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白銀は孤独をお望み  作者:
プロローグ
3/12

0-3 前を向いて

(____私、転生しちゃった!?!?)


ヴィオラがいきついた結論はこうだ。

まず、日本人である杉本結は登校中の不慮の事故で命を落としてしまった。

そしてかつてとは違う世界でヴィオラ・シルヴァとして生をうける。

荒唐無稽だと言われればそれまでだが、そうでもしないと現状の説明がつかないことも事実だった。

どうして今になって突然前世の記憶を思い出したのかは分からないが、前世の創作の世界では転生した主人公が何らかのきっかけで前世を思い出すなんてざらにある話だ。


(まって、ということは私はラノベの主人公みたいにチート能力持ってたり、乙女ゲームの世界に転生しちゃったりとかしてるってコト!?不謹慎かもだけどこれはかなり興奮する、ニマニマがとまんねぇ)


前世で何回も見たことのある展開に口角が上がりそうになるのを必死に抑え、かえって気持ちの悪い笑みを浮かべるヴィオラ。

彼女はどこまで行ってもただのオタクであった。

しかし、歓喜の表情はたちまち消え失せていく。

ヴィオラとしての現実を受け入れるにつれて、前世にはもう戻れないという変えようのない事実が心にぽっかりとおおきな風穴を開けた。


(そうだ、私死んだんだ)


正直、前世での未練はかなりある。

好きな作品の完結を見届けてないし、推しのライブにも行ったことがない。

大学では好きな分野をたくさん学んで、いい会社に就職してお金を稼いで、推し活して。

いいお家に住んで、素敵な人と結婚して、幸せな人生を送る。

どこかぼんやりと思い浮かべていた人生の続きをもう歩むことはできない。

大切な人たちにだってもう会えない。

脳裏に浮かぶ、父と母のやさしい笑顔。

これからたくさん育ててくれた恩返しをするつもりだったのに。


(もう何も返せない)


気づかないふりをしていた事実に限界を迎えたヴィオラの心はついに決壊した。

まだどこか慣れない小さな体を自身の両腕できつく抱きしめながら、止まることを知らないかのように流れ続ける涙の生暖かさを感じる。

思うように息を吸えずどんどんと呼吸は苦しくなるのに、今のヴィオラには嗚咽を我慢することが精一杯だった。


(お父さん、お母さん、)


「ぅあ、あっ、」


とうとう口から漏れ出たかすれた悲鳴に反応するかのように、部屋の扉が開け放たれた。


「ヴィオラ!!」


大急ぎで入って来たのは父と母だった。

もう会うことのできない杉本結の両親ではなく、ヴィオラの両親。

うずくまるヴィオラに二人は慌てて駆け寄ると、その華奢な体を力いっぱい抱きしめた。


「どうしたんだヴィオラどこか痛いのか?」

「大丈夫よ、パパとママがそばにいるからね」


(あぁ、あたたかい...)


それは杉本結がもう感じることのできないぬくもりだった。

頭をなでる優しい手にヴィオラはとうとう我慢することなく大声で泣き出した。

両親はそんなヴィオラに何を言うでもなく、ただ抱きしめ続けた。


 それからどれほど泣き続けていたのだろうか。

水色だった空が夕焼け色に染まりだした頃、ようやく落ち着きを取り戻したヴィオラを両親はそっとベッドに寝かせた。


「疲れたでしょ、今日はもう寝なさい」

「お医者様には明日見てもらおうな」


「おやすみなさい」そう言って二人はヴィオラの頬と額にキスをした。

両親の優しさに再び涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえ「おやすみなさい」と返した。

 こんな優しい両親に育てられどうしてヴィオラはこんなわがままに育ってしまったのか、今までの自分を思い申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

しかしこちらを見つめる両親のまなざしにハッとした。


(過去は変えられない。私が死んだ事実も変えられない。お父さんとお母さんにもう会えないのは悲しいけれど、いつまでもくよくよしてられない。前に進まないと。せっかく前世の記憶を思い出したんだ、これを生かさないでどうする。今までの事を悔やむだけじゃだめだ、これからどうするか考えなくちゃ)


そうひっそりと決意をするも、泣きつかれた幼いヴィオラの体力は限界を迎え、襲い来る眠気に瞼がゆっくりと閉じていく。


(ああ、でもこれだけは伝えないと)


(お父さん、お母さん)


「ありがとう」


(…さようなら)


そうしてヴィオラの意識は暗へと溶けていった。




***




 翌日の朝、目を覚ました後再び街からやってきた医者に体を診てもらったが特に異常はなく、二人分の記憶に耐えられなかったヴィオラの幼いからだが起こした一連の事件は、ストレスが原因ということで落ち着いた。

念のため数日間は安静にしていることと、無理をしないことを言い渡され医者は自分の診療所に帰っていった。

 両親はなぜヴィオラが急に泣き出したのかを聞き出すことはしなかった。二人の優しさには頭が上がらなかった。

まぁ、ストレスが原因という診断に記憶よりもさらに輪をかけて過保護になった両親には若干困ることもあったが。


 体力もばっちり回復したヴィオラが最初にしたことは、今まで散々迷惑をかけたメイドたちへの謝罪だった。

突然の主人の変わりようにメイドたちは困惑しながらも謝罪を受け入れてくれた。

これからはなるべく迷惑をかけないようにしないとなと思いつつ、ヴィオラが次にしたのは知識の習得だった。

もちろんヴィオラの記憶があるのでこの世界の基本的なことや常識は分かる。

しかし、どちらかというと杉本結の記憶と人格が前面に出ていることと、ヴィオラがこれまで勉学をおろそかにしていたなどといった理由から、これから生活していく上でこの世界についての知識量が心許なかったのだ。


(まあせっかくの異世界についてよく知りたいって気持ちもあるけど)


知識欲が強く勉強が好きだった前世の影響か、ヴィオラは新しい知識を得られることにワクワクしていた。

 早速自分の家であるのに今まで近づいたこともなかった書庫に案内してもらうと、ヴィオラは目を輝かせた。

前世の学校の教室4つ分はある広さの吹き抜けの二階建ての部屋に、ぎっしりと本が並べられた棚が整然と並んでいる。


「これ全部読んでいいの?」

「もちろんでございます」


近くにいたメイドに興奮気味に尋ねるとにこやかにそう答えてくれた。

きょろきょろとみわたしながら足早に部屋を進んでいくと、この国について記された書物が多く並ぶ棚が目に入った。


(やっぱりまずはこの国の地理と現状、歴史について知らないとね)


棚から数冊本を取り出して部屋の中央に設置されている机の上に置くと、その表紙を見たメイドがぎょっとした。


「お嬢様、そんなに難しい本をお読みになるのですか!?」

「え、うん。この国についてもっとちゃんと知りたいなと思って。分からないことがあったら教えてくれる?」

「は、はい。私にもわかることでしたら」

「ありがとう」


そう答えると、ヴィオラはドキドキしながら本を読み始めた。


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