04
翌日学校で自分の血液型がA型だったとクラスメイトに話すと、なぜか全員が不思議そうな顔をした。
「へえ、真衣ちゃん、A型なんだ」
「え?どうして?」
真衣は少し驚いた。なぜ不思議がるのか。
「私、A型っぽくない?」
軽い気持ちで訊くと、みんなが同じように答えた。
「何ていうか、B型っぽいなあって思ってたんだけど」
「あたしも。ずっとBだって思ってた」
「A型っていうより、なんかB型みたい」
「Aは絶対ないよ」
真衣は少し気になった。なぜみんなB型というのだろうか。
「そうなの?私B型に見える?」
「うん」
全員が頷いた。真衣は「みんな変だね」と言って笑った。
その時はなんとも思わなかった。みんなが勝手にそう感じただけだと思っていた。まだ小学三年生なのだからそういうこともある。しかし成長してもなぜか血液型はAだと言うと驚かれるのだ。自分は何型だと思う?と訊くとほとんどの人がBだと言った。たまにOじゃない?という人もいたが、Aだと言う人は一人もいなかった。
真衣の胸の中に疑問が生まれた。なぜB型だと言われるのか。A型だと言うと驚かれるのか。自分の血液型はAではないのか。
疑問を解くために真衣はたくさんの血液型について書かれている本を探し読み漁った。確かに自分の性格はA型よりB型のように感じた。どの本を読んでもA型タイプではないのだ。
しかし両親はA型なのだ。自分がB型になるわけがない。なぜこのようなことが起きるのか、真衣には理解できなかった。
私の血液型はA型ではないの?じゃあどうしてお父さんとお母さんはA型なの……?透き通っていた水の中に澱が溜まっていくように、真衣の疑いは大きくなっていった。
「ねえ、私の血液型ってほんとにAなの?」
真衣は不安になり何度も両親に訊いた。しかし返される言葉は「A型だよ」だった。
「でもみんな私のことB型みたいって言うよ。A型って言う人、誰もいないよ。私の血液型はAだって言うとみんなに驚かれるよ」
だが二人は何度も同じことを言った。
「たまたまだろう。人の意見なんか気にしちゃいけない」
「そうよ。その人には真衣がB型みたいに見えただけよ」
「だけど……」
そう言って真衣は俯いた。自分は本当にA型の人間なのだろうか。もしかしたらB型なのではないか……。
その真衣をどきりとさせる言葉が見つかった。血液検査というものだ。真衣は両親に検査を受けたいと頼んだが全く話を聞いてくれない。
「検査にはお金もかかるんだし、痛い思いをしなきゃいけないんだぞ。真衣、注射嫌いだろう。健康なんだからいちいち検査することないんだ」
「注射……」
確かに体に針を刺すのは嫌だと思った。お金を使うのも嫌だった。仕方なく血液検査は諦めることにした。
「嘘つかないで。私の血液型を教えて」
「本当はB型なんじゃないの?A型じゃないんじゃ……」
毎日同じことを訊いてくる真衣に、美代はついに怒鳴ってしまった。
「うるさいわねっ。A型だって言ってるでしょっ。いい加減にして。お父さんとお母さんがA型なんだから真衣もA型なの。もう血液型のことで話しかけてこないでっ」
生まれて初めて母に大声で叱られ、真衣は傷ついた。確かにしつこくし過ぎた。母が怒るのも無理がないと思った。仕方なく真衣は血液型のことについて話すのはやめることにした。
「ねえ、あなた」
真衣が眠りについてから、美代が話しかけてきた。
「毎日毎日、真衣血液型のことについて訊いてきて……。何か気が付いたのかな」
「そんなわけないだろう」
すぐに清司は言った。美代を安心させるためだ。
「まだこんなに子どもなのに自分が養女なんだって気が付かないよ」
「じゃあどうしてあんなに血液型のことばっかり話してくるのかな」
「女の子は血液型とか調べるの好きだろう。占いとか心理テストとか。別に気にしなくていいよ」
清司は笑いながら言ったが、実は頭の中は美代と同じだった。何かばれたのではないか。あの栄一の娘なのだから洞察力はかなり優れているだろう。美代が動揺しているのも無理はない。
「訊きたいんだけど、栄一さんって血液型何型?」
清司はどきりとした。すぐに記憶を遡り、まだ小学生の頃を思い出した。
「確かB型だった気がする。昔健康のために僕の父が無理矢理検査をしたんだ。その時にちょっとそんなこと言ってた」
美代はため息をつき項垂れた。
「そっか……。栄一さんはB型なのね……」
真衣と血が繋がっていないということを思い出したのか美代は寂しげに呟いた。清司は何もかける言葉が見つからなかった。