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08

そうして窮屈な日々を送っていたある日、最悪の事件が起きた。絶対に起こってはいけない事件だ。受験生の真衣が突然とんでもないことを言ったのだ。

「私、高校行かないから」

 えっ?と清司も美代も驚いた。全く予想もしていなかったことだった。

「どうして?真衣、受験勉強がんばってたじゃない。どうして行かないの?」

 真衣は目を合わさずに言った。

「なんか馬鹿馬鹿しくなっちゃって」

「馬鹿馬鹿しい?」

 今度は清司が声を出した。聞き捨てならない台詞だった。

「受験が馬鹿馬鹿しいなんて、真衣は何を考えているんだ。ちゃんと受験をして高校に通って、立派な大人になるって言ってたじゃないか」

 すると真衣は小さくため息を吐いた。

「私、もう立派な大人にならなくてよくなっちゃった。自分の好きなように生きていきたい」

「だめよ」

 すかさず美代が口を出した。

「いろんな先生から将来が楽しみだって言われてたじゃない。たくさんの人から応援されてきたのに、高校に行かないなんて……」

 しかし真衣は体を硬くし「絶対受験なんかしないから」と繰り返した。

「親の言うことが聞けないのか」

 清司は落ち着いた口調で言った。厳しい目で真衣の顔を見つめた。

「親の言うことは全部正しいんだ。きちんと高校に行ってしっかりと勉強しなさい。大学は嫌なら行かなくてもいい。でも高校には……」

「うるさいっ」

 突然真衣は大声を上げた。そしてきっと睨みつけてきた。

「何よ、親親って……。親がそんなに偉いの?」

「落ち着いて、真衣。落ち着いて……」

 美代は泣きそうな顔をしながら真衣を止めた。しかし真衣はさらに暴れた。美代の腕を振り払い、怒鳴った。

「触んないでよっ」

「真衣やめなさい。ちゃんとお父さんの話を……」

 清司は思わず口を閉ざした。真衣の目は完全に栄一と同じだった。そしてそこから涙が溢れていた。

「お父さん?」

 真衣は叫んだ。清司は美代の顔が真っ白になっていくのを見た。

「なにがお父さんだよ。いつまでも嘘隠せると思ってるの?」

 清司の体が石のように固まった。冷や汗が噴出した。

「本当のお父さんじゃないくせに、偉そうなこと言わないでよ」

 真衣の声が震えだす。美代は足の力がなくなったように座り込んだ。

「どうして本当のことを言ってくれないの?どうしていつも誤魔化すの?何かまずいことでもあるの?」

 真衣の目から滝のように涙が流れ落ちる。最悪の事態が起きてしまった。

「教えてよっ。私は誰の子どもなのっ?本当のお父さんとお母さんは誰なの?もう限界だよっ。教えてよっ」

 清司は固まった体を必死に動かし、真衣の肩を掴んだ。

「そんなわけない。真衣はお父さんとお母さんの子だよ。ちゃんと血が繋がってる。変なこと考えるな」

 しかし真衣は首を横に振った。

「違う……。私には本当のお父さんがいる。お母さんも……」

「いい加減に……」

 そう言いかけると、突然真衣は後ろを振り返った。そして玄関に向かって走っていく。

「どこに行くんだっ」

 あわてて清司も玄関に向かって走った。今真衣を一人にしたらとんでもないことになる。

「ついてこないでっ」

 真衣は泣き叫んだが清司はしっかりと腕を捕まえた。

「放してっ。放してよっ」

 何度も振り払おうとしたが、真衣は部屋に連れ戻された。

 ソファーに座らせると、清司はきつく睨んだ。

「どこに行こうとしたんだ」

 真衣はぼろぼろと涙を流しながら、声を出した。

「教えてくれないなら……」

 そこで一旦言葉を切り、しばらくしてからもう一度口を開けた。

「……私が一人で見つけに行く……。本当の親を探す……。だから高校には行かない……」

「いい加減にしなさいっ。真衣の本当の親はお父さんたちだ。おかしなこと考えるんじゃない」

 清司が怒鳴ると、真衣は顔を両手で覆い声を出して泣き続けた。

 

 

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