彼女は桃の花
あら、隣に座りたいの?
ええ、空いてるわ。荷物退けるわね。
さ、どうぞ。
はじめまして。
え、何歳か?
レディに聞いちゃダメなのよ。
そう、ナイショ。
これ?素敵でしょ。桃の花、もらったの。
あなた、花言葉って知ってる?
特別に教えてあげるわ。
桃の花言葉は、「私はあなたの虜」。
私にふさわしいでしょ?
あなた、恋したことある?
私は恋ってよく分からないの。
みんな私のことを好きになるわ。
みんなが私を愛してるの。
私はそれを受け取るだけでいいのよ。
パパがそう言ってたの。
でも、いつか私も愛してみたいの。
私にふさわしいイケメンな王子様に出会ったらね。
ところであなた、ステキなお洋服ね。
私のお洋服もステキ?ありがとう。
この帽子は新しいの。
前のが使えなくなったから、ママが買ってくれたのよ。
お姉さんっぽくてステキでしょう?
あら、おうちの人が来たみたい。
もう行かなくちゃ。
話してくれてありがとね。
さようなら。
******視点交代******
彼女は手を振って、隣に控えていた女性と共にダンディなお爺さんの車へ向かった。
新しい帽子の鮮やかな色が車の中に消えていった。
彼女の話でふと気になって、スマートフォンを開いた。
桃の花言葉を検索する。
桃の花言葉は、「チャーミング」「気立ての良さ」「私はあなたのとりこ」「天下無敵」。
なるほど、彼女にぴったりだ。
笑顔がチャーミングだし、快く席を譲ってくれた優しさから気立ての良さも感じとれる。
この短時間で私も彼女の虜になった。
それに、物怖じせず初対面の私と喋る姿は、天下無敵という言葉がよく似合う。
私があれくらいの歳の頃は、人見知りしていたと母から聞いた。
おませな女の子だったな。
かわいらしい黄色い帽子を被った彼女の胸には、もも組のおなまえバッジが光っていた。




