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いつもの朝

 学校までの道のり、およそ6キロを一気に下る。


 正面には吹き付ける風、横目に吹き飛んでいく風景を見ながら道路のど真ん中を走る。どれもこれも悪くない気分だ。


 車両と呼ばれる類の一般利用は禁止された。理由はエンジンが付いた自動車の類は調停者を呼び寄せる為らしい。もっとも昨日の様にビュンビュン戦闘機を飛ばしていたんじゃ、車を規制する意味は無いに等しい。


 許可されているのは救急車、消防車の類の緊急車両。そして、移動式のスーパー、これは見た目はトラックだが、少し低い荷台にはシャッターが付いている。


 冷蔵、冷凍完備なスーパーカーで大量の野菜や肉、魚を詰め込んで決まったルートを決まった時間で回りながら商品を売っていく。


 滅多に車は走らない。それは道路の真ん中を走っていいという免罪符には成らないけど、昨日から続く陰鬱な気分をまぎらわす為に下り坂を一気に下った。


 途中、待ち構えていたメルと合流する。メルのセーラー服姿を目にすると奥歯に小骨が挟まったような違和感がある。似合っていはいるのだけど。


「おはようございます、昨日は申し訳ございませんでした」


「え? お、おはよう、こちらこそ、あれ?」


 森羅は、正直めんとくらった。まさか、あのメルが謝って来るとは思っていなかった。何をたくらんでいる。と考えこむ森羅の隣で目を細めるメル。


「さてー、いいアングルを~」 


 メルは、カメラ片手にベストアングルを探している。どうやら、この様子だと単純に困らせるつもりで謝ったのだろう。


 それに気づいた森羅は、少しむっとした表情で話題を切り出す。


「昨日の戦闘機、学校の方から飛んできたよな」


「そういえばそうそう、グランド上空を通過したらしいねっ。ククク、君を含めて傷を舐めあっている連中には堪えるだろうね! なんせ、君たちはもう戦いは終わったつもりでいる。まったくおめでたい脳みそだね」


「……」


「ククッ」


 森羅は、黙ってプイっと顔をそむけた。シャッター音と共にフラッシュが何度か浴びせられるがどうでも良い。昨日の様に弟が馬鹿にされたなら話は別だが、自分の事で争うきはしない。勿論、コイツの物言いに腹が立たない訳では無い。だから黙っている。


「フフ、君はすぐこれだ。謝りましょう。僕が悪かった、ごめんね、正論すぎたね。話を変えよう」


 そう言ってパソコンを開く、森羅は、上機嫌なメルに視線を向けた。最初こそ上手だが、途中で飽きて手を抜いた学芸会のハリボテみたいに安っぽい怒りの表情をのっぺりと浮かべている。


 彼が本気で怒ってないことはこの表情を見たら誰でもわかる。森羅本人以外は。


 森羅は、自身がついさっきまで道路の真ん中をかっ飛ばしていた事を頭の隅っこに追いやって、脳内でメルの交通マナーの悪さを指摘した。口に出さないのは『お前が言うな』と本人が一番わかっているから。


 そんな様子を歯牙にもかけず。メルは、ハンドル上の専用置き場に固定して気持ちよさそうにキーとたたいている。今にも鼻歌でも歌いだしそうだ。


「フーン♪フフフーン♪」


 呆れて前を向いた。その横顔にメルの言葉がかけられる。


「転校してくるみたいね」


「ん? なにか言った?」


 昨日と同じ様にノートパソコンの画面がこっちを向いている。


 森羅は、目をぱちくりさせた。小さな画面を所狭しと踊り狂う小さな死神と綺麗な女の人に目を奪われたのだ。


 美人だった。超美人、いや、きっと美人だと言うべきだろうか


 黒いドレス、煌びやかな装飾、ゴシックロリータでも無い。怪しいじゃなくて、妖しい感じ、金色の装飾とベルガモットの生地で縁取られた妖艶なドレスを着こなす若い女性。ドレスから伸びる白い手足は折れそうな程、細く長い。肌は絹の様にきめ細かく、白磁の様に滑らかだ。


 だけどきっと美人だと言ったのには訳がある。


「なぁ、メル……、このゴーグル何なんだ?」


「ああ、ゴーグルね、それは外せないらしい。なんせ彼女は軍人だ。階級は空曹、第一制空隊隊長、死神、白姫雪華しろひめゆきかとは彼女の事をいう」


「はい?」


 話についていけない森羅は、言葉に酔いしれて激走するメルを前に膝をついた。それでも更にダッシュをかける。地平線に消えた所で諦め、森羅は、考えることをやめた。


「そして、彼女はアイドルだ。歌って戦えるアイドル、この時代には彼女こそ相応しい」


「へー、そうか、それはすごいな、すごいすごい」


 今までもそうしてきたはずだ。あるがままを受け入れろ森羅。


 横では白姫雪華のライブ映像が映されている。


 殺します、やら、即エイムやら直感的な歌詞はするすると頭の中に侵入してくる。これが本当の電波曲というやつなのだろうか。

 

 姫川メルの電波脳は、こんな感じの音楽によって形成されたのだろうか、と失礼なことを漠然に考えていた――


「あ、森羅君、電柱が」

「――」

 

 森羅は、炎天下の中、自転車を引いていた。帰っても良いのだが、この炎天下の中、あの上り坂を登り切る自信が無い。


「なにもかもメルが悪い。あんな曲ながすから……」


 メルは、転校してくる白姫雪華に早く会いたいらしく、正直うっとおしかったから先に行かせた。


「あちー、死にたい」


 砂漠の呼び水ってあれだろうか? 十メートル程先に追いつけない水たまりがある。

死ぬ勇気も無いのに森羅は、死にたいと弱音を吐いてみた。







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