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武器がチート過ぎて使えせんでした

 オッス、おらユイト。腰の低いメッセージを送りつけた自称魔王に強制的に召喚されたしがないサラリーマンさ。


 自己紹介も兼ねた経緯を説明すると、時は少しだけ遡り三十分前、 二十八歳独身彼女無しの俺は、今日待望のVRMMOサービス開始日を心の底から待ち望んでいた。久しぶりに勝ち取った有給と土日の計三日間を朝からゲームに没頭すると決めていた。


 学生時代からハマって危うく卒業し損ねるくらい大好きなゲームの続編だ。

 他にやる事はないかと疑問を持つ者もいるだろう。だが、聞いて欲しい。中肉中背で身長も日本人平均を維持し、顔だっては決して悪くないと自負しているんだが、残念な趣味のせいか友人は少ない。


 よく話す友人と言えば、オンライン上に存在する年齢どころか、男か女か不明なやつばかりだ。……本当に友達かこいつら?


 プライベートでは悲しいくらい邪魔する者は誰もいないが仕事は別だ。

 それ、今確認する必要あんの? と言うクライアントからの質問から始まり、それこの前、最終仕様としてフィックスしたよね! 頼むから気軽に思いつきのアイデアへ変更したいとか連絡するのマジ勘弁! 的な連絡は日常茶飯事で、さらにシステムに障害が起きようもんなら、休みだろうが夜中だろうが関係なく電話が鳴り響く。


 入社から五年が経った今、仕事だけにはモテ期な訳で今日から三日間はこのゲームへ捧げると三カ月前から決めていた。 だからスマホもオフなのは言うまでもない。許せ。


 発売延期のお知らせがゲームメーカーのサイトへ出る事三回。絶望と怒りの繰り返しだった。だが今日から三日間だけは何者も邪魔させない。させるものか!


 食料とペットボトルも準備済みで、カップ麺やら固形タイプの栄養補給食品が麻雀卓に代用できるコタツ机の上に散乱している。

 興奮が冷める気配がないまま、ディスクを取り出しゲーム本体へ収める。この日の為に用意した最新のVRゴーグルを装着する。

 他者が見ればこのニヤニヤが止まらない姿はどう見ても変態だったと自覚している。まぁ寂しく一人なんだけど。


 如何にもファンタジーな長いオープンニングをじっくり堪能し、いざコントロールのスタートボタンを押す。

 キャラクターは何と無く自分似せるのは何時もの事で名前はカタカナ表記で自分の名前、ユイトと入力する。自分がファンタジーに溶け込む感覚が好きなんだ。


 ゲームが始まる。どうやらスタート地点は村の入り口に立っていた。村の入り口の看板を注視すると、ARポップが表示され『始まりの村』と書かれていた。

 見たい対象に注視すると勝手に説明されるのは前作と同じだった。


 関心しながら、視界の端にあるメニューボタンを押すとアイテムやメッセージ、スキルなど表示されている。前作とあまり変わらないので直ぐ馴染みそうだが、ゲーム会社が手を抜いたじゃんないかと邪推する。

 当然、アイテムやスキルは空欄だったが、メッセージ欄には二通届いていた。一通目はゲーム開始おめでとうと言いった感じの内容でゲーム会社から配信されたものだった。散々待たせて、自分でおめでとうは無いと思うが、デスマーチの中、必死に開発している彼らを想像するといたたまれない気持ちで一杯だ。これ以上邪推するのは野暮だ止めておこう。


 もう一通は件名が無題だった。何だろうと思い、無題のメッセージをタップするとそこには首を傾げたくなる「あの手紙」の内容な訳だ。


 手紙を読み終えた瞬間、突然画面下中央に表示されたログウィンドウからメッセージが流れ始めた。


 ー解析を開始します。……座標を把握。対象の状態を把握。システムの構造把握。

 ー座標固定完了。召喚を開始します。……召喚を終了しました。

 ー対象の状態を確認します。……正常な状態を確認。

 ーシステムUIを対象へ展開します。……正常終了を確認。

 ースキル付与を開始します。……正常終了を確認。

 ー防御魔術を展開します。……正常終了を確認。

 ーアイテム格納を開始……………………格納中………格納中………格納終了。正常終了を確認。


 意味不明なシステマチックな音声を聞いていると、不意にVR画面が真っ黒になった。停電? 慌ててゴーグルを外すと、そこは見知らぬ見渡す限り荒野だった。


 今迄で自宅に居たはずなのに、何の冗談だ? 余りに異様な光景に手元に外したはずのゴーグルをまだ装着しているのではと錯覚する。

 多分、五分くらいだろうか。混乱していた為、VRゴーグルを着けたり外したりを繰り返していた。荒野で最新VRゴーグルを装着したり外したりするのはどう見てもマヌケだが勘弁して欲しい。


 何処から「ドッキリ! 大成功!! 」の看板を持った人が来るのか期待したが、近くには、人が隠れられるような所は何も無い荒野だ。そもそも有名人でも無い上にそんな友達はいない! ……寂しい。


 さらなる異変に気づいたのはその時だった。浅い呼吸でぼんやり少し先にある枯れた木に視線を投げていたら『木』と見馴れたARポップが表示される。木そのものは問題ないんだが、手元には外したVRゴーグル。眼前に表示されるARポップ。


 『システムUIを対象へ展開します。……正常終了を確認。』


 そんな言葉が脳裏に過る。システムUIとはゲームで使用していたユーザーインターフェースの事か?

