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白銀は孤独をお望み  作者:
プロローグ
8/11

0-8 婚約報告


 8歳になってからもヴィオラの毎日は変わらなかった。

毎日支部長に決めてもらった基礎訓練のメニューをこなし、先生の授業を受ける。

空いた時間には本を読み、たまに騎士団支部や王立図書館、お呼ばれしたお茶会に出かける。

忙しくも充実した毎日を送っていた。


 そんなある日の朝、いつものようにアリアに髪を結んでもらっていると、メイドが大慌てで部屋に入ってきた。


「お、お嬢様!お手紙が届いております!」

「そんな大慌てでどうしたの?」


尋常ではないメイドの焦り様を怪訝に思いながら手紙を見ると差出人はフリージアだった。

いつものお茶会の招待状かと手紙を開けて、ヴィオラはギョッと目を剝いた。

そこに記されていたのは『婚約のご報告』。

それはメイドも慌てるわけだ。

少々動揺しながら手紙を読み進めると、どうやらフリージアが第一王子と婚約をしたようだった。


(なるほど、第一王子ね。...って第一王子ぃぃ!?!?)


確かにフリージアは公爵家なので不思議な話ではない。

だがしかし順当にいけば王位継承権第一位であり、将来この国の王となる人物の婚約者、つまり未来の王妃を決めるのにはいささか早すぎる気もしなくもない。

しかし、婚約者が決まるのは早くて6歳からという話も聞くのでこれもまた不自然ではないのだろうか。

 唖然としながら手紙を読み進めると、王城での正式な婚約発表のパーティーにはまだ社交界デビュー前の令嬢たちは参加できないので、フリージアの家でいつものお茶会のメンバーでささやかな婚約発表パーティーを開催するとのこと。

今回の手紙にはその招待状も同封されているという。

改めて封筒の中を確かめれば、もう一枚厚紙でつくられた招待状が入っている。

あまりにも驚愕の展開に呆然としていると、アリアが声をかけてくれた。


「お嬢様?大丈夫ですか?」

「う、うん。突然のことでびっくりしてただけ」

「お手紙にはなんと?」

「フリージア様が第一王子殿下とご婚約されたそうで。婚約発表パーティーへの招待状も入ってた」

「あら、それはおめでたい!パーティーにはうんとかわいらしいドレスで参加しませんとね!」

「そ、そうだね....」


もはや主人よりも主人の美の追求に一生懸命なアリアだった。




***




 パーティー当日。

ヴィオラは朝からメイドたちにあれこれ着飾ってもらい、いつものお茶会より気合の入った格好でアポフィライト邸宅へと向かった。

シルバーの髪は後頭部でお団子にし、瞳と同じ紫の宝石をあしらった髪飾りが控えめながらもその存在を主張している。

ドレスはくすんだピンク色。派手ではないが、落ち着いた色合いがヴィオラの白い肌と銀の髪をより一層美しく引き立てていた。


 パーティー会場はいつものバラ園の中にあるテラスではなく裏庭で行われるらしく、アポフィライト家の執事が会場まで案内してくれた。

裏庭は噴水を中心にきちんと整備された芝生広場が広がっており、そこにパーティー用に机がいくつも並べられていた。

白いテーブルクロスの上にはおいしそうな料理やデザートが並んでおり、すでに何人かのご令嬢が食べ物片手に歓談していた。

 このようなパーティーに初めて参加したヴィオラは物珍しそうにその会場を観察する。

いつものお茶会メンバーと手紙には書いてあったが、見慣れない人間もちらほらいる。

おそらくこの際に友好関係を広げようというフリージアの魂胆だろう。


 観察も程々にヴィオラは主催者に挨拶をと、何人ものご令嬢に囲まれているフリージアのもとへと向かった。

いつもの無表情で「失礼」と声をかければ、まるでモーセのように人がざっと割れてフリージアに続く道ができる。

相変わらずの避けられようだな、と思いながらもありがたくその道を進み、フリージアの前へと立った。


「フリージア様、この度はご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、あなたに祝ってもらえてうれしいわ」


