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デッドライン

話の流れは同じですが、大幅にキャラを変えました。

姫川メカオ→姫川メル、女の子に変更。

1~全部変えてあります

森羅は、体育館に繋がる渡り廊下から外に出て自転車置き場までの一番の近道を行く。上履きのまま出る事に違和感はあったけど今は分一秒が惜しかった。


「まずは家に帰って食料と寝袋。そのあと、婆ちゃんに挨拶か」


 家を出ると言ったらどんな顔するんだろうか。簡単に死んでやるつもりは無いけど高確率で死ぬ事は分かってるつもりだ。せめて婆ちゃんを安心させられる都合の良い嘘でも付ければ良いんだけど。


「考えてみるか、無理だったらそのまま伝える」


「こ*※△□――」

 森羅は、立ち止まった。風がどこからか運んで来た誰かの声は断片的で聞き取れない。


「なんだ? 声が聞こえたような……」


 気になり返り辺りを見渡すと空に黒い点が見えた。遥か上空に浮かぶ黒点。次第に降りてくる其れの違和感の正体を探るべく目を凝らした森羅は、息を呑んで生唾を飲んだ。


「――死神!」 


 音も無く、屋上に吸い込まれる様に降りていく戦闘機死神。雲の切れ目から差し込む黄金色の光に照らされて鈍く輝く。その洗練された流線型のフォルムは恐怖を感じる程に美しく、同じ戦闘機でも不死鳥とは一線を画している。


 屋上に一度静止した死神はほんの数秒で再び中空に浮かび、糸で吊ってある航空模型を廻すかの様に、空中に静止したままグルんと機首がこっちを向いた。


『カランカラン』

「なに?」と音がする方を向いた。転がっている黒い板状の物にほっとして首をひねる。


「ふぅ、いや、こんな事してる場合じゃない!」


 死神から視線を逸らし、先を急ぐべく駐輪場に向かおうとした森羅の視線の先に砂埃が舞い、砂のカーテンの向こうに走る炎の轍が見えた。


 それに伴い轟く轟音。耳の奥に痛みを感じた森羅が呻く。


「クッ!」

 耳を塞いで膝を付く。何が起こったかはまだ分からない。ただ明確な命の危険を感じた。


 ふら付く両脚に渇を入れて立ち上がり、目を開ける。


「死ねない。未来に会うまでは死ねない」


 パニックに陥りながらも状況を確認する。


「ちゅ、駐輪場が無い?」


 赤さびた鉄パイプとトタン屋根を組み合わせた駐輪場の輪郭さえ見えない。いや、駐輪場が無くなるもんか、目の前を舞う砂埃が引けば見えるはず。そう言い聞かせた森羅は顔を挙げた。


「な、なんで」


 降りてきた災厄。

 地面にばかり気を取られて、上から降りてくる黒い影に気づかなかった。


「そ、そんな、なんで死神が僕を――」


 青白い顔で再び視線を逃がした先、地上には駐輪場だった物が辺り一体に散乱していた。


《カチャリ》機銃だけ動いて僕に向いた。僕に照準を合わせて空中で停止する。


「狙われている? そんなはずが無い!」


 そう口に出しながらも、正常な思考が失われた脳内を授業で勉強した戦闘機死神の脅威が駆け巡る。答え合わせをするように目の前の戦闘機と勉強した状況を照らし合わせる。あれは死神じゃないと、そう言い聞かせる為に。



 翼は前進翼。

 死神の代名詞の大鎌の如く緩やかに湾曲した主翼には死神のアートがある。

 光沢の無い漆黒塗料と翼の形状の絶妙なバランスで生じた奇跡の産物である磁気の加護は無反動での音速突破を可能とした。

 

 最高時速はマッハ五。現行機で唯一ラムジェットエンジンを搭載している。

 反重力スラスターを上下に装着した前進翼戦闘機。

 自由に高度を操り無限の運動エネルギーで戦う化物。それが見下ろしている。


 その逃げられない現実が森羅の脆弱な精神に食らい付いた。


「ハハ、ハハハ、嘘だろ……」


「動くな、地面に伏せろ!」


「……白姫の声、やっぱり本物」 


 逃げる事に慣れすぎた森羅は直面する現実から目を背けた。

 向いたのは大時計。そして、考える。


「二十分前まではクラスメイト話して笑っていたはず! なぜ白姫が僕に機銃を向けている? なぜ僕は機銃を向けられている?」


「こんな事あってたまるか」何かの間違いに違いない。


「夢だよな? ひ――」


 校舎の窓から見下ろす無数の顔。放たれる舐める様な奇異の視線は森羅に向けられていた。女生徒が顔を覆う様から自分が撃たれる様を連想した森羅は、凍り付く。


「夢、じゃない。ハハ、ハ、死にたくない」


 森羅は、顔をひきつらせて這いずりはじめる。



「今すぐ地面に伏せて両腕を頭の上で組め! これは命令だ、次は無い」


 冷徹な声に膝付いて下を向くと辺りが暗くなった。頬を掠める熱風が肌がピリピリとする。思わず一瞥して額に突きつけられた剝き出しの巨大な機銃に言葉を失った。


「うつ伏せに寝ろと言ったはずだ。膝を伸ばして地面に額を擦り付けろ!」


「わかった、わかった。撃たないで」


 刺すような声。


 森羅は、言うとおりにうつ伏せに寝て、頭の後ろに両手を組んだ。大量の砂埃が目から鼻から口から入り込み、各粘膜を刺激して大量の涙と鼻水を垂らし、何度も咳き込みながらも言葉を吐き出す。


