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隆哉の事は気にしないようにして、テーブルにトーストと紅茶を並べる。
迷ったけれど、結局パンは二枚焼いていた。
隆哉が食べなくても、お父さんかお母さんに食べてもらえばいいし。
冷蔵庫からピーナツクリームを取り出して、それをすくうスプーンを用意する。
……。
なんかずっと視線を感じるけれど、気にしないようにする。
椅子を引き座って紅茶を一口飲んで目を閉じると、急に眠気が襲ってきた。
あー眠い。
今日、午前だけの授業で良かった。一応優等生で通ってるので、居眠りする自分は許せない。
目を開いて、トーストにクリームを塗る。
胃がムカムカするけど、何か食べないと授業中お腹が減ってしまう。
トーストにかじりつくのと、私の横の椅子が引き出されるのは同時だった。
「なんかお前って動物っぽいよね。」
笑いをにじませた声でそう言いながら、椅子に腰掛けたのは隆哉。
前から「お前」って呼ばれてたけど、それがやけに癪に障る。
四人がけのテーブルで三席空いてるんだから、わざわざ隣に座らなくても良いと思うんですけど。
隆哉側の身体半分に意識を持ってかれそうになるが、どうにか我慢した。
普通のことでしょ、いつもの席だし。
「紅茶、アレ。パン食べるならどうぞ。」
目は向けず、そっけなくそう言う。
少し身体を隆哉と反対側にずらしたのは誤差の範囲です。
「どうも。」
紅茶を取るために伸ばされた隆哉の腕が目の前を横切る。
スポーツメーカーの半そでТシャツから覗く腕には程よい筋肉がついていて、私の腕とは全然違うんだなぁとしみじみ思った。
私の腕、どう見ても筋肉より脂肪のほうが多いもんね。血管見えないし。
トーストをもぐもぐ食べながらさりげなく横目で隆哉を見上げると、紅茶を口元まで運んだ彼とばっちり目が合った。
私が思い切り目を逸らすと、隆哉は苦笑交じりに小さくため息をついた。
「……あのさ、もうちょい普通にして。」
「え、全然おかしくないでしょ、フツーだし。」
私はそう言いつつ、パンをくわえたまま椅子をずらし、隆哉から身体半分遠ざかる。
ぎぎー、という椅子を引く音が白々しく部屋に響いた。
「意識してくれんのは嬉しいけど、そういう態度とられたらちょっと傷つくっていうか。」
隆哉が紅茶をテーブルに置く音が響く。
「そんなに構えられると期待に答えなきゃいけない気になるよね。」
「はぁ!?」
彼の笑顔、とても邪悪な感じなんですけど。
パンを落としそうになったが、どうにか持ち直す。
あーあ、指にクリームが付いちゃったよ。
「庸ちゃんは普通にしててよ。急に今までの関係壊せるとは思ってないし。」
苦しめば良いとか、普通にしててとか……好きだ、とか。
「ずいぶん色々勝手なこと言うよね。」
隆哉を見る私の視線は、相当恨めし気なものになっていたと思う。