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「ごちそうさま。」
自分の分を食べ終わった隆哉は、さっさと茶碗を台所に下げ自分の部屋へ戻っていった。
姉弟二人だけだとリビングでくつろいだりしてるけど、両親が居るときはさっさと二階に上がってしまうような気がする。
まぁ高校一年生って何かと多感な時期だよね、まだ反抗期続いてるみたいだし。
明日までテストってさっき言ってたっけ。いつもなら文句言いながら皿洗ったりしてくれるけど、今日はそれどころじゃないのかもしれないな。
なんかいつもと様子が違うのも、テストのストレスだろうか。
私自身も情緒不安定だしね。隆哉のこと変だなんて言う立場に無い。
そんなことを考えつつ、最後の一口を口に放り込んだ。
「庸子ちゃんはテスト今日までだったのよね、お疲れ様。」
「うん。ようやく一息つけるよー。」
笑顔でお母さんにそう返す。
お母さんの横に座るお父さんは相変わらず無表情で、食べ終えた食器を下げもせずテレビのニュースを見ていた。
「もう高校三年生かぁ。いいわねぇ、青春☆真っ盛りってかんじ!?」
わざわざ頬に両手を添えて首をかしげながら、お母さんは言った。
うーん、真っ盛りはもう過ぎた感じがするのですが。
大体、私が行ってるのが女子高だということをちゃんと分かっているのだろうか。
私が高校生になってからというもの、しきりに恋バナを聞き出したがるのは彼女の悪い癖だ。
先ほどの言葉にもそういった含みを感じ取り、私は苦笑交じりに言う。
「どっちかって言うと、受験で暗黒時代到来、って感じかも。」
席を立ち、茶碗類をシンクに下げる。ついでに洗ってしまおう。
食器洗い用のスポンジに洗剤を落とし何度か軽く握ってあわ立たせていると、食べ終えた食器と共にお母さんが台所に入ってきた。
「お母さんがやっとくから、庸ちゃんはいいわよ。」
「え、でもいつもやってるし。」
「だから。」
「でも、仕事で疲れてるでしょ。」
……押問答状態になってきた。
「なら、一緒にやろっか。」
困惑交じりに笑ってお母さんがそう言うから、私も少し笑ってうなずいた。
お互い頑固なのだ。
私がそのままスポンジで食器を洗っている間に、お母さんは全部の食器を下げてダイニングテーブルを拭いた。
「あ、洗いあがった食器、拭いちゃうわね。」
「うん。お願い。」
二人、並んで立った。
おかあさんは小柄で、160センチちょうどの私より頭一個分身長が低い。
そんなおかあさんがキビキビ動くと、まさに「チョコマカ」っていう表現がぴったりだ。
うちの台所はカウンターキッチンになっていて、シンク越しにダイニングテーブルやテレビなんかも見ることができる。テーブルに座った父は、熱いお茶をすすりながら夕刊に目を通しているようだ。
それにしても身長といい性格といい、見事なくらい正反対の夫婦。
私が預けられていたという保育園で出会わなければ、接点があったようには思えない。
これだけお互い忙しい生活をしているのに夫婦の絆が揺らがないのは、相性が良いってことなんだろう。