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俺の物語

 ドラゴンはやはり大きかった。

 一昨日のものと比べると親と子くらいの違いがある。あまりに大きすぎて、遠近感を失いそうだ。まっすぐにこちらに向かってくる。やはり狙いは俺だろうか。

「あれと戦うのか?」

 リュダさんがおびえた声を出す。当然だろう。俺だって怖い。しかし、勇気を振り絞って言った。

「やらないとこの地方がめちゃめちゃになります」

 ドラゴン殺しの剣を抜いて待ち受ける。

「助太刀します!」

 後ろから声がした。振り向くと赤の編み込みの髪と黒の編み込みの髪、レンカさんとメイカさんだ。その後ろにはエルたちやカシェさんの姿も見える。ついて来てくれていたらしい。

 レンカさんとメイカさんが勇敢にもドラゴンの前に回り込んで剣を振った。雷撃がドラゴンにむかう。二人ともまだ雷撃の剣を持っていたようだ。

 しかし、雷撃はドラゴンの分厚い頬を撫でただけだった。なにより、ドラゴンと人間との大きさが違いすぎる。ゾウとアリほども大きさが違うのだ。その大きさの差はドラゴンがまばたきをした風圧でこちらが吹き飛ばされそうに感じるくらいだ。

 エルとメアが銃を構えてドラゴンの顔へ向かう。すれ違いざまに目に向かって銃を連射する。が、ドラゴンは目を閉じてやり過ごした。

 テノとセノは矢を射かけるがドラゴンが首を大きく動かすので当たらない。

 俺はこちらからドラゴンに近づいた。ドラゴンの顔の前に出る。そうして、ドラゴンの動きに合わせて鼻先を飛びながら剣を振った。大量の力が剣からあふれほとばしる。轟音とともに大きな雷のようになってドラゴンの鼻面にヒットする。ドラゴンが口を開いた。しかし、ブレスを撃ってはこない。俺を噛み潰そうと迫ってくる。

 ブレスを撃つ瞬間を狙っていることが、魔王からドラゴンに伝えられているのかもしれない。俺はそのまま剣を振った。力がほとばしって雷撃となり、ドラゴンの口の中に炸裂する。が、ドラゴンは全く無反応だった。舌すら震わせていない。そのまま首を伸ばしてくる。

 俺は一計を案じた。剣をしまい、空高くに上がる。ドラゴンは俺を見失って大きく旋回した。

 その様を見ながら、矢筒から矢を取り出し、ポケットから赤い石を取り出してエンチャントする。

「どうした? 何をするつもりだ?」

 リュダさんが隣に並んで言う。

「タカ様」

「タカ様ー」

「英雄さん?」

 エルたちやレンカさんたちも寄ってきた。俺は言った。

「俺に考えがあります。皆さんは距離を置いてドラゴンの目を狙いづつけてください」

「了解だ。よし、行こう!」

「はい!」

 リュダさんの号令で全員がドラゴンをめがけて急降下する。すぐに混戦模様になった。「距離を置いて」といったのに、みんな、交代でそれぞれに顔ぎりぎりまで近づいて、目に攻撃を仕掛けては飛び去るということを繰り返す。

 うるさがるドラゴンが前足で叩こうとするのをなんとか逃れてしつこく攻撃をしている。とうとうドラゴンが地面に降りた。いくつもの畑が踏み潰されて地響きが上がる。

 俺は、その間も矢に、それぞれ、赤や金や青の石をエンチャントしていた。緑の石は攻撃的なイメージがないのでパスだ。

 すべての矢のエンチャントが済んだ。準備完了だ。俺はリュダさんたちにドラゴンから離れるように合図をした。

 みんなが離れるのを確認して、俺は剣に手をかけながら、ドラゴンの顔の前に下りた。

 ドラゴンの邪悪な赤い目が俺をにらむ。巨大な口が開いた。噛み殺そうと迫ってくる。

 俺はその口の中に飛び込んだ。


 口の中はちょっとしたホールくらいある。俺はその奥のねちょねちょとした粘膜の上に降りた。ごうという音を立てて空気が奥から噴き出してくる。ドラゴンが咳でもしたのだろうか。粘膜に張り付いて空気の塊をかわす。

