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03

 膝を抱えながら真衣は椅子の上に座っていた。窓の外はすっかり暗くなっているが電気を点ける気力がない。それほど真衣は、あることについて悩んでいた。

 今、お父さん、お母さんと呼んでいる人は、本当の自分の親なのかということだ。あの二人を両親だと思うのは、実は間違いなのではないか。他人なのではないか。なぜかそんなことを考えている。

 一緒に暮らしてきたのだから家族なのは当たり前なのだ。それなのにどうしてこんなことを考えるようになったのか……。

 よくよく考えてみると、今まで一度も「親に似ているね」と言われたことがない。「親に似ていなくて不思議」とみんなから驚かれた。父も母も黒髪だが自分は茶色だし、肌の色も二人よりずっと白い。まだ小さいからそうなのだろう、と両親は言ったが、成長すればするほど二人の姿とかけ離れていった。

 真衣はどれだけ他人が自分が両親に似ていないと言っても気にしないようにした。しかしだんだんそんなこともできなくなっていった。

 小学三年生の時だ。学校でクラスメイトが数人集まって何かを話していた。AとかBとか聞こえてくる。不思議に思って真衣は軽い気持ちで話しかけた。

「何の話してるの?」

 そう言うと、クラスで物知りだといわれている子が答えた。

「血液型の話だよ」

「けつえきがた?」

 真衣は何のことかわからず目を丸くした。

「えっ、真衣ちゃん、血液型知らない?」

 その子も目を丸くした。真衣は頷き「聞いたことない」と答えた。

「そうなんだ。じゃあ自分が何型なのかも知らないんだね」

 真衣はもう一度頷き、「教えてよ」と言った。

「人間には当たり前だけど血が流れてるでしょ?その血は種類があって、A型B型O型AB型っていうのがあるの」

「へえ。知らなかった。そんなのがあるんだ」

 真衣は目を大きくし、どきどきした。それを見て嬉しくなったのか、物知りの子はさらに詳しく話してくれた。

「親がA型だったら子どももA型になるんだよ。B型になったりしないの。どっちかが他の血液型だったらもしかしたら変わるのかもしれないけど」

 真衣は自分が何型なのか知りたくなった。私は何型なのだろうか。

「真衣ちゃん、お母さんに聞いてみなよ。自分が何型なのか」

 真衣は「うん」と頷き、「教えてくれてありがとう」とお礼を言った。

 家に帰るとさっそく母に自分の血液型について訊いてみた。

「ねえ、今日学校で友だちに教えてもらったんだけど、私の血液型ってなに?」

 それを聞いた瞬間、母の顔色が変わった。なぜか緊張しているような感じがした。

「お母さん?」

 心配になり声をかけると、母はぎこちなく笑い首を横に振った。

「お母さんは知らないよ。お父さんなら知ってると思うから、今度教えてもらいなさい」

「えっ……、そうなの……?」

 てっきり知っていると思っていたので少し残念な気持ちになったが、すぐにもう一度質問をした。

「じゃあ、お母さんは何型?」

 すると母は「A型だよ」と目を合わさずに答えた。

「そうなんだ。じゃあ、もしかしたら私もA型かもしれないね」

 微笑みながら言ったが、母は「そうかもね」と小さく言っただけだった。

 

父はいつもよりかなり遅い時間に帰ってきた。真衣は布団の中で父の「ただいま」という声を聞き、どきりとした。

 こっそりとベッドを出ると父の部屋に向かった。自分は何型なのか知りたくてわくわくしていた。

「おかえり、お父さん」

 そう言って部屋に入ると、父は厳しい目つきになった。

「真衣、まだ起きてたのか。早く寝なさい」

 大好きな父に注意されると悲しくなったが、すぐに気を取り直した。

「あのね、ちょっと教えてほしいことがあってね。お父さんのことずっと待ってたんだよ」

「教えてほしいこと?」

 父は不思議そうな顔をした。そしてまた厳しい顔に戻った。

「勉強のことか?もうこんな時間だから、また別の日にして……」

「違うよ。勉強のことじゃないよ」

 父の言葉を遮り真衣は言った。

「お父さん、私の血液型知ってるんでしょ?教えてよ。私何型なの?」

 すると母の時と同じように父はぎこちない表情になった。

「血液型?」

「そう、血液型。私は何型なのか教えてよ」

 上目遣いでそう言うと、父はそっと目をそらした。

「さあ……。お父さんは知らないよ。お母さんならわかるんじゃないかな」

 真衣はまた残念な気分になった。父も何型なのか知らないのか。

「お母さんも知らないって言ったんだよ。……そうなんだ……、私の血液型知らないんだ」

 俯きながらそう言うと、突然父が声を出した。

「あ、でももしかしたらA型かもしれないな」

 下げていた頭を上に上げ、真衣は目を丸くした。

「えっ?なんで?」

「だって、お父さんの血液型がA型だから」

 真衣は驚いて大きな声を出した。

「お母さんの血液型もAだって言ってた。そっか、私はA型なんだね」

「うん。そうだと思うよ。真衣の血液型はAだと思う」

 嬉しくなり真衣はにっこりと笑った。お父さんもお母さんもA型なら、子どもの私もA型だ。

「ありがとう。気になってたから、すっきりした」

 そう言うとくるりと後ろを振り返り自分の部屋に向かった。明日学校に行ったら、みんなに教えようとうきうきしながら眠った。

 

 

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