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説明読みにくかったら教えていただけると嬉しいです><

 遠い山上を飛ぶ戦闘機は、彼方に消えた。


「何よそ見しているの? 早く続きを読む。君の集中力は蛆虫並か? 五分もってない」


 ええと、純国産戦闘機不死鳥。

 この機は、首都東京上空での防衛線を想定し有事において制空権の完全掌握。その構想から作り出された戦闘機である。

 その為にはF-22ラプターをピラミットの頂点とした第五世代の戦闘機が持つ高いステルス性能をうち破り、かつレーダー範囲外から飛来する高性能ミサイルを回避、迎撃を実現する極めて高い性能が必要であった。


 実現不可と思われたその計画は分業によって成し遂げられる。


 まず第一に空間支配型管制機天照(アマテラス)の完成。


 この機は完全に姿を隠す事が可能な不可視の管制機である。

 五十メートルを超える超大型機であり、またの名を空飛ぶ演算装置。機内を埋め尽くすコードと無骨な演算機器の数々。そのほとんどがナノマシン操作に用いられる。


 このナノマシンは極めて汎用性が高く、集合させて表面をすっぽりと覆い、空間の映像を投影する事で完全に姿を消す事が可能である。


 このナノマシンで他の自軍兵器を覆うことも可能である。輸送機の存在を隠すことが出来る。これは、戦線への物資輸送の安全の観点からみても革命的な技術である。


 さらに天照の最大の特徴は、アマテラスシステムと呼ばれるレーダーシステムだ。


 ナノマシンを広域にばら撒き、散布された空間の情報を完全に掌握出来るこのシステムは、ステルス技術の出現時以上に空戦を覆した。


 レーダー情報を滅茶苦茶に書き換えられれば、飛行シュミレーションソフトへの依存度が極めて高い近代戦闘機には、勝ち目がない。


 天照が作りだしたナノマシン拡散領域内では極端にいえば上下左右の認識すら出来なくなる可能性がある。


 日本に向かって打ち込んだミサイルは着弾点を書き換えられて味方や自分に帰ってくる。


 空間支配型管制機《天照》に電子戦の一切を任せる。


  近年、戦闘機とは空飛ぶ精密機器と言われるようになった。


  少しでも多くの電子機器を積み込み、ステルスでレーダーから姿を消す。そして、お互いに電子機器をフル活動させて探しあう。


  その性能が優れている方が先にミサイルを撃って相手を撃破する戦いだ。だが、戦闘機不死鳥には電子戦もステルス機能も必要はない。電子戦関係は、天照にまかせておけば良い。


 完全に分業化する事でそのすべてを対Gと空戦能力の向上に割くことで不死鳥はプロペラ戦闘機時代を強襲した空戦に強い戦闘機として生まれた。



 さらに、そのノウハウを活かして出来た戦闘機が《死神》。


 この戦闘機のコンセプトは天照が奪取、使用された場合の単独防衛戦である。


 天照と同様、人口知能を内臓し、天照に撹乱されたレーダー下でも人工知能の補佐で戦える設計に成っている。鈍重な機体を高速で動かす為に当時最先端の技術で有った半重力スラスターが二基搭載されている。その二基の製造だけで約十兆を注ぎ込んだと言われているが、反重力スラスターは、地球の重力下で製造するのは、極めて困難だ。実際はもっと掛かったであろう。


 戦闘機死神は調停者の中でも極めて凶悪と言われる人型の調停者であるムルグと戦って生き残っている。


 調停者が現れる前に第六世代の戦闘機。天照、不死鳥、死神を製造出来た日本は行きのkった他の国より人類の勝利に近い位置にいる。


 この機の増強が期待されるが、兵器開発施設は調停者に片っ端から襲われて死神や天照はおろか不死鳥さえも量産化は難しいと言われている。


 森羅は、目元を押さえてメルに渡された資料から目を離した。


 高性能戦闘機とそのパイロットが素人目から見ても無駄死にしていっている。そう考えるとメルがいつにも無くイライラしているのも無理もないと思えた。


「読んだぞ」


 森羅は、まとめられた資料をメカオに返した。すると新たな資料が渡される。


「クク、次はコレね」


「まだあるのか……」


「たまには脳みそ使ったほうが良いよ。あっ、既に腐ってるって言うならしょうがないから読まなくても良いよっ。これで最後」


 雲の切れ目に現れた戦闘機を指さした。遥か上空を飛んでいる。


 メルは、それを見送ると双眼鏡を外した後の苦々しい顔のままパソコンを開く。


「また不死鳥単機か、対ムルグは、不死鳥プロトタイプでも無理だったと記録に残っているはずなのに……プロトタイプには、ラムジェットエンジンが搭載されていた。乗っていたのも有名なパイロットだと聞いたことがあるよ。完全な上位互換をもってしても不可能だった事に挑戦する事に何の意図があるのか天才にも分からない」