 ドラゴンが口を閉じて辺りが暗くなった。しかし、歯の隙間から光が漏れて完全な暗闇にはならない。俺は赤い石をエンチャントした矢を取り出して弓につがえ、奥に向かって放った。飛んでいった矢が喉の奥に当たると、炎が巻き起こった。電車が通れそうなくらいに広い、喉の様子が照らし出される。

 大きく揺れた。ドラゴンが頭を振ったようだ。俺はかじりついて耐えた。

 ここまでは計算通りだ。外から攻撃しても無駄なら、体の中から攻撃すればいい。そして赤い石をエンチャントした矢は、思った通り、暗がりを照らす光になる。

 俺は揺れがおさまるの待って、喉の奥へと飛んだ。このドラゴンに決定的なダメージを与えるにはもっと奥から攻撃をする必要がある。

 光の届かないところに来た。手探りで粘膜の上に降り、矢を放つ。炎が上がった。暗がりが分岐している。一方のほうから空気のかたまりが渦を巻いて吹き出した。炎がかき消される。揺れが起こった。しかし、さっきほどではない。どうやら、喉を通り過ぎて、気管との分かれ目に来たようだ。空気のかたまりが噴き出てきたほうが、肺につながっているのだろう。俺は探り探り、肺ではないほうへ進んだ。肺に進めば空気の奔流が邪魔をして前に進めない可能性が高いと思ったのだ。

 慎重に進む。暗くて周りがわからない。もう一回炎をと思ったところで、足を滑らせた。粘膜の上を滑落する。慌てて右手を挙げた。宙に浮く。と、顔から天井の粘膜に突っ込む。幸いなことに、柔らかくて痛みはない。あたりには酸っぱいにおいが満ちていた。

 宙に浮いたまま、手探りで矢をとって放つ。しかし、青白い光が一瞬光っただけで炎は起きなかった。矢を間違えたようだ。どうしたことか、周囲を冷気がつつむ。もう一本取って放った。今度は炎が起きる。

 照らし出されたのは体育館くらいある広い空間だった。全体の半分が液体に浸かっている。そしてその液体は凍っていた。ここはドラゴンの胃だろう。液体は胃液にちがいない。凍っているのはさっき間違えて放った矢のせいだろうか。

 空間が揺れた。ドラゴンが動いたらしい。胃が冷えたり熱せられたりしたのだ。気持ちが悪くなったのだろう。

 凍っていた液面が砕けた。天井の粘膜を焼きながら燃えている炎で、凍った液の下が照らし出される。光るものがあった。金だ。宝石類も見える。ドラゴンがこれまで飲み込んできたものだろうか。一面に広がっている。膨大な量だ。まさに宝の山である。ドラゴンが宝を持っているという話は事実だった。

 その時、上のほうが明るくなった。

 振り仰いでみると、滑り落ちてきた食道がある。その脇にふたのようになっている大きな肉の板が開いて、光があふれ出ている。中に何かある。

 俺はそこまで飛んで中をのぞいてみた。

 直径数メートルの穴の奥で輝く光が渦巻いていた。光でかすんで全部を見通せないが、この光の色は間違いない。ドラゴンのブレスだ。ここがドラゴンのブレスのもとを蓄えた袋なのだろう。

