた。
メッセージを開くと昔見たwikiの情報や北欧神話辞典に載っていた情報が整理されてメッセージが届いた。
驚いたことに、それは俺が忘れていた情報まで完全に補完されていた。どうやら記憶が新しいものはすぐに呼び出せるが、忘れたものでも多少時間をかければサルベージするように掘り出せるらしい。
『共有』スキル、思っていたのはちょっと違ったが過去に俺が見たり経験した経験を全てアイが取得でき、俺へフィードバックできることや構築できることを考えると相当便利だ。
また構築する能力を彼女は『創造』と呼んだ。やはり、本物を召喚する訳ではなく、自分がイメージしたものを構築する能力の様で、アイが使うと俺の記憶を元に再現する使い方になるようだ。
ただし、完全に再現するにはそれなりに情報量も必要らしく、特に聖剣については実のところ風の刃を出す以外能力は不明らしく切れ味すらも無いらしい。
この能力はアイの成長次第で脅威にもなりそうだ。しっかり教育せねば……。
その他にも『解析』という能力があるらしい。説明を求めたが事象や構造を把握するための能力と端的過ぎる説明が返ってきただけだった。まぁ危害を加える能力でも無いし何かのタイミングで使ってみればいいか。
最後にこの世界について。
実は、セーカさんと別れてから少し後に彼女からメッセージが届いた。この世界と関わるうえで最低限しっておいて欲しいことが整理されていた。ある意味、もっとも欲しい情報だった。
そこには、驚くことが書いてあった。
どうやら、この世界には俺のようなこの世界以外から自分の意思或いは、何者かに召喚された者が多数存在するらしい。何者かに召喚された大多数は昆虫をそのまま大きくしたものや、動物に近いものらしい。これらは、魔物と呼ばれ、この世界の住民に対して敵意しかないらしくこの世界の住民共通の敵として認知されているらしい。
そういう意味では俺がこの世界以外から来たことは伏せた方がいいと一言添えてあった。
またこれらは、一人で簡単に倒せるものから、軍隊が必要なもの、またはセーカさんのような管理者でなければどうにもできないようなものまで様々らしい。もっともセーカさんが倒すような存在は過去に数回しかないらしく、数百年に一度のレベルらしい。
またセーカさんが対応するまでも無いが、そこそこ強力な魔物などが最近巧妙に隠れており、管理者すら発見できず対処しきれていないらしい。これらは出会ったら倒してくれて構わないとのこと。つまり意思疎通不可な敵対者は殺して構わないということか。ちなみに、魔物の場合はARポップ表示や俺のシステムレーダーの色で分かると書いてあったが、そんなところまで把握しているのかよ……。
それ以外にもこの世界の住民でもやはり盗賊など人のものを奪ったり、悪意を持って殺人を犯すものもいるとのこと。その辺は住民たちの法があるから可能な限り逸脱しない程度に対処して欲しいと添えてあった。まぁその法が分からない訳だが。
例えば、目の前に10人程度の男たちが弓やナイフなど手に持ち明らかに敵意を持ってこちらに向かってきたならば、それはこの世界の住民であっても安心してはいけないのだ。
そう当に今がその状況な訳だが。
「こんなところに護衛もつけずに二人で旅とは、世間知らずもいいところだな。まるで襲ってくださいっと言っているもんだ。」
「くくく。確かに。世間知らずの旅人様にひとつ社会を教えてあげないとな。」
向こうは明らかにこちらをカモと見ている。そりゃ若い男女が二人で、向こうは10人。盗賊から見たら明らかにカモか。
アイは彼らを一瞥するなり、表情を変えることなく俺にしか聞こえない程度の小声で、
「殺しますか? それとも殺しますか?」
殺しません。てか、一択じゃねぇか。
初めて襲われた時は、もっと震えるものだと思ってたが正直ここまでテンプレ通りの悪者が出てくると逆に落ち着くのだろうか。あるいは、アイやセーカさんがいるからだろうか。
「ユイトくん。いきなり大変だね。管理者権限で彼らの存在なかったことにしようか?」
