ファンタジーと現代兵器が戦いました
幼い頃に見た映画で、自衛隊がファンタジーの世界に突入して戦車やらマシンガン、対空ミサイルなどバンバン飛ばして圧倒していたんだけど、この世界だとどちらが強いんだろうとぼんやり考えていました。超美人さんと可愛らしい幼女の戦いを眺めながら。
それは、唐突に始まった。外人モデル激似というか、俺の記憶どおりなら本人と言っても過言ではない彼女は堂々と軍服姿を身にまとい真っ直ぐ少女を睨んでいた。
最早コスプレの域を大幅に逸だし、ハリウッドの女優並みの風格すら与え、俺が審査員ならそのまま何とか賞を与えていいと思った程だ。
そんな彼女の視線の先にいる少女は空のような青い髪と瞳に、白いワンピースを着ており、こんな荒れた荒野よりも野原でピクニックが似合いそうな印象で、優しく微笑んでいる。睨まれているのにその表情をキープできるのは余裕の表れなんだろうか。
世界の神様こと少女は、金髪美女から視線を外さず、微笑みながら俺に語りかける。
「ユイトくん。この子、さっきの防衛術式そのものなんだけど、私敵認定されているみたい。多分、さっき防衛魔術を強引に突破してユイトくんに掛かっている術式を無理矢理解析したのが原因だと思う。
でもね、せっかくだからちょっと性能確認がてら遊んでみるね。あっ一応傷はつけないし、ユイトくんにも巻き込まれないよう結界は張ってあるから心配しないでね。」
笑顔で伝える少女はまるで、少し出かけるから待っててと言っているように語りかける。それに、いつのまにか髪が青からピンクに変わってる。強くなると髪の色変わるとか、そっち系なのだろうか。
俺が返事をする前に、ハリウッド的な金髪の彼女が両手を真横に広げ、何やら唱え始める。直ぐに両手に銃が現れ、二丁銃を少女に向けて構える。
バカな!ベレッタ92の両手持ちだと!
最も有名な銃で世界中の軍隊で愛用されているだけではなく、戦争映画や、警察ドラマ、アニメなど幅広く活躍するするアレだ。見たことあるよね!二丁銃を召喚した軍服美人とか、バトルアクションを含む現代的なファンタジーも好きなんだが狙った対象が少女というのがいただけない。威嚇ならいいんだが。
俺の淡い期待は虚しく、二丁銃からは交互に乾いた銃声が何度も鳴り響く。
しかし、銃口の先にいる少女は変わらず笑顔で立っていた。
銃弾は全て少女の目の前で停止している。これは、少女が話していた結界の類か?
しかし、停止された弾が眉間と心臓あたりに正確に集中しているあたり、あの女の本気度が窺える。
彼女、ガチですね。
ベレッタが効かないと判断するとそれを放り投げ、両手を前に出し、掌を上に向ける。
口元が僅かに動いているが、少し離れたこの場所では何を言っているのかやはり分からない。
数秒後、彼女の掌から何かが召喚された。
ご紹介します。SMG MP5ですね。
命中よりも弾幕優先したサブマシンガンのなかで、
100m以内であれば、一定の命中精度を保たれるのが特徴です。分間500発以上の連射性もあり多人数に対してもなかなかの殺傷能力を秘めており、間違っても一人の少女を狙うものではありません。
あの女それを片手で少女をの周りを走りながら一定の距離を保ちつつ撃ってやがる。
しかも空いた片手で更に何かを召喚しやがった。
ご報告いたします。M26手榴弾、通称レモンと呼ばれ、我が国でも自衛隊に配備されているメジャーな手榴でございます。
それを10m先の少女に投げた。もっと離れなくて大丈夫だろうか?