 俺はドラゴン殺しの剣を抜いた。振りかぶって一気に力を叩き込む。雷撃が光の渦に飲み込まれ弾ける。轟音と光の洪水が巻き起こった。


 一瞬俺は気を失ったらしい。

 目を開けると、俺は肉の塊の中に埋まっていた。周囲には炎が迫っている。上は炭化した肉の間から青空が見えていた。

 起き上がって右手を挙げ、空に上がった。

 見下ろしてみると、巨大なドラゴンは全身を炎に包まれて、横たわっていた。黒煙がもうもうと上がっている。

「タカ様!」

 メアが飛んできた。そのまま、俺の腕をぎゅっとつかんで放さない。

「やったね」

「ついに倒しましたね」

「やっぱりエクスの再来だー」

 エル、セノ、テノが寄ってくる。

「素晴らしい」「さすが英雄さん」

 レンカさんとメイカさんが笑顔で祝福してくれる。

「まったく、無茶をする」リュダさんが俺の肩をたたいた。「体に異常はないのか?」

「大丈夫です。ちょっとべとべとになりましたけど」

 実際のところ、ちょっとどころでなく俺は粘液で全身べとべとになっていた。それに疲労感が押し寄せている。これはドラゴン殺しの使い過ぎだろう。

「さて、難敵を倒したところで、本丸に攻め込むか」

 カシェさんが皆を引き締めるように言った。


 ドラゴンを倒したところから、バイヤートの森まではすぐだった。

 広大な森だったが、敵の本拠地は一目でわかった。森の真ん中に普通の木とは明らかに違う巨大な木が数十本まとまって生えていたのだ。枝を張っているが、葉は一枚もついていない。一本一本の木が気持ちの悪い気配を放っている。正直なところ、近づきたくない。が、そうも言っていられない。

 そばまで飛んで驚いた。ぬめぬめとした、それぞれの木の幹に無数の女性の顔が浮かんでいるのだ。どれも苦しそうな顔だ。

「エドナ!」「ミズカさん!」

 メイカさんやエルが知り合いの顔を見つけてそばに寄る。

「タカ様、あれを」

 セノが地面を指した。

 地面に張った木の根に丸いものがいくつもついている。一つが割れた。中から蛇女が現れる。

「この木は、女を体内に取り込んでエネルギーを吸い取り、それを使って魔物を作る生物なのか」

 カシェさんが冷静に分析する。

「気分の悪くなる話だ」

 リュダさんが吐き捨てた。

「早く助けようよー」

 テノが真剣で切実な顔になっている。そうしたいのはやまやまだが、どこをどうしたらいいのだろう。うかつに攻撃すると、まだ生きているかもしれない中の人を傷つける可能性がある。

