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結局あの後は弟の突然の告白で頭がごちゃごちゃになって、うとうとしては起きるのを繰り返していたらいつの間にか朝になっていた。
朝ごはん、パン焼いて紅茶入れるくらいでいいかな。今日は土曜日でいつもなら早い(もしくはいない)父母は起きるのが昼近くになるから、二人分用意すればいいはず。
私も去年までなら土曜は休日だったんだけど、今年に入ってから受験生のために特別講習が行われることになったため、午前中は授業がある。
隆哉の学校はテストだって言っていたよね。顔、あんまり合わせたくないな。
いつもより一時間位早いけど、どうせ寝付けないしさっさと支度して家を出てしまおうか。
一晩考えたけど、弟にどういう対応をすればいいか全然わからなかった。
そもそもの問題として、「付き合って」とかそういった「はい/いいえ」で答えられるような告白をされてないし。
なるべく音がしないように鍵を開け、細心の注意を払ってドアを開ける。廊下の電気は点いていないけど、窓から日が差していて十分明るい。
父母の寝室から父のいびきがかすかに聞こえてきて、思わず微笑が浮かんだ。
よくお母さん、同じ部屋で寝られるよねぇ。
後ろ手でドアを閉め廊下に一歩踏み出したとき、隆哉の部屋のノブががちゃりと音を立てた。
「---!」
びっくりして思わず叫びそうになったけど、どうにか声を飲み込んだ。
姿が見える前に気づかない振りして下の階へ行ってしまおうか。そう思ったけど、行動に移すより早く隆哉が部屋から出てきてしまったので諦めた。
「おはよう。早いね。」
何気なさを装ってそう言うと、隆哉からも挨拶が返ってくる。
「……おはよう。」
テンション低めだけど、低血圧なのかいつもこんなものだ。
二人並んで階段を降りる。
寝不足だけど、背後に隆哉がいる緊張感で頭が一気に覚醒した。
もうごちゃごちゃ考えても仕方ない。普通が一番。
いつもどおりにするしかない。
「パン焼くけど、何枚食べる?」
「……メシいらねー。シャワー浴びる。」
「そう。」
ハイ、階段降りきるまでに会話終了。五秒も経ってない気が……。
後頭部に突き刺さる視線を感じながら、最後の一段にたどり着いた。
そう長くも無い距離でコレですか。こんな調子じゃ登校するまでにクタクタになってしまいそうだ。
内心ため息をつきながら一階の廊下に一歩踏み出したとき、急に後ろから隆哉の手が回され、胸に抱え込まれた。
息が止まり、全身が震える。
「なんだ。」
私の耳元に、隆哉は笑いを含めた声で囁いた。
「お前、メチャクチャ意識してるじゃん。」
「なっ……!」
頬が一気に赤くなる。
気まずくなったら隆哉だって嫌かと思った姉の精一杯の気遣いを何だと思ってるのか。
色々言いたいことがあるのに、焦って言葉にならない。
口をパクパクさせている私の肩に隆哉の頭が乗った。
少し重い。
「……良かった。もう口利いてくれないかと思った。」
「え。」
その発想は無かったな、逃げようかとは思ったけど。
「ようやく言えたのに、余計苦しくて一晩中眠れなかった。」
結構深刻に参ってる感じで、その手を無理に振りほどく気にはなれなかった。
私は迷ったあげく、体をよじって無理やり右手を伸ばし、隆哉の頭を数回軽く小突く。
「今日テストだって言ってたけど、ヤバイんじゃないの?」
「……テスト中寝るかも。」
オイオイ。
頭を押して肩からどけて、隆哉に向き直る。
「私も隆哉のせいであんまし眠れなかったし、責任とれないからね。」
一息にそう言って、くるりと体の向きを変え台所へと向かう。
なぜだか頬の熱さが引かなかった。