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ファミリーラヴァーズ  作者: シンタグマ
第二章:夏に嵐
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挿話2 彼らのある日

web拍手のログです。唐突にスミマセン……

■本編より二年くらい前の春休みのとある一日です。弟視点。


「たかやー」

 ドア越しに声がしてノックが三回。

 二秒後にドアノブが回って、三秒後に彼女は顔を出す。

「俺の反応返って来てから、ドア開けろよな」

 なるべく不機嫌に聞こえるように、新藤隆哉は部屋に入って来た姉に声をかけた。

 この春休みが終われば彼は中学二年生になる。姉の卒業式はつい先週行われ、彼女は新学期からは高校生だ。

「隆哉ー、着て着て!」

 弟の反応は意に介さず、彼女は学習机に座った隆哉にビニールにくるまれたままの黒っぽい洋服のようなものを差し出した。

「は? 何だよソレ」

「高校の制服」

 姉はなぜか得意げに胸を張った。

「私ですら採寸除いて腕を通してないコレ、特別に着せてあげる!」

 意味がわからない。

「はぁ? 着ねーよ、俺」

「客観的に見てみたいんだよね、お願い」

「だからさぁ」

「お願いっ」

「き、着ねーし、絶対」

「お願いします!」


 何だかんだで彼は姉に滅法弱い。

 気がついたらボクサーブリーフ一枚でジャンパースカートに片足を突っ込んでいた。

「……何やってんだ、俺」

 「私も隆哉の制服着るから、それであいこね!」と姉は隆哉の制服を持ってサッサと自分の部屋に戻っていった。

「何なんだ、その理論」

 突っ込むのは遅すぎた。ため息をつきつつ、ビニールを破きジャケットを取り出す。

「こんな着方でいいのか?」

 そもそも良く考えたらジャンパースカートの下にシャツ着たりするんじゃないのか。

 なんだかアイテムが足りない気がする。

 ジャンパースカート一枚で座り込み破き散らかしたビニールをまさぐっていると、ドアがガチャリと開いた。

「ごめーん、ブラウス渡してなかった!!」

 やはり、足りなかったか。

「おせえ……ってお前」

 姉の格好を見て、隆哉は思わず赤面した。

「なんだよ、そのカッコ」

 俺のシャツしか着て無いんだが。

 姉の太ももの三分の二が露出している。その足の白さに目が奪われ、心臓が大きく音を立てて鳴った。

「え?あ。まあパンツ見えてないし良いじゃん、白シャツ着た時点でブラウス忘れてるって気づいたから。隆哉随分おっきいシャツ着てるんだね」

 あははっと明るく姉は笑い近寄ってきた。

 中学入学時用意したシャツはあっという間にサイズアウトし、次に母が用意したシャツは隆哉にとっても大きなものだった。昨年身長を追い越した姉にとってブカブカに決まっている。

「そーいう問題じゃない、ズボンはいて来いって」

 語調もきつくそう言うが、姉は全然気にしない様子で隆哉の隣にしゃがみこんだ。

「あー、やっぱ地味だよね、公立だし仕方ないか」

「おいっ、やめろって」

 急に裸のわき腹に姉の手が触れて、隆哉は身をよじった。ますます顔が赤くなる。

「サイドファスナー、おもいっきり空いてるからつい」

「つい、じゃねー」

 セクハラだ。

 思わず瞳が潤む。なんだか姉の近くに寄るといつもこうだ。

 心臓が高鳴る。意識が全部彼女に向かう。息をするのも苦しい。

「じゃ、ブラウス下に着てみてね。肌に直接スカートって気持ち悪いでしょ」

 彼の気持ちも知らずに彼女はにこりと笑いかけ、立ち上がって部屋から出て行った。

「……なんなんだよ、あいつ」

 隆哉は閉じられたドアに向かって呟いた。

 無神経すぎ。

 恥じらいとか、ないわけ。

「弟だもんな……」

 しゃがみこんだまま、両手に顔をうずめた。

 全然似ていない姉弟だけど、半分血はつながっている。

 もっと似ていれば、これほどに惹かれなかっただろうか。

 欲しいと思わなかっただろうか。

 でもそんな仮定は意味が無い、あるのはこの現実だけ。

 隆哉は顔をわずかに上げて、向こうに彼女がいるはずであろう壁をぼんやり眺めた。


+++++++++++++++++

■本編より二年くらい前のとある夕方です。弟視点。

 一歩づつ足を前に運ぶ。

 走り始めたときは直に息が上がってしまったものだが、今では一時間走ってもペースが乱れることは無い。

 ランニングは好きだ。続けるだけその効果が実感出来る。何より余計なことを考えなくて良いから。

 左腕に付けたスポーツウォッチを見て現在時刻を確認する。

 午後五時半。あと三十分走ったら家に帰ろう。くたくたに疲れるまで……何も考えられない位に。


「元気だねー、夕食すぐ食べる?」

 シャワーを浴びて浴室から出ると、直ぐに彼の姉が声をかける。

「うん……母さんは仕事?」

「うん、頑張ってるみたい。お父さんも遅いって」

 隆哉が中学に上がってから、母親が働くようになった。隆哉は母親と馬が合わないのを以前から感じていたため、母が不在がちなことに対して何ら不満は無い。

「じゃ、今日も二人か」

 何気なさを装ってそう言った隆哉は、それとは裏腹に脈拍が速くなるのを自覚した。

 ヤバイ。何か、前から兆候はあったけど、うすうす気づいていたけれど、本当にまずい。

 台所へ戻って行った姉の後姿を目で追いつつ持っていたフェイスタオルで頭をがしがし拭きながら、隆哉は痛む胸の原因を思った。



++++++++++++++++++++++++

■第二章:夏に嵐11くらいの弟視点です

 息苦しい。

 後頭部の下から首の後ろに何かが乗っている。

 隆哉は薄く目を開けた。

 炎天下の部活はしんどい。半日とはいえ太陽光線が降り注ぐ下でサッカーをすると、体力が根こそぎ奪われる。今日は帰ってきても一人で楽しいこともなかったし、シャワー後の睡魔に勝てず随分長い時間寝てしまった。

 膝を折り曲げてソファーに伏した状態で横たわっているため、視界には影がかった座面しか入らない。どうも誰かが乗っているような重み。

 それに気がついたと同時に息が止まりそうになった。鼓動が早くなるのを感じる。

 一気に目が覚めた。

 庸子?

 息が首筋にかかるのを感じて、赤面するのを自覚した。

 最近は廊下ですれ違うのが一番近い距離。思いを伝える以前はあっちから抱きついてきたり、ことあるごとにちょっかい出されてたのに。

 意識されてると思えばそんなに悪い傾向でもないけれど。

 ……あれ、こんな匂いだったっけ。

 たしかにいい匂いはしてたけど、もっと自然な感じだった。今嗅いでいる匂いは「フローラル」って雰囲気の匂いだ。外の匂い。

 もしや、母さんだったりして。

 一気に気分が急降下する。

 隆哉は眉を寄せて考えた。

 何時かも分からないから、母さんが帰宅したってことも考えられなくもないけど、わざわざ思春期の馬が合わないと思い知っている息子にこんなことするとは思えない。やはり庸子なのではないか。


「がんばろう。がんばんなきゃ」

 姉の声が耳元でしてはじかれたように起き上がるまで、悶々と葛藤し続けていたことを知っているのは本人だけだった。

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