投擲5秒後に爆発し同時に少女が砂けむりで視認できなくなる。
投げた本人の無事も気になったが、何かの能力で守られているのか元から丈夫なのか全くの無傷だ。
俺はといえばもう少し離れたところでここでも爆風がすごい筈なのだが、そよ風すら感じない。どうやら神様的少女の結界のお陰だと思う。
少女の姿を確認するまえに、彼女は新しい武器を召喚する。
RPG−7(携帯式対戦車擲弾発射器) ……。
人が戦車に挑むときに両手で持って放つミサイル的なアレです。お前マジ何てもの出してんの。
RPG−7を召喚した途端に彼女は砂埃で覆われた少女がいた地点に向けて構えて発射する。
一人軍隊ですね。そのうち、戦車やらヘリコプターまで召喚するんじゃないだろうか。
目標地点に着弾し更に轟音と共に爆発する。
ここでようやく一人軍隊の攻撃が止まり、様子を確認する。
数十秒後、爆風が落ち着き砂埃の先に見えた少女は変わらず無傷で立っている。
あの子、本物や。
しかし、どうやら神様には銃火器等の現代兵器は通用しないらしい。
穏やかな笑顔とは対照的に終始無表情の彼女は、右手を振り上げ手のひらをまっすぐ天に向けて何かを唱える。
先ほどまでは、異なり唱えた詠唱が長く続く。召喚は直ぐに起きず、振り上げられた手のひらの先に風が収束するような現象が起き始めている。同時に放電している音まで聞こえる。
ここで俺は一つの可能性を推察する。
ベレッタ、MP5、手榴弾、RPG-7を召喚した彼女。それはどれも俺がよく知っているものだ。
俺は武器や兵器は多少好きだが気に入ったものをちょっと調べる程度だ。別段詳しい訳では無い。例えば、ベレッタは学生時代にハマったアニメで、RPG−7は最近見た戦争映画で見たかとかそんな程度。というか彼女の姿もまた、俺の記憶だ。
今あげた兵器は、有名ではあるけれど、最強と言われたら違うのではないだろうか。これらの兵器は、どちらかと言えば俺の『記憶』の中では最も好みな武器で印象に強く残っている。ベレッタ92の2丁持ちとか、当にDVDボックスまで買ったアニメの主人公が良く見せるシーンだ。
そんな俺の記憶とリンクする彼女が召喚する次の武器。
恐らくそれは現代兵器と比べると随分と原始的な形をしているにも関わらず、存在自体がファンタジーそのもの。
そんな推理の答え合わせをするように、彼女の掲げた掌から収束する風と放電が徐々に強まりやがて、光が走りながら一つの剣が召喚された。
聖剣カラドボルグ
マジか。あの女、聖剣すら召喚できるのかよ。
真っ先にメニューの武器覧を確認する。カラドボルグはそこに存在したままだ。俺の所有しているものを直接呼び出した訳ではなさそうだ。別物か?
彼女が聖剣を召喚したときピンク髪の少女の余裕が初めて消えた。
軍服姿の美女が、聖剣というミスマッチな武器を片手で上にあげたまま真っ直ぐ振り下ろす。
ミスマッチ萌えだ。そうじゃなくて、あれは本当にマズイやつだ。
振り下ろした瞬間、巨大な風の刃が少女を襲う。
少女は横に飛ぶように避けた。というか飛んでいる。へぇ飛ぶんだ……。
聖剣カラドボルグから容赦なく風の刃を繰り出し続け、最早、伝説の剣を完全に使いこなしているように見えた彼女に対し、空中で素早く避け続ける少女。上下左右を自由に飛び回り、時には瞬間移動したりしている。何のアニメだこれ。
「驚いたね。聖剣まで召喚できるんだ。ものすごく興味深いけど、そろそろ終わりにしないと色々とまずそうだね。」
神様は、そう言って片手を彼女に向ける。瞬間、聖剣をブンブン振り回していた彼女の動きが止まる。
「そのまま少しだけ、大人しくしていてね。」
神様は、そう言って俺に向かって歩み始める。
後ろで、金髪美女が必死に動こうと苦悶の表情を浮かべているのが分かる。美人が台無しだ。
「さて、ユイトくん。今度は君の番だね。」
お願い神様、優しくしてね。