地獄絵図
その悲鳴は一人ではない。
幾つもの声が重なりあっている。
少年は悲鳴の方へ森を走り抜ける。
「昼に追い返された村と同じ方向。いったい何をやっているの」
サーラも少年に続いて精一杯森を駆け抜けていく。彼女に目もくれないで走る少年がみるみる小さくなっていく。彼女が少年に追い付いたときには肩で息をするほどに疲れていた。
「サーラ。あそこだ」
村を囲う木の壁に張り付く少年は、彼女にいち早く村の現状を知らせようと指であそこを見ろと指示する。
フラフラしながらも彼女は少年のように壁に張り付き指差す方を見つめた。
「お母さん!! お母さぁん!!」
「食料を早く!!」
「助けてぇ!! いやだぁあ!!」
「子供を返してぇ!!」
地獄のような景色だ。
村の中心を境に人間とエルフで区分けされていた。網で敷地を囲う人間たち。しかし家畜をエルフ側に分け与えず細くなっていく森の民の思考は低下し、あげく村を出ようとした民は人間たちに刃を突き立てられた。まともな判断が出来なくなったエルフに悪魔の言葉が告げられる。
「子供を差し出せば食料を分け与えよう。1匹300グラム。女なら500グラムだ」
子供たちは恐れた。たった一言で子供の体を抑えつけ人間に供物のように与える民が出てきたからだ。
異常。
そんな言葉で片付けられないほどの所業。自身の子供を授ければ他の子供を捕まえにいく。
「いやぁ!! 痛いっ!! ママァ!! 助けてぇ!!」
「やめてぇ!! 娘に手を出さないでぇ!!」
境の近くにいた少女が男に髪を掴み、ひき引きずられていく。男は完全に理性を失っている。まともではない、少女の母親の声などひとつも耳に入っていない。泣きつく母の顔に蹴りをいれ気絶させた。
「おらぁ!! ついてこいガキ!!」
「ママァ!! ママァ!!」
「もう腹が限界なんだ。俺は生きるんだよぉ!!」
サーラはそんな同種をみて黙っていられなかった。腰に携えた短刀を握りしめ、今すぐ人間たちを切り刻みたい。だがそれを少年の腕が遮った。
「サーラ。いったいどうするつもりだ? 」
「決まっているじゃない。こんなこと人のやることじゃないわ。すぐにやめさせないと」
「サーラには、関係がないだろ?」
関係がない。
その言葉に彼女は怒りをぶつけた。
「どういう意味!? こんな状態を見過ごしてまともでいられる方がおかしいでしょ!? 彼らは飢えで理性を保てていないわ。だからあんなことになるの!! 子供を売っているのと変わらないわ!!」
「だからと言って、今サーラが出ていったとしてもなにも変わらない」
彼女とは裏腹に少年は酷く落ち着いていた。その眼差しはどこか遠くを見ているような気がして、それに苛立ちを持った彼女はもう止まることは出来なかった。
「いい加減にして!! なんなのその見透かしたような眼は!! そんなこと、やってみなければわからないじゃない!! こんなところで何もしないよりマシよ!!」