 案の定、視界の端にはメニューボタンが薄っすら見える。

 それを操作するコントローラーは無いので戸惑ったが、動かすイメージをしてみたら、動いた。

 メニューボタンを押すイメージ意識すると反応し、右端からステータスやらメッセージなど各種項目が表示される。


 俺はおもむろにメニューのメッセージ欄を開く。無題のメッセージ一通だけが残っており、自称魔王のメッセージをもう一度読み始めた。


そして、現在。ただっぴろい荒野で俺はもう一度だけVRゴーグル着けてみた。



 信じ難いし、信じたく無いが、俺はどこか違う世界へ飛ばされたらしい。少なくとも自宅から強制的に移動されたのは確かだ。ちょっとだけゲームや夢の可能性を捨てきれ無いのは精神衛生面を考慮してだ。


 しかし何も無い。何も無いよっ! ホントだぜ! びっくりだ!

 荒野には自分以外の生き物が確認できない。

 外敵はいないが、助力者もいない。後はまだ把握していないメニューから何か情報得るだけだ。


 メニューから再度メッセージを確認したが、自称魔王様のメッセージはどうやらシステムメッセージと同じ仕様らしく返信ができなかった。

 助けを求める割に情報が足りなさ過ぎる。件名が無題なのは目を瞑るにしても、何処に行けばいいのか、何をしたらいいのか何も無い。


 本当に助けてほしいのか?


 しかも魔王を助けるという事は、俺は悪者になるのか?

 ここで正義について考える気にもならないし、分からない事が多過ぎるので、この件は保留にしよう。そもそも何処までが真実かも分からない。


 メッセージを閉じて自分のステータスを確認する。

 名前は、ユイトだ。召喚前に作成したキャラクターが十分の一サイズで表示されている。服装は同じなんだけど、顔も変わっているんだろうか? 鏡が欲しいな。

 レベルとステータスが表示できる桁数全て九が並んでいる。

 正しい情報ならカンストしているが、それを確かめる術は無いし強さの尺度も分からないのでこれも保留。


 続いてアイテムを確認する。ゲームで確認した時はは空欄だったが、今は膨大なアイテムが表示された。

 アイテムはジャンル毎に分けられているのも前作のとおりだ。ひとまず武器から確認していく。


 確認していくと聖剣、魔剣、妖刀、神槍、魔銃など見てるだけで危なかっしくてどう扱っていいのか分からない物が多い。攻撃補正値がどれもカンストしている上に数字の隣に上矢印が付いている。 これ、数値上限を超えた事を表しているんだと思うんだ。


 試しに、一つ聖剣カラドボルグたるものを選び装備する項目を選んでみた。なんか中二病を患っていた頃に神話か何かで見たことがあって凄く憧れていた。聖剣って言えばエクスカリバーだろ? だけどそれって王道過ぎない? やっぱりさ、皆が選ばない通と呼ばれたいじゃん。とか考えていた。


 ホント、通じゃなくて痛だよね。思い出すと心のダメージを負いそうだ。

 いかん、此処で倒れても教会へ運んで復活の呪文を唱えてくれる方は皆無だ。


 気を取り直して、メニューを選び、装備を選んだ瞬間手元に眩い光を放った剣がでてきた。


 おぉーファンタジーきた!


 片手で持てる直剣だ。聖剣という割にシンプルな形状で、某有名RPGゲームで最初に勇者が使うようなファンタジー好きなら誰でも一度は見たことあるような、何の変哲も無い『THE 剣』だ!


 ただの剣と違うところは、刃の周りを十センチ程度の青い電気的な光が不規則に放電しているような音をたてている。何か、変なところだけ聖剣っぽくて中途半端だ。

 

 思った以上に軽かったカラドボルグを試しに思い切り振り上げ、振り下ろしてみる。


 いつだって、事件は突然起きる……。


 その瞬間振り下ろした先から身の丈五倍くらいあるかと思われる風の刃っぽいものが真っ直ぐ飛んでいき目算で五百メートルほど先にある百人乗っても大丈夫そうな大岩が真二つに割れる。


 数秒間フリーズしていた俺は、何事もなかったように無言でメニュー操作で聖剣を装備から外しアイテム欄へ戻す。瞬間、カラドボルグは手元から消えた。


 自称魔王のアホは何てものを渡しやがった。


 他の武器も見たが、どれもカラドボルグと変わらないような尊大で大げさな説明が書いて有る。元中二病患者だった俺が当時の俺に渡せば泣いて喜びそうだ。


 だが、考えてみて欲しい。どこから来たかもよく分からない異世界人がいきなり聖剣、魔剣を振り回す。彼が戦った後にはそれらの武器によって破壊の爪痕を残す。そこで彼がヒーロー扱いされるはずが無い、想像しただけで分かる。どうみても彼が魔王です。本当にありがとうございました。


 現実世界に置き換えて考えて欲しい。

 「今度、海外旅行行くでしょ? 心配だからSMGサブマシンガン買って鞄に入れておいたから、何かあったら使うのよ?」


 使えません。持っているだけで犯罪です。

 こんなもの死蔵だっ!


 威力が低い物を見つけたと思ったら即死付与とかアホかと。

 どの装備も悪目立ちする上に、強力過ぎる。こっちの身の安全が確保出来たとしてもこちらが加害者にしかならない。


 この分だと、防具、所持品確認するのが怖くなってきたよ。

 こんなの装備して歩いていたら間違いなく俺が倒される側だよ。むしろここはこんな武器が無いと生きていけないような世界なのか?


 いかん、早く誰かと会って情報が欲しい!

 マジで誰かいないのか? というか何処に行けばいい!


 自称魔王から与えられたアイテムのせいで再びパニックになったとき視界の端にあるチャットウィンドウにメッセージが流れたことに気づいた。

 

 「???????G???ゆ??????????????」


 文字化けしてた。

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