その七
目の前はまっくらで、足掻いてもどうしようもない。
ただただ落ちていく。
いつまで、どこまで落ちていくのか。そんな風に考え始めた頃。
内臓が上へ引っ張られるような感覚に目眩を覚えながら、俺は地面へと軟着陸した。
草だ。緑の匂いがする。少し湿った、雨の後の草むらの匂い。
見える。まっくらだった視野はすっかり復活している。
草木生い茂る大自然。これはもしや、噂に聞くジャングルというやつかな?
陽の光も満足に届かない地上は、薄暗く、途端に寂しさを覚える。
「つかどこ…ここ」
独り言は森の奥へと吸い込まれ、消える。
答えるものは誰もいない。
そう思ったが、意外にも答えるものはすぐ近くにいた。
『ようこそ!フロレトリノへ!』
甲高い声が静寂を裂く。
足下から聞こえてきた声は、間違いなく俺へと話しかけてきていた。
見下ろすと、そこにはシュミの悪い髑髏を模したアクセサリーが。
鈍く光る眼窩が、その声に呼応しているように見えて、背筋に寒気が走った。
『歓迎します!客人!まずは自己紹介をば。ワタシは貴方をガイドする妖精です!以後よろしく!』
妖精を名乗る声は、底抜けに明るく、目を閉じて聴けばにぱーと笑う美少女を想像できた。なお実際は髑髏である。
いやいや、そうじゃない。
「妖精?なにこれ、え?なに、ドッキリ企画?」
どういう仕掛け? 髑髏のアクセサリーにはマイクなどの機械は付いてないように見える。
『これは現実ですよ。しかしながら、貴方が今まで生きていた現実とは違う、別なる現実と言いましょうか。そう、貴方にわかるように言うなれば――異世界』
わけがわからない。いや、言葉の意味それそのものはわかるが、頭が理解することを拒んでいる。
つまり、妖精サンいわく、これは夢でもドッキリでもない。俺が今まで生きていた世界とは異なる世界である、と。
否定の言葉が口のなかでまごつき、いやでももしかしてと思考までもたつき始めたその瞬間。草むらひとつ隔てた向こう側を、おびただしい数の足音――それも人のものではありえない荒々しい音が響いた。
恐怖が込み上げるなか、硬直してる間にその足音は遠くへと去っていったようだ。が……。
『……それでは自己紹介の続きですが!』
「いやいやいや!ちょちょっと、ちょっと待とうか!」