ドレスの裾を持ち上げながら恭しくお辞儀をすれば、上品にフリージアが微笑む。

いつもの社交界用に貼り付けられた完璧な笑みだ。

ヴィオラはこの顔がアメコミのヴィランも顔負けの悪い笑みを浮かべることを知っている。

 彼女のペルソナを滑稽だと吐き捨てることもできるが、フリージアのそれは人と関わっていくうえで必要な技術だとヴィオラは認識している。

自身はそれをわかっていてもなお、めんどくささと苦手意識から避けてしまっているので、彼女に尊敬の念を抱いているのも事実だ。

ウィズにも言われたが、社交界でうまくやっていくためにはこういったスキルを身につけないとな、とフリージアを前にするとより一層痛感するのだ。


 ヴィオラがいると周りの令嬢が委縮してしまうので、挨拶もそこそこにフリージアとは別れ、自身もパーティーを楽しむことにした。

机からオレンジジュースの入ったグラスを手に取り、パーティー会場の隅っこに移動する。

ヴィオラはフリージア以外まともに話す友達がいないので、大人数が集まるお茶会ではいつも端の方でおとなしく人間観察をしつつ、令嬢たちの噂話を盗み聞きしているのだ。

今日のご令嬢たちの話の種といえば専らフリージアの婚約と、その相手である第一王子。

耳をすませればそこら中から二人に関するあれやこれやが聞こえてくる。


「第一王子といえば、フリージア様と同じ8歳ですって」

「この年齢にして相当優秀だとお聞きしますわ」

「なんでも非の打ち所がない完璧王子だとか」

「容姿もとても整っていらっしゃるそうよ」

「まぁ一目でいいから見てみたいわ」

「フリージア様もとても素敵な方だものね」

「お二人がご婚約されるのも納得の_」


婚約に関しては祝福の声がほとんどだ。

第一王子についてヴィオラはほとんど知らないが、ご令嬢たちの話を聞くところによるととても評価が高い。

完全無欠の王子様と、容姿端麗で(一見)品行方正な公爵令嬢。

なるほど、彼女の周りに反対する人間がいないのもうなずける。

フリージアはここら一帯の領地のご令嬢たちの間でもとても評価の高い人間だ。

大体の人間はフリージアに気に入られようとその機会を伺っているほどに。

ヴィオラは王都に住む貴族のことはよく知らないので、フリージアが王都でどのような評判かは知らない。そのため、今回の婚約が王子側の人間にどう思われているかも分からない。

だが地方貴族であろうと、その婚約を一定の貴族に祝福されていることは社交界でのアドバンテージにつながる。

もしこのような時のために今まで上品で愛らしい令嬢を演じてきたのであれば、なかなか良い結果につながったと言えるだろう。

フリージアが何を目指しているのか知らないが、第一王子の婚約者というのはそれだけでこの国一番のステータスだ。


(ま、今後どうなるかなんて分からないけど)


ヴィオラはぼんやりと空を見上げた。雲一つない快晴だ。


(いつか私にも婚約者とかできるのかな)


この世界の貴族は基本的に政略結婚。そこに本人たちの意思はほとんど存在しない。

前世では若者らしく甘酸っぱい恋をしたこともある。

今世でも誰かに恋をするのだろうか。

したとして、その恋が成就する確率は低いだろう。


(まぁうちの両親は私の恋を応援してくれそうだけどね)


自分をめいっぱいかわいがってくれている両親を思い出して小さく笑った。

 ふとフリージアを見つめる。

相変わらず婚約話をききたいご令嬢たちに囲まれた彼女は、いつものように疲れた顔一つせず誰にでも愛想よく接していた。

そんな完璧な彼女でも誰かに恋をするのだろうか。

ヴィオラはあのフリージアが顔を紅く染め、恋に悩む姿を思い浮かべて苦笑した。

彼女ならたとえ恋をしたとしても、いつもと変わらず狡猾に恋人の座を狙うのだろう。


 もしも、とヴィオラは空想する。

もしもここが物語の世界なら、フリージアは間違いなく悪役令嬢だろう。

世の中にあんな悪い顔で笑う正ヒロインがいてたまるか、と心の中のオタクが主張している。

ならばこの世界のどこかに主人公となるヒロインがいるのだろうか。

もしヒロインがいたらきっとそのお相手は悪役令嬢の婚約者の王子様だろう。

もしかしたら乙女ゲームのように複数人攻略対象がいて、ヒロインとヒーローたち、そして悪役令嬢によるどきどきの学園生活などが待っているのだろうか。

ならばヴィオラはどのような立ち位置になるのだろう。

ヒロイン?そんなわけない。

第2の悪役令嬢?悪役令嬢が二人もいてたまるか。

もしここが物語の世界ならきっとヴィオラは__


(悪役令嬢の取り巻き。大物貴族の威を借るモブ、かな)


大変遺憾だが、フリージアのオトモダチをしているヴィオラにはそんな肩書がお似合いだろう。

まぁこんなのただの妄想であって、なんの意味もないのだが。


(あーあ、人間関係とか放っておいて、一人で優雅にくらしたいよ~~)


ヴィオラは孤独が好きなのだ。


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