 そこに気配が現れた。

「あのドラゴンを倒してここまで来るとはな!」

 黒いローブの男だ。

「魔王、覚悟!」

 レンカさんが剣を手に突っ込むが、魔王は姿を消して、別の場所に現れた。

「来るがいい。こっちだ」

 魔王は近くの開けた場所に降り立った。

「魔王! アイサさんたちはどうした?」

 俺は魔王から少し離れたところに降りて、ドラゴン殺しの剣を抜いた。リュダさんたちも周りに降り立つ。

「ああ、あの品のない女たちか。あそこだ」

 魔王が指す先を見ると、木の幹に取り込まれようとしている二人がいた。アイサさんたちだ。目がうつろで生気がない。

「何をした!」

「これからお前たちの身に降りかかることと同じことだ!」

 魔王が杖を振った。俺たちの足元が輝く。

「いかん、逃げろ!」

 リュダさんが叫ぶ。が、空に上がれない。

「お前たちは石の力で空を飛んでいるのだろう? 石の力を封じるフィールドを張ったのだ。もう石をつかった道具は使えないぞ」

 魔王がご丁寧に解説してくれる。しかし、それだけではない。体から力が急に抜けていくようだ。

「これはエネルギー吸収の魔方陣です。石を通じて体力を奪います。石をエンチャントした武器と服を体から外してください!」

 セノが叫んだ。

「なんだと!」

「早くはずせ」

 慌てて俺たちは石のついている武器と上着を体から離した。

「くくく。正解だ」魔王が嗤った。「よく勉強している者がいるではないか。さっきの二人は気づかずに剣を振り回して気絶したがな。だが、これでどうだ?」

 魔王の言葉で周囲を見ると、魔物たちが百体以上集まって来ていた。

「くっ」

「こんなに……」

 リュダさんとレンカさんが唸る。こっちは九人なのだ。

「さあ、武器もなしに勝てるかな。それに英雄さんとやらは、そろそろ体力の限界なのだろう?」

 嫌なことに気がつくやつだ。確かに俺はもう立っているのがやっとだ。

「戸田山君、この雑魚どもは私たちが何とかする。じっとしていろ」

 そう言ってリュダさんが剣を抜いた。

「私たちにまかせてください」

「石をエンチャントしていない武器もあたしたちにはあるんだから」

 セノとエルが言う。ほかの人たちもそれぞれが剣や弓をとった。

「俺だって戦えます」

 俺は輝きの剣を抜いた。これなら石はエンチャントしていない。

「さて、どこまでできるのかな」

 魔王が指を鳴らした。魔物たちが一斉に襲い掛かってきた。


 乱戦を俺たちは制した。全員が、石をつかわずにエンチャントした武器を持っていたのが幸いした。備えはしておくものである。

「魔王! あとはお前だけだぞ」

 リュダさんが叫ぶが、こっちはすでにかなり疲れ切っていた。

「いきがるな。お前たちはもうボロボロではないか」

 さすがに見抜かれている。

「卑怯だぞ。正々堂々と勝負しろ!」

 俺が叫ぶと魔王が嗤った。

「卑怯だと? お前が言うことではないな」

「どういうことだ?」

「英雄さんなどと呼ばれているようだが、お前もなかなか卑怯な人間ではないか」

「なんだと?」

 魔王は首を傾げた。

「おや、覚えがないという顔だな。そうか、お前は自分の以前の記憶を見ることができなくなっているのだな。どれ、それを治療してやろうか」

 魔王の手の杖が光る。俺の頭の中に堰を切ったように大量の情報が流れ出てくる。その量の膨大さに俺は圧倒された。

「お前は、幸せそうな人々を憎んで相手の死を願ったことがあるな」

 魔王の声が耳に流れ込んでくる。そうだ。確かに「死ねばいいのに」と、同じクラスの男女の死を強く願ったことがある。

「その女のことを好きだったのだろう? そんな相手の死を願うというのは卑怯未練なことではないか。しかも、その願いは半分かなったな」

 そう。願いは半分かなってしまった。二人は交通事故に巻き込まれて、重傷を負ったのだ。二人が入院している病院の前を俺はうろうろして結局見舞いをする勇気すら出せずに通り過ぎてしまった。二人はこんな俺に良くしてくれた友人たちだったというのに。

「死ねばよかったのはお前だろうにな。お前は自分の境遇を恨んで他人の不幸を願う、器の小さい男ではないか。お前は父親の顔を知らず、母親に捨てられた。つらいことだな。しかし、他人を恨むことではないぞ」

 俺は祖母の言葉を思い出した。小学校のときに母が俺を置いて失踪したときに俺を抱きしめて言ったのだ。「タカ。お母さんを許してやってね。弱い子なの。周りの人たちの言葉に耐え切れずに逃げるしかなかった弱い子なの。でも、あんたには私がついているから、人を恨むんじゃないよ」

 俺はそれから祖母に育てられた。残った身寄りは祖母だけだったのだ。そしてその祖母が一週間前に脳の病気で倒れて入院した。友人たちの病院を訪れることができずに立ち去った日もその足で、俺は祖母を見舞った。意識のない祖母のそばに座り込んでただ茫然と夕方までいた。その帰りの薄暗くなった国道沿いをとぼとぼと歩いているときに、この世界に召喚されたのだ。

「自分が不幸だからと言って結ばれた恋人たちを憎むような人間が、英雄だとは笑わせるではないか」

 そうだ。祖母の入院の翌日、学校に行った俺に、彼は彼女とつきあうことになったと照れながら言ったのだった。俺がひそかに片思いしていた、ミディアムボブの黒髪にメガネをかけた、どこか母に似たイメージの、あの友人とつきあうことになったと。俺は表向き祝福した。しかし、心の中ではひどく憎んだ。それが結果としてはあの事故を呼んだような気がする。俺は人から褒められるような人間ではないのだ。こんな俺が好かれるなんてありえない。この世界で愛されたと思ったのはみんながこんな本当の俺を知らなかったからだ。

