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白銀は孤独をお望み  作者:
第1章 学園入学編
12/12

1-2 入学

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

今年も自分のペースで更新していきます。

よろしければお付き合いください。


 月日が流れるのは早い。

あれやこれやと準備をしているうちに冬を超え、あたたかな春がやってきた。

今年で十歳になるヴィオラは学園の初等部に入学する。

必要な荷物を馬車に詰め込み両親に別れの挨拶をする。


「それではお父様、お母様、使用人の皆さまも。行って参ります」


ヴィオラは目の前に立つ使用人たち、及び号泣しながらヴィオラの腰に巻きつく両親に挨拶をする。


「あぁ、私の愛しいヴィオラ!なぜ学園へなど行ってしまうのだ!」

「そうよ!ママと毎日お茶会をする約束はどこへ行ったの!!」


そんな約束は聞き覚えがないし、学園へ行きたいという話をしたときに泣いて喜んでくれたその喜びはどこへいったのやら。

おいおい、と泣き続ける両親を使用人たちはもう慣れたものだと言わんばかりに生暖かい目で見守っている。

見ていないで助けてほしいんだけどな、と苦笑いしながら立ち尽くしていると、誰かがヴィオラの横に立ったのが分かった。


「ご主人様、奥様も。お嬢様がお困りです、学園へも遅れてしまいますので悲しい気持ちはわかりますが、分かれの挨拶はその辺に...」

「ああ、そうだな。すまなかったヴィオラ。気を付けて行ってくるんだよ」

「嫌なことあったらすぐ帰っておいでね!いっぱい手紙待ってるから!!」


二人をなだめたのはファルシュだった。

彼はこちらに向かってこっそりウィンクした後、ヴィオラが乗る馬車の扉を開けて待機してくれている。

いまだ涙ぐみながらも快く送り出してくれている両親に「ありがとう」と言って、ヴィオラは馬車に乗り込んだ。

「行ってらっしゃい!」と手を大きく振っている両親に小さく手を振り返した。


 馬車に乗っているのはヴィオラと、今回学園についてくることになったヴィオラ専属の使用人の二人、アリアとファルシュだ。

がたごとと小さく揺れる車内でアリアが口を開く。


「いよいよ学園生活が始まりますね、お嬢様!」

「ええ、その制服もとても似合っていらっしゃいますよ」


ファルシュがにこりと貼り付けた笑みを浮かべながら賛辞を述べる。

ヴィオラの来ている制服はもちろんエヴォリダズル学園のものだ。

先日学園の人間がヴィオラの家を訪れ、採寸を行い、後日ヴィオラの背ぴいたりの制服が届いたのだ。

上質な布でできた白のワンピースに深紅のジャケット。

胸元にはジャケットより色の薄い赤色のリボンが付けられている。

手には白の手袋を。

足には同じく白い膝上までの靴下に、こげ茶のブーツを履いている。

なるほど、これが脚を出すのが嫌で長いソックスにしたが、なるほどこれが絶対領域か、と自身の太ももをまじまじと見つめた。


 ファルシュはヴィオラの前では本来の適当な態度をとるのだが、他の人間の目がある場所ではいかにも有能な執事らしく振舞う。抜け目のない男である。

だが実際ファルシュは有能だった。

ヴィオラのスケジュールを完璧に把握しているし、学力も申し分ない。

勉強で分からないことがあり質問をすれば、その本質をしっかりと解説してくれる。

剣の腕もあり、ヴィオラが騎士団支部で訓練に参加する際に一度ファルシュも騎士団の人間と手合わせをしていたが、挑んでくる人間すべてを返り討ちにしていた。

ひとつ厄介なのはヴィオラが一人になりたくても、彼はどこへでもついてくるのだ。

王立図書館でも、いつもの閲覧席に向かうまでに何回も捲こうとしたのだが、見事にヴィオラの後をしっかりとついてくる。

あの閲覧席はウィズとの内緒の場所なので誰にも知られたくはなかったのだが。


 ウィズといえば、あのしおりをもらった日以降、ヴィオラが学園に入学するまでに何度王立図書館へ行っても、あの場所に彼が現れることはなかった。

そのことを寂しくも思ったが、もともと彼とあそこであう約束をしたことは一度もない。

そのうえ彼は貴族だ。

何かしらの事情があってこられなくなったと考えるのが妥当だろう。


(彼も貴族ならどこかで会うことがあるかも)


そんな期待を胸に抱きながら、ヴィオラは彼にもらったしおりを大切に使っている。

今もヴィオラの手持ちのトランクの中に入っている、今読みかけの医学書の間に挟まっている。

ヴィオラはこのしおりをそのとき読んでいるいつも持ち歩く本に使うと決めているのだ。

このしおりを見ると、ウィズの事を思い出して心が温かくなる。

出会いは最悪だったが、それからというもの、対等に話し合える良い仲を築けたと自負している。

これを友情といっていいのだろうか。

ヴィオラは前世でも仲の良かった人間が一人しかいなかったので友情というものがよく分からない。

それでいうなら、フリージアとの関係も友情といえるのだろうか。

窓の外を流れる白い雲をみつめながらぼーっと考えていると、馬車が止まった。

窓の外に見えるのはお城と見まがうほどの荘厳な造りの大きな建物が見える。

どうやら学園についたようだ。

先に馬車を降りてこちらに差し伸べてくれているファルシュの手を取る。


いよいよ、学園生活が始まるのだ。




***




 校舎の中に入ると、上級生らしき人間が新入生は講堂に集まるようにと呼びかけている。人の流れに沿って体育館まで行けば、入り口まで来たところでアリアとファルシュが「それでは行ってらっしゃいませ」と立ち止まってヴィオラを送り出した。

