神様に名前をつけてみました
歩く現代兵器で聖剣まで召喚出来ちゃう彼女を簡単に無力化した少女は、何事もなかったように笑顔で先ほどの話の続きを始めた。
「さて、ユイトくん何から話そうか。」
少し、離れたところで必死にもがいている彼女は少しそっとして、今は少女的神様に色々情報を貰おうと心に決める。
だって、抵抗するだけ無駄なら、開き直った方がいいでしょ?
「そ、そうですね。ここはどこなんでしょうか。」
色々教えて欲しいと思ってでてきた言葉が漠然としすぎて申し訳ないが、正直に何が分からないのかも分からない。
「そうだね。まずは、そこからだね。その前に分かりやすく説明するためにユイトくんの知識を借りるね。」
そう言うと、神様はパチンと指を鳴らした。その瞬間俺の正面に俺をより少し大きな光の輪っかが出現した。輪っかは一瞬にして俺の正面から潜るように通り抜け消えた。
「オッケー。これでユイトくんの知識は把握できたよ。本名は、夏凪唯人。年齢は今年28歳のロマンチックな乙女座。会社は限りなくブラックに違いグレーな中小規模のIT企業で、営業から開発、保守も手動でしている。久しぶりに勝ち取った有休にVRMMOをやり尽くそうとしていたのに、この世界に呼ばれちゃったんだね。」
現代知識を通り越して、私のプライバシーがなくなりました。
「合ってます。そしてサヨナラ私のプライバシー……。」
「あはは、ごめん、ごめん。その辺は都合良く切り分けできないんだ。でもお陰でうまく説明できそうだよ。」
そう言って、神様は少し舌を出して笑顔で謝ってくれた。天使か!
「まず、この世界はね、ユイトくんの世界で言うと中世ヨーロッパ程度の文明かな。電気はもちろん、蒸気機関車などの大型移動手段もないの。代わりにそっちには無い魔法があるんだ。つまり、君たちの世界でいうと最もメジャーなファンタジーの世界だね。人間以外にも色々と二足歩行で言葉を話す種族もいる。異なる種族の間から生まれた亜人もね。でも、僕みたいに飛んだり瞬間移動や、結界をサクッとできるのは滅多にいないんだ。だから、現代兵器や聖剣を不用意に出して振り回したら大変なことになるから注意してね。」
急に説明が分かりやすくなったので、助かったけど、やっぱり彼女の攻撃能力や与えられた武器は余程のことが無い限り表に出さない方が良さそうだな。
そうなると、あの物騒な彼女はどうしようか。ひとまず、後で考えよう。
「神様、神様の様な方も他にもいらっしゃるんでしょうか。」
次の質問に移ると神様は少し、不服そうな表情をした。
「ユイトくん、敬語禁止ね。あと僕は、君の世界の神様じゃないんだから、その言い方も気になるな。」
などと、困ったことを言ってきた。
「な、なるほど、では何と呼べば宜しい…...いいのかな。」
「そうだね。ユイトくんはこの世界の住人じゃないから、僕のことは好きに呼んでいいよ。」
本名教えてくれないの!?と言うか、名付けなんてした事無いし、かと言ってこのままだと話が進まない雰囲気全開だ。
あの無言の笑顔は明らかに俺に名付けを待ってやがる。仕方ないので、申し訳ないけど適当につけさせて貰う。
「じゃあ、セーカさんと呼んでいいかな。」
ぶっちゃけ世界と管理者の頭文字とっただけの適当感満載だ。
「せーか? セーカかぁ……うん! 凄く良いと思う!ありがとうユイトくん。これからセーカって名乗るね。それじゃあ御礼にユイトくんに一つプレゼントするね。」
そう言って彼女は、突然両手を広げ目を閉じて静かに語り出した。
「我、世界の管理者権限に於いて、この者に我が祝福を与える。」
瞬間、俺の周りに陽だまりの様な優しく温かな光が包み込む。しばらくして光はゆっくりと消える。
左の手の甲に花びらを何枚も複雑に重ねた様な、或いは雪の結晶を丸みを帯びたような紋章が薄っすら見えた。
