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ファミリーラヴァーズ  作者: シンタグマ
第三章:天王山の冬休み
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 夏休みが明けた後の二学期は瞬く間に過ぎて行った。

 学校や予備校に漂う空気がどんどん張りつめた様になっていく様を肌で感じ、怖さと同時に興奮が湧きあがるような何とも言えない気持ちになる。

 怖いからだけじゃないぞくぞくするような期待感。シーソーのように揺れ動く自信と不安感。

 勉強することは、好きだ。

 好き嫌いで語るより、私に向いているんだと思う。

 すればするほど自分が磨き上げられていく実感がする。私はまだ伸びる。まだまだ成長する。前進しているような気がする。毎晩布団の下で体を縮めて、受験に打ち勝って春に笑っていられている、そんなイメージを思い描く。何度も何度も、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 根拠は無い。

 ただ努力している自負だけだ、トップレベルの学校を受験する集団の中でもけして引け目を感じない程には。

 だから大丈夫。

 努力し続けている間は、大丈夫。


 玲子さんからは一度だけ再度会いたいというメールが来たけれど、受験勉強を理由に断った。応援のようなメールはごくたまに来るけれど、一々返信はしていない。


 隆哉とのことは、特筆することもないような毎日だ。

 夏以降、彼の態度は前のように普通の姉弟に戻った。私の受験に対する意気込みを理解し空気を読んでいるのかもしれない。時々思わせぶりな視線を向けてくるけれど。

 今は受験勉強に関わらないことで心を揺らすのは嫌だ。安定した関係に波紋を生じさせた隆哉を恨めしく思う気持ちもあるが、そんなぐちゃぐちゃした気持ちには蓋をして学習に取り組む日々を送っている。

 ひょっとしたら私に飽きて心変わりしたのかもしれない。そうだったら良いとも思う。

 私の口から第一志望が自宅通学不可能な所だってことは伝えていないけれど、多分お母さんから伝え聞いているはずだ。

 距離を置いて私も彼も違った人間関係の中で時を過ごせば、きっとより自然な状態に戻れる。それが今後を思えば一番良いんだ。


 十二月を過ぎると、駅ビルはあっという間にクリスマスの装飾で彩られる。

 まぁ、そんなイベントの浮かれ気分は受験生に無縁だけど。今日もこれから模試だしね。

 でも、なんだか沸き立つ気持ちを感じつつ、私はショーウインドウのガラスの中で展示されたツリーの横を通り過ぎて模試会場へ向かった。


 わくわくする?

 大丈夫?

 余裕を持っていられたのは、決められた席に着席して問題用紙を開くまでの一時間だけだった。

 一問目を見て、息が止まる。手の震えを隠そうと、シャープペンシルを握りしめた。

 何で、あんなに勉強したのに。頭の中はその言葉で一杯。

 公式が頭の中を素通りする。

 どれを使う? どういう手順で解こうか。

 最後の模試だ、次はセンター本番なのに。焦りばかりが生まれる。

 先生にがんばれと言われたこと、友人と志望校の探り合いをしてさすがと言われたこと、志望校を打ち明けた時の父の笑顔、様々な場面が頭の中を通り過ぎる。

 問題用紙が回収された時、通常試験終了の時感じる解放感や安心感は全く存在しなかった。


 自覚症状は無かったが、テスト中歯を食いしばりすぎて頭痛がする。

 帰りの電車で座った座席で膝の上に抱えたカバンを抱きしめたら、視界がぼやけるのがわかり、顔をカバンにうずめた。

 どうしよう。

 その言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回る。

 試験に失敗したら、どうしよう。

 勉強すら、報われないものだったらどうすればいいの。

 すごく、怖い。

 電車は一度終点で折り返して、自分が降りる駅へ二度目の到着をした時に、私はようやく降りた。

 うじうじしても仕方ない、勉強するしかない。

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