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ファミリーラヴァーズ  作者: シンタグマ
第二章:夏に嵐
21/30

 乗車していたのは三十分弱であろうか。

 今日の予定をはぐらかすばかりの玲子さんに連れられた先は、表通りからは少し外れた隠れ屋的な雰囲気の美容院だった。

 まごついているうちに鏡の前に座らされ、首にいい香りのするタオルを巻かれる。

「もう少し軽い感じにしてくれたらカワイイと思うんだけど、どうかな。学校の規則もあるだろうし、何より本人の希望もあるからセットだけでもいいけど」

「そうですね。今のままだと少し重いから、カットは毛量調整と毛先を整える程度にしましょうか」

 本人そっちのけで、玲子さんとこれまた綺麗な美容師さんが会話をしている。艶やかな黒髪が印象的な格好良い女性だった。

「あの」

 何でここに座らされたのか、これから何されるのか、私の希望はちっとも聞かないことに憤りを感じつつもどうしようもない疲労感が押し寄せる。そんな私に向かって、玲子さんはわざとらしく人差し指を立てて、口を閉じるようジェスチャーで示した。

「今日だけはあたしに付き合って。お願い」

 口調は優しいけれど、押し付けがましくもあった。軽く眉をひそめて鏡越しに玲子さんに視線を送るが、何を考えているか良くわからないけれど確実に何か企んでいる表情で私に笑みを向ける。

「いろいろしてあげられるのは会っている時だけだから。……当然、なんだけどね」

 自嘲めいた響きでつぶやかれたその言葉を、私は聞かなかったことにした。


 かくん、と首が前に倒れて一瞬息が止まる。

 そうだ、ここは美容院だった。焦りながら辺りをうかがうと、鏡越しに美容師さんと目が合った。

「すみません……」

 気まずげに謝りつつ、鏡に映った自分を見て心臓が跳ねた。誰だ、って私か。

「いえいえ、リラックスして頂いて光栄です」

 微笑しながら美容師さんは私に話しかけた。

「とても良く似てらっしゃいますね、美人姉妹で羨ましい」

 鏡の中の私の口が半分だけつりあがった。

「あ、あはは」

 乾いた笑いで場をごまかす。そうだよね、姉妹に見えるよね。……母子には到底見えない。

 私自身、鏡に映った私が玲子さんにあまりに似すぎていて驚いた。

 伸ばしっぱなしでろくに手入れしていなかった髪の毛は、すかれて全体的に巻かれ、ハーフアップにまとめられている。

 いつの間にか軽く化粧までされているのだろう、最近気になっていた目の下の隈が目立たなくなっていた。ファンデーションがうっすら塗られているのか、いつも日焼け止めすら付けないため顔に何か貼り付いている感じが嫌だ。制服を着ていなければ大学生通り越して社会人に見える。

 ここまでされていても自分が寝続けていたことにも驚いた。

 疲れていたんだ、仕方ない。そう自分を納得させた。

「髪型で大分印象ってかわるんですねぇ」

 思い切り他人事の口調でそんな感想を言った直後、玲子さんが勢い良く姿を現した。

「セット終わった?……あら可愛い」

「ちょうど終わったところです」

 私でなく美容師さんが答える。

「大人っぽくなったねー、可愛い」

 にこりと微笑みつつ玲子さんは肩に下げていた紙袋を店員に差し出した。別室で待機していたようだ。

「予約していた更衣室も使わせていただくわ」

 目をぱちくりさせる私に、玲子さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて視線を向ける。

「あたしと骨格似てるから大丈夫かなとは思うんだけど、着てみないとわからないよね」

「え?」

「制服も悪く無いけれど、結構いいレストランだし、似合いそうなワンピースがたまたま家にあったのよねー」

 美容師さんにケープと首に巻かれたタオルを外されて、立つよう促される。

 私は力無くため息をついて、立ち上がるべく足に力を入れた。


「やっぱり似合う」

 更衣室のカーテンを開くと、すぐ近くに玲子さんがいた。

 彼女が得意げに言った言葉を聞き流し、私は自分の格好を見下ろした。

 丈が短い。膝上十センチはカタい。何か無駄にヒラヒラしている。袋に入っていたストッキングも身につけたので生足ではないけれど、落ち着かなさは感じたままだ。

 更衣室の外に置いたいつものローファーの横には、ヒールの高いパンプスが置いてあった。これを履けということだろうか。

「……やっぱ、制服に着替えます」

「ちょっと待った!」

 更衣室へと身を翻した私の二の腕をがしりと掴んだ玲子さんは迫力のある笑みで私を圧倒した。

「すっごく似合ってるのに、脱ぐなんて言わないわよねぇ」

「ええ勿論」

 私は完全に棒読みでそう答えた。


 脱いだ制服をたたんで袋に入れている間にお会計は玲子さんが済ませてくれたらしい。

「ちょうど良い時間になったし、ご飯食べに行きましょ」

 腕を引かれて、美容院を後にした。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 店外まで出てお礼の挨拶をする美容師さんに向き直ってお礼を言うと、横の玲子さんが微笑んだのが気配で分った。

「……玲子さんも、ありがとうございました」

 小さい声でそう言うと、玲子さんは少し目を大きくしてから、嬉しそうに笑った。

 不本意ではあるけど、お金払ってもらったお礼は言わないとね。私はそう思って、ひらひらするワンピースの裾に視線を落とした。

ありがちな展開でスミマセン

更新遅くてスミマセン……

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