「あの、セーカさん? これは?」
恐れ恐れ、聞いてみると笑顔で答えてくれた。
「僕の加護を与えたんだ。この世界に宿る自然界の魔素……魔力や体力の素みたいなものかな。それが、呼吸するように取り入れることができる。分かりやすく言うと、多少の空腹はあるけど、生命維持程度の体力は勝手に補充されるし、もし魔法を使うことがあれば、それは枯渇することは無いんだ。
その他にも、ユイトくんがこの世界の言葉に悩むことや病気の心配することは無くなるよ。それから僕とのコンタクトもいつでも可能になったから困ったらいつでも呼んでね。」
何やら魔王とは別の意味で強大な力を貰った気がする。
「あ、ありがとう。左手甲の紋様がその印なんだね?」
「そうだよ。僕を崇めている人々はその紋章を体の一部に印をつけているから、ユイトくんには冷たくしないはず。」
おっと、さらっと宗教発言でたぞ。それは嬉しい一方で、怖い気もする。敵対関係とかはないんだろうか。
というか、セーカさん崇められる存在なんですね。
「ふふふ、大丈夫。宗教であることは確かだけど、どちらかと言えば星座のようなイメージかな。生まれながらに与えられた加護を多かれ少なかれ皆持っているの。生まれた子はまず、どの神様の加護を貰っているか神官に判断されるんだ。神様の加護は選べる訳では無いから加護による宗派で対立して争うことはないよ。」
俺が訝しげな表情をすると、丁寧に説明してくれた。ちなみに俺のように紋章を体の一部に付けるのも珍しくないことで、敬虔な人は積極的に印をつけているそうだ。神様ことセーカさんは、俺がこの世界で少しで多くの人に助けてもらえるように敢えて分かりやすく見えるようにしてくれた。どっかの自称魔王と違って細やかな配慮ができるいい人(?)だ。
「この世界については他にも色々教えてあげてもいいけど、せっかくだから自分の目で見て確かめた方が楽しいんじゃないかな。僕の加護もあるから、余程のことがない限り命の危険になることもないだろうしね。」
魔王の依頼もあるだろうけど急ぎじゃないなら、確かにそれもありかもしれない。でも、命の危険もなくなるくらい加護って強力なんだ。
「僕が直接加護付与したから危なくなったら分かるんだ、その時は飛んでくるね。」
本人が来てくれるんだ。何だか、美人モデル的防衛魔術さんとやっていることが対して変わらない気がするが、黙っておこう。
それよりも、一番大事なことを確認しないといけない。
「セーカさんは、俺を元の世界に戻すことはできるかな。」
俺の最も知りたいことに彼女は少し困った顔で答えてくれた。
「それは、今の時点ではできないというのが正しい答えかな。僕の力で異世界に転送することはできるんだけどね、時間と場所の座標情報が無いの。その情報が無いと飛ばし先が分からないから帰せないんだ、ごめんね。」
なるほど、帰す力はあるけど情報不足か。セーカさんは謝ったけど彼女に落ち度は何一つない。むしろ情報があれば帰れるということが分かっただけでも大収穫だ。
「ううん、それだけでも大助かりだよ。帰還のための情報はゆっくり探すとするよ。それに魔王に会えば分かるだろうしね。それよりも、セーカさんが最初に出会った人でよかったよ。ありがとう。」
素直な気持ちを伝えたつもりだったが、セーカさんはものすごく驚いた表情していた。
「っ!えっと、どういたしまして!」
なんだろう、急に酷く動揺しているようだけど照れてる? 神様が? まさかね。
「あぁそうだ、魔王についても教えて欲しいんだ。この世界にとって魔王はどういう存在なのかな?」
少し慌てていた彼女は、俺の言葉に少し悩んで言葉選んで話しだした。
「ユイトくん、あのね。僕も魔王のことは知らないんだ。もっと言えば君の知識を得るまで存在すら知らなかったんだ。」
魔王さん。実は無名なのかもしれません。