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殻の中の続編です。

15歳になった真衣が主人公です。

「お帰りなさい」

 ドアを開けると同時に、妻の美代みよが声をかけてきた。清司せいじはただいまと言う代わりに、いつもと同じように訊いた。

「真衣は?」

 すると美代は首を横に振り、小さな声で答えた。

「だめ。何も言ってこない」

 その一言だけで、清司は体の上に何か鉛のようなものがのしかかってきたような気分になった。

「こっちから訊けるわけないし……。もし違ってたらとんでもないことになるでしょ」

「わかってる。だから何も言わないで待とうって約束したじゃないか」

 清司が厳しく言うと、美代は怒られた子どものように頭を下げた。

 廊下を進みリビングに入ると、真衣がソファに座ってテレビを見ていた。お気に入りの番組で、声を出して笑っていた。しかし清司がドアを開けた瞬間、突然テレビを消して何も言わずに自分の部屋に入ってしまった。

「ね?真衣、きっと気付いたのよ」

 後ろから美代が小さく囁いた。娘に気を遣い、すごく疲れた口調だった。

「自分は養女なんだって。……親と血が繋がってないってことに……」

「やめろ。真衣に聞こえたらどうするんだ」

 清司の言葉に、また美代は俯いた。妻のこんな姿を見たくなかった。

「友だちに何か言われたのかな」

 清司が短く呟くと、美代は首を横に振った。

「違うわよ。だって真衣は友だち一人もいないじゃない」

 清司は気が付いた。そうだ、真衣は友だちがいらない子だった。一人きりで過ごすのが好きなのだ。

「やっぱり血は争えないのね」

 美代が悲しげに言った。美代は娘の真衣のことを心の底から愛している。清司も同じだ。真衣は自分の娘だ。そして真衣も両親を愛している。このまま三人、ずっと幸せに生きていけるのだろうと思っていた。

 しかしなぜか今、真衣は冷たい態度をとっている。理由はわからない。真衣がどんなことを考えているか、全くわからない。目も合わせてくれなくなったことが悲しくて仕方がなかった。

「嘘は必ずばれるんだな……」

 独り言のように清司が声を出すと、美代は小さく頷いた。

「そうね……。あなたの言っていた通り始めから本当のことを話しておけば、こんなに傷つかなかったわね」

 そう言って後悔のため息を吐いた。全て自分のせいだと感じているようだ。

「そんなことはない。美代は悪くないよ」

 すぐに清司はそう言ったが、美代の耳には届かなかったらしい。両手で顔を覆い、美代は涙を流した。

「美代……」

 泣いている妻を見て、また大きな鉛が清司の体にのしかかった。

 



 

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