などと、セーカさんからチャットで恐ろしい発言が飛び出す。住人たちの法に則れと書いてあったのに、正直言ってることがアイと大差ない。
「えっとアイもいますし、今のところ大丈夫です。」
「うん。危なくなったらすぐに呼んでね。」
コトが起こる前に慌ててメッセージに返事する。ほんと、どこからでも飛んできそうで怖い。
こんな感じで周りに強力すぎる面々がいるうえにイマイチ緊張感が持てない。こうなると襲ってくる彼らの無事が心配になってきた。
「へへへ。お前ら怖くて言葉もでないってか。ヤローは始末するとして、女は美人だな。大事にしてやるよ。」
盗賊の一人が、ニヤニヤしながら近づいてくる。
彼らが下手に手を出して、二人の機嫌を損ねたらどうなるか想像に難く無い。そうなる前に何とかするしかなさそうだ。
マジで、人の気も知らないで迷惑な野郎どもだ。そう思うとだんだん腹が立ってきた。
「黙っていれば、ふざけた事を言いやがって! こっちはどれだけお前らの事を心配していると思っているんだ!」
怒鳴ってみた。無論、襲われているはずの俺から意味不明に心配されてキョトンとしている。知ったことか。
「いいか。俺はここに来てようやくまともな人間と話せると思ったんだ! それを! それをこんな状況にしやがって! どうしてくれる!!」
俺の意味不明ギレに、盗賊たちは困惑している。一方彼女たちから不満な声が届く。
「マスター。一部発言の撤回を求めます。」
とアイ。
「ユイトくん。まるで僕がまともじゃないみたいじゃないか。」
とチャットメッセージがセーカさんから。
「こいつ、気でも狂れたか?」
「落ち着けよ。死ぬ前に、水でも飲むか。」
「俺たち、もしかしてまともなのか?」
と盗賊たち。
彼らが予想もしない俺の発言に困惑は続く。
もう少し不満をぶつけてやりたいが、これ以上言っても埒が明かないので、アイやセーカさんが暴走する前に指示を出す。
「アイ。全員を無傷で無力かすることは可能か?」
「デストロイ?」
「ノーデストロイだ。無傷で無力化がオーダーだ。」
変な言葉覚えるなよ。アイさん防衛する側の立場だよね?
「……承知しました。」
無表情なのになぜか不満を持っている気がするが無視しよう。
アイは俺の命令を受け一番近い男に表情を変える事なく視線を定める。
瞬間アイの肘が男の鳩尾へ一撃。男が声にならない声を上げながら倒れる。カンフー的な動きだ。
他の男たちも早すぎるアイの動きについていけることなく肘、膝、拳を使って同様に無力化されていく。昔見た漫画のワンシーンにそっくり……いや同じだな。
「弱者が群がり、強さを見誤るとこうなる。」
決め台詞まで同じだが、軍服美女が言うと妙に説得力があるから腹立たしい。俺だって言いたいとかそうじゃない。断じて違う。本当だ。
中には吐きながら悶絶している男もいる。確かに外傷なく無力化しているけど、思っていたよりも地獄絵図だな。次はもうちょっと違う頼み方をしようと心に誓う。
アイは、男たちの武器を拾い上げては一つずつ破壊していく。
多分、これで大丈夫だろう。ひとまず、山道を進むように彼らの傍を通っていく。
一方的な攻撃にこのまま諦めてくれるかと思ったんだがどうやら違ったようだ。
「ヤロー、舐めやがって……。」
一人の男が小さな筒のような笛を取り出し思い切り吹いた。すると山道より遥か高いところから何かが飛び降りて来た。
着地した地面にひび割れが発生するほどの衝撃だ。しかし相手は何事もなかったようにこちらをまっすぐ見る。
手元には槍を携えた女性は美しい銀の手甲や胸当てを服の上から纏っている。どうやら比較的動き易さを重視した身なりのようだ。背は俺よりも少し低いくらいか。髪と瞳が紅く見た目はハタチを少し過ぎたくらいの少し幼さが残る美人さんは明らかに盗賊とは異なる風格だ。
どちらかと言えば国を守る騎士に近い印象を受ける。
「タリス。この二人を殺せ!」
蹲りながら、発狂するように叫ぶ男に従うようにタリスと呼ばれた女性はこちらに槍の矛先を向けた。
「どうせ無理だと思うが、もし可能なら私を殺せ。」
アイに鋭い槍を突きながら赤髪の美人さんが憂鬱げに呟いた。何故か上から目線で。