ファンタジーの身分証明書はとても綺麗でした
酒豪で酒乱なタリスさんが再び寝落ち始めたタイミングで、俺は手際よくお開きを宣言した。
アイに鍵を一つ渡し、タリスさんを部屋に運ぶよう頼む。
セーカさんは帰るようで、二人を見送っている。
「そうだ、ユイトくん、忘れないうちに渡しておくね。」
セーカさんがそう言って二枚の銀で作られたカード渡してくれた。手のひらに収まるほどのカードにはセーカさんから加護を与えられた時に俺の左手の甲に施された紋章と同じ物が描かれており、構成されている。さらに、右上隅には青い小さな宝石が埋め込まれている。セーカさん曰く魔石と呼ぶ青い石が特別なもので本人の魔力にのみ反応するらしい。
「それは、僕を信仰している教会にお願いして発行しでもらった物で身分証明の様な役割を果たすから、持っておいて。できれば最初に渡したかったんだけど、教会の職人さんによるお手製だからちょっと時間掛かってたんだ。」
受け取ったカードの一つが俺の魔力に反応する。
青い魔石が仄かに光っている他、花びらを重ねたような紋章は、一枚一枚が異なる色の光が波打つように絶え間なく静かに輝く。
彩りどり溢れた幾重にも重ねられた花びらが風で静かに揺れているようでとても綺麗だ。
穏やかに輝く紋章をずっと見ていられそうだ。まぁ身分証明書なんだけど。
反応していないもう一つがアイのカードのようだ。明日にでも渡しておくか。
「ありがとうございます。この世界の身分証明書は凄く美しいんですね。とても気に入りました。」
「えへへへ。良かった。きっと一生懸命作ってくれた教会の職人さんも喜んでくれると思うよ。」
身分証明書一つ作るのも大変なんだな。まぁここまで特殊な加工もされていれば偽造も無理っぽいし、いつか見学してみたいな。
「そうだ、セーカさんちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど少し部屋に寄って貰っていいですか。」
「ユイトくん、僕みたいな可愛い少女を部屋へ連れ込んでどうする気!?」
セーカさん、貴女が悪ノリすると洒落にならないのでマジ止めて下さい。話が拗れる前に進めよう。
「盗賊がタリスさんにかけたギアスについてどうしても確認しておきたいことがあります。」
俺の一言にセーカさんの表情が僅かに変わる。
「良いよ、ユイトくん。その件は僕も気になっていたんだ。」
俺とセーカさんは場所を部屋へ移し、気になっていたタリスさんのギアス化された状態について話しあった。俺は先ず自身のユニークスキル術式化によって覚えたギアスについて知っていることを話した。
俺が理解したギアスとは、強制的に相手を使役する魔法。術者から離れすぎると命を落としてしまう。
ただし悪いことばかりでは無く、術者から魔力の供給を受け取ることもできるため、現在タリスさんは、アイと同様俺から魔力を受け取ることが可能な状態だ。
ここまでは問題ない。
問題なのは、何故盗賊がタリスさんをギアス化に成功できたのかという事だ。
ギアスは自分よりも実力が同等以上の相手には成功しない。俺のステータスがカンストし、かつタリスさんのギアス化が不安定な状態だったから俺は成功したのだと思う。
まともな状態のタリスさんにギアス化は余程の実力者以外不可能なはずだ。
俺がギアスについて思ったことをセーカさんへ伝えると、セーカさんの回答は事態をさらに謎を深める。
「ユイトくんの言っていることは間違いないよ。
でもね、タリスくんがギアス化される筈が無い理由は他にもあるの。
龍族はそもそも身体能力が高いだけでは無く、さらに強化させる魔法を使うことが多いんだ。加えて、彼らは魔法抵抗の能力値が例外なく高い戦闘に特化した種族なの。
つまり、その中でも実力者になるタリスくんが普通に考えて状態異常に陥るはずがないんだ。」
つまり盗賊の実力、タリスさんの実力、龍族の種族特性、どれを考慮してもギアス化が成功するのは有り得ない状況と言う事か。
「一体何が起きているんでしょうか。」
「僕がこう言うのは無責任だけど、分からない。でもね、裏で手を引いた誰かがいるのは間違いね。僕もこの件については調べてみるね。」
この後セーカさんと簡単に方針を話し合い、彼女は帰路に着く。
部屋出る前に、セーカさんがふとこちらを振り向き、何時もの笑顔で語りかけてきた。
「そう言えばね、ユイトくん。僕大切なものを手に入れたんだ。」
何時もの笑顔なのに、何時もとはどこか違うセーカさんがいる。初めてメッセージで語りかけたてくれたような穏やかな感じかな?
「良かったですね。何を手に入れたんですか?」
「えへへへ。内緒だよ! おやすみなさい。」
そう告げて、セーカさんは照れながら手を振り部屋を出ていった。
最後だけ見ると、普通の少女なんだけどなー。
そんな事をぼんやり考えると、アイからメッセージが飛んできた。
「マスター、ロリータ系がお好みですか?」
この日からしばらく、俺はアイへ共有スキルによる記憶へのアクセスを禁止した。




