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ファミリーラヴァーズ  作者: シンタグマ
第二章:夏に嵐
20/30

 予想はしていたが、模擬試験の難易度は相当なものだった。

 試験終了の合図の後、速やかに解答用紙を回収した試験官が教卓の前で結果の郵送日についての説明を始めた。受験者たちはそれと同時に筆記用具をかばんの中にしまい出して、室内はざわめきだす。

 昨日土曜日は午後から夕方まで、模試二日目の今日は朝から昼食休憩を挟んで午後二時過ぎまで問題用紙と向き合っていた。

 勉強もテストも嫌いじゃないが、予備校の教室というピリピリした空気の中で集中力を途切れさせずにテストに取り組むってかなり疲れる。

 頬杖をついた手のひらの内であくびをかみ殺した。

 正直なところさっさと帰宅して夕食前に昼寝でもしたい気持ちだったけど、約束がある。そうするわけにはいかなかった。


 駅前にある案内板の前には既に待ち合わせ相手が来ていた。

 黒い日傘とレース素材の黒いカーディガン、その下に着ているのは品の良い白いワンピース。

 思わず自分のダサい制服を眺め下ろし、少し頬を引きつらせた。こんな格好で来てしまったことを悔やむ。靴下は中途半端な丈で白いし三足で千円のやつで、鞄なんて中学時代から使い倒してる薄汚いサブバックだし……。

 前回も思ったけど、ウチのお母さんや参観日に会う友人の親達とは明らかに人種が違うとしか思えない雰囲気を彼女はまとっていた。

 片足に体重をかけて立つ様はファッション雑誌から抜け出たようで、声をかけることにためらいが生まれる。私みたいな普通の学生と全く接点がなさそうな人種だ。

 綺麗な人、純粋にそう思った。

「すみません、暑い中お待たせしました」

 足早に彼女に近づき、一息にそう言った。

 暑いからだけじゃない汗が背中を伝う。

 なんか、自分の格好のことが気になって落ち着かなかった。思わず俯きがちになると彼女の細くまっすぐな白い足が目に入り、どきりとする。

「こっちこそ、試験の後にごめんね。疲れたでしょ」

 にこやかに微笑みながら、彼女は柔らかな声音で私へねぎらいの言葉をかけた。

「いえ、別に……」

 口ごもりつつ腕の時計を確認する。時刻は午後二時二十分を示していた。待ち合わせに五分も遅刻してしまった。彼女がいつからこの場所に居たかは分らないが、この炎天下だというのに汗が浮かんでいないのは驚きだった。こういう人種は汗をかかないのかも知れない。

「お昼は食べたの? お腹は空いてないかな」

「はい、試験の合間にお弁当を食べたので」

「そう、良かった。夕食、予約してるんだけど大丈夫だよね」

「え、あぁ、はい。大丈夫です」

 軽くお茶をする程度の認識だったので、思ったより拘束時間が長くなりそうなことに少しうんざりしたが、話す内容が内容だ。お母さんに「友人と外食する」とでもメールすれば問題無いだろう。そもそも、今日も働いていたような気がする。

「そう。じゃあ、行きましょうか」

 語尾にハートや音符などの記号が見えるようなはしゃいだ声を出して、玲子さんは私の左腕に腕をからめた。

 むき出しの腕同士の感覚とふわりと微かにいかにも大人、といった香りに私は身をこわばらせた。

 距離近いんだけど、この人。

「あ、イヤかな。なんか娘っていうか年の離れた妹、みたいな感覚で一緒にどっか行くみたいなの嬉しくて……」

 彼女は体を離しつつ、なぜか照れた様子で私を伺うように見た。

 そりゃあ、アンタに育てられた覚えありませんから、そう思うのも当然でしょうが。

 私は冷たい視線を彼女に送った。

「夕食まで時間あるし、買い物いきましょ!」

 きゅっと左手を握られる。

「え……あの」

「会える時しかこういうことしてあげられないし。出発!」

「え、ちょっと……」

 戸惑う私に目もくれず、彼女はぐんぐんタクシー乗り場まで歩みを進める。

 半分押し入れられるようにして後部座席に乗り、彼女と並んで座った。

 行き先を運転手に告げる彼女を苦々しく思いつつ、あまりに楽しそうな表情に毒気を抜かれた。

「どこへ行くんですか」

「え、庸子ちゃんプチイメチェンツアー?」

 ぶりっ子のように小首を傾げつつ玲子さんは答えた。

 ……意味がわからない。

 この人、やっぱり苦手だ。

あけましておめでとうございます。

皆様にとって2012年がすばらしいものになりますように。


そしてこの連載をちゃんと完結させられますように。

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