「ッッウ! ぼくを――ゴホッ! ゴホゴホッ、ハァ、ハァ、ど、どうするつもりですか?」


「反抗したら殺して実験施設、反抗しなかったら拘束して実験施設」


 実験施設――。その言葉に青ざめた森羅は、顔を上げて叫ぶ。


「白姫! これは何かの間違いだ! 僕は第六地区に来て何もしてない! 毎日食べて寝てるの繰り返し! 本当に何もしていないんだ。こんな馬鹿な事、あってたまるか……」


「もうすぐ兵士達が来る。そのままの姿勢で動くな、生きていたいなら絶対に反抗しないでくれ……」押し殺した声、冷徹な声では無く、哀れみに満ちた声色はさらに僕を絶望させた。


「無様、さっきは少しかっこいいと思ったのにさ」


 森羅は、鼻水とよだれを垂れ流しながら声の主を探す。


「ククク、クハハハハハ! アーハッハッハ!」


 この笑い声はメル――


「これは傑作!」


「なんのつもりだ! それは何だ?」


 聞きなれた声と緊張した白姫の声。そして、頭部に感じる焼け付く銃身の気配が消えた。


「くくく、死神。その名は僕にこそ相応しい! 貰い受ける。あなたを倒して!」


 言葉の意味を理解した森羅は、必死にメルの姿を探す。メルはクラスでの小競り合いの続きをはじめるつもりだ。最強と名高い戦闘機死神を相手にして。


 反重力スラスターを使い上空に舞い上がった死神の姿に絶望を感じながら、祈るように森羅は、メルの姿を探した。


「ふふ、がっかりした! 死神というからには撃ってくると思っていたのに」


 いた。校舎の壁面に張り付く黒い巨人の肩に腰掛けたメルは、校舎に残る生徒を人質に空を見上げて白姫を嘲笑った。


「陸は、キング、空は、クイーン。僕に死角は無いよ! これからはこの天才が死神を名乗る」



「あ、あれは? 鳥?」

 違う! 銀色の光る無数の飛行物体が戦闘機死神の周りを廻っている。数を数えはじめた森羅は、途中でやめる。次々と隊列に加わる銀翼、翼と翼は重なり、その集団がひとつの生き物に見えてきた。数えるどころの騒ぎじゃない。何十じゃなく何百、何千の世界かもしれない。


 メルは、うっとりとした表情でそれを眺めて口火をきる。誰もが銀翼の群れに見とれていた。


「死神、お前は美しい。だけど、狩は群れで行うのが至高であり最強、単一のムラがある強さなど僕は一切認めないよ。証明してみせよう」



 上空で停止する死神の周囲を廻る物体は速度を上げる。いや、速さだけじゃない。


「ククク、空は無限。死神、貴様の死角はどこだ?」


 森羅は、目を見開いた。銀翼の正体を見極めるべく。


「無人機なのか?」

 濃密な密度で死神の前後左右あらゆる方向を高速で廻る。


 銀色の軌跡と軌跡が絡み合い、空に銀色の檻を作り出して中に死神を閉じ込めた。


「フハハハ、死角はそこか!」


メルは右手を空に掲げた。そして、叫ぶ。


「さて、チェックメイトの時間だよ! いけ! クイーィィン!」


 メルの声を皮切りに機首の左右に刃を出現させた無人機は突撃を開始した。


 戦闘機らしからぬ不可解な動きでそれを悠々とかわす死神。しかし、避けた先にも別の機体の刃が待っている。


 その応酬を繰り返す中で最初は、かすりもしなかった無人機の刃は、徐々に死神に近づいていく。このまま続ければ刃が死神を捉えるもの時間の問題にみえる。


「ククク、何手まで避けられるかなっ?」


 無人機同士で衝突しないのが不思議でならない。


 白い翼で入り乱れる様は群がるカモメに見えたが、実際のカモメとでは速度が全然違う。僕には見えているが。


「森羅君!」


「メル――」

 巨人の近くに停滞する白い鳥。鳥の様な形をしているだけでまったく鳥では無い。五、六メートルはあるだろう黒い巨人と比べて翼の幅だけで十メートルはある。


 メルはその翼に飛び移って、手をふった。


「君にキングを貸す、この巨人に乗って逃げるんだ!」


 その言葉を最後に銀色の鳥の背に開いた入ると空に舞い上がった。


 「いたぞ! 撃て!」


 振り向いた森羅。その視界に飛び込んできたのは、武装した兵士だった。森羅が、気づいたことに気づくとその場で発射姿勢をとる。


 瞬く間に弾丸が放たれた。大口径の単発ライフルを先頭にサブマシンガンの弾丸の嵐がそれに続く。伏せた状態からすぐ逃げる事が出来ず、しかし、何かで身体を覆う時間くらいはあったはず。しかし、森羅は目をつぶることしか出来なかった。


「ひ、ひ、ひやぁぁぁ」


 切れ目の無い発砲音に呻く。歯をカタカタと鳴らして、森羅は、祈ることしか出来なかった。しかし、どこかで諦めている自分がいる。フルオートで放たれた弾丸が当たらないはずが無い。


 突然の浮遊感に瞼を上げる。


「ウワァァアァァァ、ごめんなさい」


 兵士につまみあげられたと思って全力で謝ったが返事があるはずが無い。黒い巨人は僕を指先でつまみあげるとタオルをかけるように肩に僕を乗せた。


「おい、ちょっと、まって、まって!」


 ずり落ちそうになった森羅が背中のくぼみに指をかけると立ち上がった。


「落ちる、落ちる――」


 その後は声に成らない。走り出した巨人と兵士が発射した弾丸で生きた心地がしなかった。

 もみくちゃにされながら市街地を駆け抜けだした巨人の背にしがみつき、一度だけ振り返ると交差する銀と黒の軌跡はさらに輝き増していく。











 

 


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