活動開始
「ああああ!!」
口裂け女に無数の斬撃が走り、そこから雷が四方から直撃する。呪力で作り出された属性はあやかしの天敵なのだ。もちろん水相手に火を使うのは不利になる。
「おの゛れえええ!」
「おっと、まだ生きてた」
抱き留めていた遥香を背中にやり、一枚の札と短剣を出す。
「封印術、鎖縛牢」
すると札が反応し、書かれている文字から鎖が打ち出され、口裂け女を拘束し、動きが止まる。開斗は素早く短剣を突き立てた。
「武器に封印する。言い残すことはあるか?」
「わたしは、、、ここでは終わらない、、!」
「ん?」
口裂け女の額に奇妙な魔法陣が現れる。
「私は、、あの方のためならこの体も惜しくない、、!ふふふ、、ああ、ご主人様、、、愛しております、、」
「まて!ご主人様ってー」
開斗の問いも空しく魔法陣から発せられた光が口裂け女を包み、塵に変えた。すると主のいなくなった空間はその力を失い、収縮していく。
「くそっ!」
開斗は気を失った遥香と荷物を抱えて、猛スピードで出口を飛び出す。それと同時に隠形空間が消滅した。
「ご主人様って、、、。いや、んなことないか」
討伐が困難なほど強い故に封印することを指定されたあやかしがご主人様と言わしめる人物は一人しか思い浮かばない。しかし開斗はそこで考えるのをやめた。調査は組織がやるだろうし、その人物も開斗自身が手を下し、もうこの世にいないからだ。それに、面倒くさい。
「ん、、」
目を開けると映り込んできたのは見慣れた遥香の部屋の天井だった。
なぜ寝ていたんだっけ、、と思考を巡らす。まず帰っている途中に口裂け女に遭遇して、戦ったけど重傷を負い、とどめを刺されそうになったところに開斗が駆け付けてくれてー
「ッ!!」
そこまで考えが至ったときにがばっと体を起こす。薄く感じる傷の痛みに顔をしかめながら周囲を確認する。いつの間にか自分は着替えさせられてて、傷だらけの制服はハンガーにかけてあった。そしてすぐに時間を確認する。
「はあ、、、やっちゃった、、」
時刻は朝九時三十五分。日付も翌日で学校も始まっている。昨日は五時過ぎに戦ってしばらく逃げ回っていたので時間は把握していなかったが、おそらく十二時間は寝てしまったようだ。ベッドの隣にある椅子の上には治癒術の札ー呪符が数枚置いてあった。どれも使用済でそこに書かれている文字は薄く色褪せていた。それに毛布も置いてある。おそらく開斗がつきっきりで手当てしてくれたのだろう。そのことに数分間、羞恥に悶えていた。すると不意にドアが開けられ、声がかけられる。
「おや、目が覚めたのかい」
立っていたのはこの長屋を管理するおばあさん。通称、さよ婆だ。とても気さくで優しく、遥香がここにきて一番に打ち解けた人だ。
「う、うん。さっき」
「そうかい。それはちょうどよかった。朝ご飯を持ってきたよ」
「ありがとうございます」
お礼を言いながらお盆を受け取る。メニューは少量のご飯に味噌汁、卵焼きとシンプルなものだった。病み上がりということで気を使ってもらったのだろう。
「そういえば先輩は?」
「ああ、あれならあんたのけがを治した後にあくびしながら寝室にいったよ。朝はあたしがたたき起こして学校にいかせたよ」
「あ、ははは、、いつごろまで起きてたんですか?」
「んーそうさねえ、もう三時は過ぎてたと思うよ」
「そうですか、、、はあ、私もまだまだ未熟ものです、、」
「なーに言ってんだい。あんな強敵にあって生きてることが奇跡だよ。あいつが規格外なだけさ」
「はは、、」
さよ婆の辛辣な物言いに遥香は愛想笑いを浮かべるしかない。なにせ開斗と勝負して勝てるのはおそらく片手の指の数ほどもいないだろう。それほどあの先輩は規格外なのだ。
「っくしょん!」
一限目の休み時間に開斗は大きなくしゃみをした。今日は珍しく髪を整えている。
「どうした?風邪?」
「いや、どうだろうねえ」
開斗は鼻元をぬぐいながら一日の授業を終えて終礼からも解放されると、開斗は足早に学校をでてある場所に向かった。十五分ほど歩くと目の前に十二階建てのビルが見える。はたからみればただのオフィスビルだが実際は違う。ここはあやかしを祓う陰陽師の怪異事件専門組織、GHOSTだ。れっきとした省の一つで、他からは『幽霊部署』なんて呼ばれている。ためらうこともなく、開斗は中に入り受付に向かう。
「すいません」
「はい、なんで、、しょ、、う、、」
受付のお姉さんの言葉がとぎれとぎれになり、はっと目を見開く。
「緋神くんだよね、、?」
「ども。復帰令がでたんで十条さんいます?」
「えーとね、ああ、まだ七階の会議室で会議があってるけど、私が連絡するから行っていいよ」