「そうだ。お前は称賛されるような人間ではない。この世界で得た愛などはごまかしで得た幻だ」

 魔王が嘲笑う。俺はガックリと片膝をついた。

「この、とんちき魔王!」

 突然、エルが割り込んだ。

「なんだと?」

「不幸な人間が恨みをためることの何が悪い! それにタカ様はこの世界で十分に称賛されるだけのことをしたのよ。お前のような暗いやつにとやかく言われる筋合いはないわ」

 そして宣言する。「あたしは、タカ様の過去に何があろうが、タカ様が好き。いまさら何を知ってもその気持ちに変わりはない!」

 力強くて嬉しい言葉だった。俺をかばうように立つエルの背中が輝いて見えた。

「私もです」

 セノも前に立って言い放つ。

「私も」

 メアがかがみこんで俺の腕に触れて言う。

「私もー」

 テノが隣に立って言った。

「私たちも、かな」

 カシェさんがリュダさんと俺の前に立った。振り向いて照れたように笑いながら言う。

「英雄さん、もてますね」

 レンカさんとメイカさんが後ろから声をかけて来た。

「ま、そういうことなら、私たちも参加します」

 と言って笑う。

 これはハーレムへの参加宣言だろうか。いや、違うんだろうな。でも、すごく嬉しい。この世界に召喚されてよかった。

「ええい。くだらん! お前ら、まとめて串刺しにしてやる」

 思わぬ展開にいらだったように魔王が杖を振った。ほとばしったものが数十の光の矢になって降り注ぐ。矢は服の防御を越えて体に突き刺さった。激痛が全身に走る。周りのみんなも矢に腕や体や脚を貫かれて、地面に転がる。

「この、ぼけ魔王!」

 エルが体を起こして矢を放つ。が、矢は外れた。魔王が分身したのだ。

「その状態で、この私を倒せるかな」

 魔王は高らかに笑った。


「撃てー!」

 突然声がして、銃声が一斉に轟いた。魔王の分身たちが銃弾の雨にさらされる。

「ぐあっ」

 魔王がうめいた。分身が消えて一つになる。魔王は顔を押さえていた。ローブに覆われていないそこが弱点だったのだろう。

「突撃!」

 空から女性たちが、剣を手に急降下してきた。魔王に殺到する。魔王が姿を消した。が、光のフラッシュが走り、消えた魔王の姿が現れる。

「幻惑の魔法くらいで逃げられると思うんじゃないよ」

 と声が飛ぶ。

 誰かが俺の隣に降りた。デニさんだ。

「これを借りるよ」

 デニさんがドラゴン殺しを手にして言った。俺がうなずくのを待たずに空に上がる。

「そこをどきな!」

 デニさんの言葉に人々が道を開けた。ふらふらと飛んで逃げようとする魔王に向かってデニさんが剣を構えて突っ込む。轟音とともに凄まじい光が弾ける。

「ぐおおあああ!」

 叫び声だけを残して、魔王は吹き飛んだ。

「やれやれ、仇が打てたよ」

 デニさんが俺のそばに降りてきて、ドラゴン殺しを置いた。

「デニ、さん。どう、して……」

 俺が問いかけようとするのを制して言う。

「おっと。無理するんじゃないよ。すぐ、ミーネが治療するからね。なに、あの元隊長の話を聞いて追いかけて来たのさ」

 そこに、白い服を翻してミーネさんが降りてきた。

「はいはーい。治療しますよ。順番に治しますから待っていてくださいね」

 そう言って、メアの治療から始める。

 その向こうで、あの木の化け物が次々と崩れていくのが見えた。魔王の魔力がなくなったので実体を維持できなくなったのだろうか。中から呑み込まれていた女性たちが出てきている。どの人も服が溶けたようになっていて、あられもない姿だ。

「おおっと、戸田山さん。見ちゃだめですよ」

 ミーネさんが俺の視線に気づいて俺の額に触れた。俺は眠りに落ちた。


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