「パイロット達も同じ事言っているらしいよ」


 メルの顔には『なぜ知っている?』と書いてあった。すぐに納得いったようで。


「あぁ、そうか、君は死神、いや、白姫雪華と話したんだった」


 森羅は、一連の騒動を思い出して、左頬を押さえた。少し腫れていて熱も帯びている。口の中も何箇所か切れていて舌を動かすと所々で痛みが走る。


「うん、良い子だったね。それに細くて白くてまるで僕みたいなのに腕っぷしも強いし――」


「うに?」自分の世界に入っていく森羅を前にメルは首を傾げた。


「む……。何を遠い目で見ている? も・し・か・し・て」


 ニヤニヤしながら数分前とまったく違う上機嫌で画像を呼び出す。そこには白姫雪華に平手打ちされて涙目で頬を押さえて床に伏す男の姿があった。


 手の中から逃げ出したハムスターのキララちゃんが写真の中央にドアップで写っている。


 認めたくないが、涙目で無様に床でのたうっているのは紛れも無く僕、天野森羅だ。


 メルは、それを満足げに眺めて、目を細めると頷いた。


「クク、ベストショットだよ♪」


「ああ、すごいすごい」


「ずっと狙って居たんだっ。気合、魂の一枚。この写真は未来永劫子々孫々に至るまで永久に伝えていくよ。クク、そんな浮かない顔して無いで喜んでくれたまえ。解像度も出来る限り最大で撮ったから結構容量を圧迫しているんだよ!」


「圧迫しているなら消してくれ」


「えー」メルのPCのフォルダ内には僕の写真がいっぱい入っていた。どれもこれも悲惨な写真、まともな顔で写っている写真は見当たらなくてため息が出た。


 何もかもお構いなし。唯我独尊、わが道を行くメル様は止まらない。


「……。そろそろ帰るとしよう」と帰り支度をはじめた。


 都合の悪い事は入って来ない耳がうらやましい。


 あんな耳が欲しいと思いつつ、森羅は、溜息をついた。


「僕の質問に答えたら考えてあげても良いよ」


「ん? 何が?」


「だから、質問に答えたら画像を消しても良いと言っているの」


 メルは、真っ直ぐ森羅と目を合わせた。森羅は、わかりやすく視線を泳がせた。


 真剣な表情の時はろくでもない展開が待っている。とは言っても基本身勝手な奴だから答えないって選択肢は選べない。ここまで来たら聞くしかない。


「凄く嫌な予感がするんだけど……」


「いや、本当に質問だけ。君には戦う意志が在るの?」


 答えは一つしか無い。答える事に迷うって事はそれだけ僕がまだ人間味を帯びているのだろう。それもきっともう終わりだ。


「まったく無いよ。正直僕も本心は人類の負けでもう良いと思っている。巻き込まれたくない」


「そっか」

 片付けるメルの手が止まる。


 また昨日みたいに逆上するかと思ったけど、ここは本心で答えるしか無かった。嘘をついて戦うといったならきっとメルは僕を戦いに巻き込むだろう。


 再び動き出したメルは鞄から何かを取り出し、森羅に差し出した。


 一瞬ごみかと思ったが、巾着袋の様だ。


「画像は消す。これを肌身離さず持っていて、それが交換条件。もし捨てたらひどい目に遭わせるからね。中身も見ちゃだめ」


「わかった」


「うん。僕は帰るとする。まだ戦闘は終わっていないけど、結果は分かりきっているからね」


 帰り支度を手伝おうと思ったが、メルは無言でいらないと首と右手を振った。屋上から降りていくメルの横顔をチラリと盗み見たが、怒りは感じ取れなかった。


「さよなら」

 『またね』じゃなくて『さよなら』

 そう言って消えていく。メルはきっと二度と森羅に怒る事は無いだろう。


 彼女の中での僕の存在は無に変わった。


 飽きれを通り越して僕を友達じゃないと思っている。それだけは感じ取れた。好きの反対は無関心。メルにとって僕はきっとそれに限りなく近いのだろう。


 メルの置き見産を手に取ると橙色の生地に包まれた巾着袋は手のひらに収まる大きさだった。


「これ、どうしよう――。手放すなって言ってたよな」



 それを学生服の内側のポケットにすべり込ませる。頭上を掠める黒い影に驚かされたが、それは羽虫を追いかける夜鷹だった。


 それが飛びさる方向、東の空には金星が輝き始めていた。








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