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「それでね、驚いたことにケイ君っていう四歳の子がね……」
テンション高めにクスクス笑いながら話しているのはお母さん。
24時間オープンしている保育所の保母さんをしている。園長をしてることもあってとっても忙しい。
時折重々しく頷きながら静かに夕食を咀嚼しているのがお父さん。
会計だかなんだか(実を言うとあんまし良くわからない)の仕事をしていて、出張が続く毎日。こちらもまたすっごく忙しいみたい。
「そんなしゃべってて良くメシ食えんな、母さん。」
いつものことながら隆哉はあきれ気味にそう言い、おかずを口に運んだ。
久しぶりの家族揃っての夕食。
隆哉が中学生になって、お母さんが本格的に仕事を始めてから食事を姉弟でとることが格段に多くなった。
だからたまたま両親共に早く帰ってきた日の、四人で過ごすこんな時間はちょっと特別。
「……なんだよ。」
苦笑を浮かべながら隆哉は私を見た。
「え?」
「ニヤニヤしすぎ」
手を伸ばされ、頬をつねられる。
「ちょっ…何…」
「米ついてる。ガキかよ」
きゅっと口元をこすられ、背筋がぞくっとした。
何ですか、この無駄にアダルティーな雰囲気は。
わずか高1にして一瞬でこの空気を作り出すとは…、将来を憂うレベル。
そんな中、お父さんもお母さんは相変わらずマイペースに、全然関係ない話をペチャクチャしゃべったりモグモグしたりしてる。
オイオイ。
家に居るときくらい少しばかり子供たちの様子に気を配ってくれてもいいと思うの。
一瞬遠い目になりかけた私だけど、隆哉のしぐさにぎょっとした。
私の唇をこすった指を、ぺろりと舐めたのだ。赤い舌がのぞく。
驚いた私と目が合うと、ニヤリと笑った。
なななな。
「何…!」
動揺して立ち上がると、さすがに両親の視線がテーブルを挟んだ私たちに注がれた。
「……全部食べたのか?」
「仲いいのはいいけど、じゃれあうのは食事終わってからにしなさいね。」
穏やかな両親の視線に、私はなぜだか焦ってあわてて座る。
横の元凶は何事も無かったかの様に平然と味噌汁を啜っているのが忌々しい。
横目で軽くにらんで、残りのご飯に手をつけた。