「ありがとうございます」
軽い会釈の後、開斗はエレベータにのり、七階にいく。ほどなくして七階に着き、ドアが開くと目の前に三人の男がいた。その内一人には見覚えがある。向こうもすぐに思い出し、こちらを睨む。
「なんでお前のような分家のクズがここにいる」
「いや、呼び出しかかったからな。いつまでも引き籠ってないで馬鹿どもの相手をしろってな」
「な、貴様!」
拳が飛んでくるが開斗はもうすでに三人の背後にいた。
「そんなに勝負したいならついてこいよ。練習場借りようぜ」
「いいだろう」
そうして開斗と男は目の前にある大会議室の戸を開ける。
「会議中失礼」
するとその場にいた開斗をみた上役たちは歓迎の視線を向けるもの、去れ、という強い拒否感を感じるものと反応は様々だった。
「やあ、緋神くん。久しぶりだね」
「お久しぶりです。十条総務官」
「まあ、硬い挨拶は省いていこう。連絡は通ったみたいだしね」
「ええ。ま、手土産と言っちゃあなんですけどこれ」
開斗は懐から取り出した短剣を机に置く。
「近日、多数の犠牲者を出したあやかし、口裂け女を封印してきたんで使ってください」
『な、、、』
上役から驚きの声が上がる。
「ふむそれで練習場を借りたいと。よかろう、すぐそこの第二練習場を使いたまえ」
「話が早くて助かります」
場所を移し、第二練習場。
「人、多くね?」
第二練習場のギャラリーは人であふれていた。どちらにも声援が投げかけられる。
「ふん。貴様が恥をかくには丁度いい人数だ。緋神」
「はあ、相変わらずプライドが高いねえ、なあ氷室」
「挨拶はすんだかね?では私が立会人となり、決闘を認める。はじめ!」
総務官の声と同時に双方は己の呪装を呼び出す。開斗の呪装は長刀、氷室の呪装は片手直剣だ。二人は剣を構え、間合いを測る。(久しぶりだな。この感覚、この高揚感)
「ハアッ!」
先に仕掛けたのは氷室だった。鋭い二段突きを苦も無く交わす。そのあとも氷室の攻撃はかすりもしない。
「っ、、ふっ、、くそ!」
「あ?挑んでくる割には一年前と変わんねえぞ」
「黙れ!」
怒号と同時に氷室は大量の呪力を練り始める。すると周囲に冷気が漂い、あちこちに氷の槍が生成される。本来、呪符なしでは属性を含む術は発動できないが、修練を積み、一定の高みに達することのできた者のみが己の心意で術を行使できる。
「くらえ、氷華麗刃!」
無数の致死の威力を秘めた氷の刃が開斗に降り注ぐ。
『おいおい、やりすぎじゃないか!?』
『あれ食らったら死んじまうぞ!』
ギャラリーは氷室の攻撃に驚くが、ここでの決闘はあまりにもひどいときにしかストップはかからない。
「さあ、見せてみろよ!前のお前と今のお前を比べてやる!」
このような攻撃は開斗が苦手とするタイプで以前はいつも苦戦していたが、今回はー
「雷鎧、天竜具足」
よけずに、雷の膜で全身を覆う。他人には某伝説の戦士が纏う金色のオーラに見えるだろう。そして開斗の行動を見た氷室は激高した。
「なめるなあああ!!」
そして氷の刃があちこちに着弾し、文字通り氷の華を咲かせる。この術は着弾すると大きな花の形状に変わり、花びらの一枚一枚が、突き出される槍になる二段構えの術だ。そしてその中を雷を纏った開斗はかすり傷も負わずに、悠然と進む。
「ま、まま、まさかそれは、、、それが緋神一族の、、!」
「知ってるなら説明はいらないな。ほら行くぞ。せいぜい耐えてくれよ」
そうして開斗は一歩踏み出すそれだけで氷室の背後に立っていた。
「なっ!?」
「疾風迅雷・連鶴」
目で追えない速さでの移動と、連続斬り。氷室の術の発動速度では到底間に合わない。そしてまさしく神速の全方位からの神速の十五連撃で氷室は力の差を痛感しながら意識を手放した。
「そこまで!勝者、緋神開斗!」
『おおおおおお!!』
『まじで!?』
『あの氷室に勝ちやがったよ!!』
『すげえ!』
会場が湧く中、ひときわ大きい声が響く。それは十条総務官の声だ。
「諸君!ここにいる緋神君は、ここの最高戦力の一人だ!わけあっていままで活動を休止していたが、本日からまた復帰することが決まった!快く迎えてやってくれ!」
『おおおお!?』
素直に喜んでいいのかわからない歓声が響く。
「はあ。よく言いますよ。遥香の救出に向かう条件が復帰とか」
「まあそういうな。今の世では強いものが一人でも多く必要なのだ」
「ったく。めんどくせえ」
こうして開斗は正式にGHOSTに復帰した。
「いつまでもひきずってはいられないからな、、、」
更新は不定期気味になりそうです。よろしくお願いします。