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ちょっと短め。

 朝、目が覚めると、目の前に要の顔があった。俺は驚いて、小さな悲鳴を上げた。その声で起きてしまった要が、ぱちくりと瞬いた。


「どうしたの?」


「あ、いや、何でも無い」


 夢を見たと、適当に誤魔化すと、要は納得したのか寝返りを打って反対側を向いた。その背中を見て、俺はほっと息を吐いた。

 近くで見ると女の子みたいだな、と思う。

 それから、暫く布団の中でぼんやりとしていたが、ばあちゃんが起こしに来る前に起きようと、俺は布団から這い出した。その気配に、要も起き出す。


「おはよう」


 居間には、既に朝食が並べられていて、その量の多さに要が驚いたように口を開けた。ばあちゃんが、照れたように笑う。


「うちはいつも、朝はこんな感じなんだ」


「そうなんだ。ばあちゃん、すごいな」


 朝からこれだけの食事を用意するのは、確かにすごい事だ。そう言えば、と俺は実家の朝を思い出した。

 母さんも、朝はたっぷりとは言わないが、それなりに品数の多い食事を用意してくれていた。サッカー部だった頃は、朝練があったので、弁当も二つ作ってくれていた。


「翔、どうしたの?」


「……なんか、色々思い出して」


 どう捉えたのかはわからないが、要は一つ頷くだけで、それ以上は尋ねてこなかった。

 朝食を済ませて、俺と要は離れに向かった。ばあちゃんに聞かれたく無い話は、離れでするのがいいと思ったのだ。

 離れに入るなり、要が口を開いた。


「笑わないなら、話すけど」


「絶対に笑わない」


 真剣な目で、要を見つめると、彼は少し考えるようにしてから、微笑んだ。


「うちの実家の仕事は、陰陽師なんだ」


「……おんみょうじ?」


 少し上ずった声が出た。要が困ったように笑う。


「祓い屋とか、拝み屋とか、そんな感じ」


 それは、夏の特番とかで見る、除霊をする者の事だろうか。そう尋ねると、要が頷いた。


「近いかな。でも、あんなのと一緒にしないで。うちは、本物だから」


「本物とか、偽物とかあるのかよ」


「あるよ。少なくとも、僕とお姉ちゃんは、本物」


 本物の陰陽師。口の中で反芻すると、何故かその言葉がすとんと胸の中に落ちてきた。

 要が、こんなくだらない嘘をつくわけがないという気持ちもあった。橋の上で、俺を必死に止めてくれたのも、もしかすると陰陽師としての勘とか何かが働いたからかもしれない。


「……わかった。信じる」


「よかった」


 要が、ほっとしたように笑った。

 詳しく聞けば、陰陽師と言っても、要はそれ程力が強いわけではなく、姉の方が優秀らしい。その姉に頼む事もできるが、できれば自分の力で何とかしたい。それが要の言い分だった。


「危険じゃないのか?」


「わからない。あの子、見た感じはそんなに怖くなかったし……」


「……俺は、何をしたらいい?」


 要が、首を傾ける。


「一緒に、居てくれる?」


「……わかった」


 もしも、あの子供か危険なものだった時。

 要には手の負えないものたった時。

 その時は、必ずこいつを守ってやろう。俺はそう思っていた。

 かたん、と物音がして、俺と要は音のした方を見た。そこには、あの絵があった。女の子の絵だ。よく見ると、それは女の人のようにも見える。


「……そっか」


 その絵を見て、要が囁いたのが聞こえた。


 *


 暫くの間は、川に近づけなかった。

 事故の後だし、ばあちゃんが渋い顔をするので、なかなか行動に移る事が出来なかったのだ。やっとチャンスが巡ってきたのは、じいちゃんの事故から一週間が経とうとしている頃だった。それは、要が東京に帰る二日前の事だ。


「ばあちゃん、郵便局ってこの辺にある?」


「郵便局は、街の方に行かないとないけど……どうしてだい?」


「荷物とお土産、東京に送ろうと思ったんだけど……」


 要の手荷物は、来た時も少なかった。東京から、前持って伊野のじいちゃんの家に送っていたかららしく、帰りも荷物は送るつもりだったのだと、要は困ったように言った。


「じいちゃんが、手配してくれる予定だったから……」


「そうかぁ」


「タクシー呼んでもいいかな? ちょっと荷物出して来る」


 流石のばあちゃんも、これには騙されていた。いや、騙しているつもりはないんだけど。本当の事しか言ってないし。

 荷物を出した帰りに、橋に寄るって事を言っていないだけだ。


「俺も、ついてっていい? 荷物、多そうだし」


「ああ、そうしてやりな」


 昼過ぎにタクシーを呼んで、荷物と共に乗り込んだ俺は、隣に座る要を見やって、呆れたように溜息を吐いた。


「しかし、マジで荷物多いよな」


「しょーがないでしょ。いろいろ必要なの」


 女かよ、と云う言葉は辛うじて飲み込んだ。要に睨まれるのは嫌なのだ。

 一旦は街に出て、荷物を郵便局に預けて、花屋に寄って花束を買い、そのままタクシーで橋に引き返す。タクシーの運転手には、知り合いが亡くなった場所だからと言えば、不審がられる事なく降ろしてもらえた。

 橋の中腹の欄干に、花束を立て掛けて、要は手を合わせた。俺も、それに倣う。


「さて……じゃあ、そろそろやろうか」


 立ち上がった要が見据えているのは、川べりに佇む、幼い子供だった。

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