どうやら入学式に参加するのは生徒のみで、使用人は主人の部屋と自身が泊まる部屋の準備を行うようだ。


「うん、いってきます」


返事をしてヴィオラは講堂へ足を踏み入れた。


 講堂は上級貴族の屋敷のように美麗な装飾があちらこちらに施された重厚な建物であった。

天井からは大きなシャンデリアがつるされており、建物内を明るく照らしている。

中にはすでにたくさんの人がおり、各々が席に座って式の開会を待っている。

ヴィオラは空いている列の一番端に座り足元にトランクを置いた。

あたりを見渡せばさすがお貴族様のご令息ご令嬢が通う名門校、身なりは完璧に整っており品格が漂っている。

美男美女が多いな、などと考えていると講堂の入り口がにわかに騒がしくなった。

何事かと思い振り向いてみれば、そこにいたのは絶世の美女であった。

ストレートロングの淡い金髪の毛先はゆるく巻かれ、くっきりとした二重の大きな目は澄んだ空のような水色をしている。

まごうことなきフリージア・アポフィライトだ。

さすが第一王子の婚約者の公爵令嬢。

彼女の美しさと聡明さは国中のうわさとなっているらしい。

ざわめく人ごみの中を悠々と歩いて進むフリージアは、ふと立ち止まると何かを探すように周りを見渡した。


ばちり。


あたりを見渡すフリージアと目が合ったヴィオラは急いで目をそらす。

失礼かもしれないが、厄介ごとに巻き込まれたくはないのだ。

汗をかきつつ下を向いてじっとしていると、周囲がざわめきだした。

隣に誰かが座る気配がしたので、おそるおそる顔を上げてみればそこにいたのは案の定フリージアであった。

ヴィオラが彼女の顔を見ると、フリージアはにこりと淑女らしい可憐な笑みを浮かべた。


「ごきげんよう」


わあああ、とフリージアの笑顔に周囲の人間が感嘆の声を上げる。


「ごきげんよう、フリージア様」

「ヴィオラったら端っこにいるんだから、探しましたよ」

「あー、申し訳ございません」


周囲の目が痛い。

せっかくめだたない端っこにいたのに、フリージアが隣に座り、あまつさえ話しかけるなんて目立つに決まっている。

お前は誰だと雄弁に語りかけてくる視線が大変煩わしかった。


 その後も周囲の好奇と羨望の視線にさらされながらフリージアと談笑していると、高らかなラッパの音が鳴り響き、入学式が始まった。

入学式は学園長の話、在校生代表のスピーチと順調に進んでいく。

やけにマイクもないのに声が響くなと思ったが、演台の上になにやら道具がある。

おそらく魔道具だろう。

 魔道具とは、本来人間の頭の中で行われる魔力の変換過程である術式を道具に付与することで、魔力を込めただけで魔術を行使できる道具のことだ。

術式による魔力の変換が苦手な者も魔術を使えるといった利点がある反面、自分の属性にあった魔道具しか使用できないので使い勝手はなかなか悪い。

演台の横に立っている人間、彼が魔力を流して魔道具を動かしているのだろう。

何らかの術式を使って音を拡大、というより遠くまで届けているのだ。

風の魔術だろうか。どのような術式で...などと考えている間に来賓客の話が終わった。


(どこの世界でもこういう式での話は長いんだな)


おもわずでそうになるあくびを嚙み殺していると、司会者の「新入生代表スピーチ」という言葉が講堂に響き渡った。

最前列に座っていた少年が立ち上がり、迷いのない足取りで壇上へとあがる。

堂々と歩みを進めるその姿は、同じ年齢ながらもどこか住む世界が違うと思わせる風格を持ち合わせていた。

少年がステージの中央に設置された演台の前に立つとおおお、という歓声やはぁ、といった感嘆のため息がそこら中から聞こえた。


「新入生代表、ノヴァ・グランノーブルです。この度は私たちのために__」


挨拶で周囲の反応の意味が分かった。

彼こそがかの有名なこの国の第一王子だ。

確かにその顔は十歳にしてもうすでにその美貌が発揮されている。

フリージアのような柔らかな金髪は美しく整えられ、毛先が少しだけはねているのは彼の癖だろうか。

海のように凪いだ青色の瞳はまっすぐに前を向いている。

気着心地の良い穏やかな声は、もちろん魔道具の効果もあるのだろうが、講堂の奥まで凛と響いている。

これはたしかに彼一人でも十分だが、フリージアと並べば完成された一枚の絵画のように美しいだろうな、とヴィオラは考えた。

あの美しい王子の婚約者様の様子はとちらりと横目でフリージアを見遣れば、いつも通りの微笑を携えているだけでこれといった変化はなかった。


「___以上、ご清聴ありがとうございました」


ノヴァがあいさつを終えて丁寧にお辞儀をすると、わあああという歓声が講堂を包みこんだ。

割れるような拍手のなか、彼は最初と同じ様に悠々と壇上を進み自分の席へと戻っていく。

その姿を眺めながら、ヴィオラもぱちぱちと拍手をした。


 ノヴァの挨拶が終わると、司会は入学式の終了を告げた。

それと同時に新入生は初等部棟の三階に行くように、クラス分けが廊下に掲示されているのでそれを見て己のクラスを確認し、教室にて待機するよう指示された。

新入生たちが次々と席を立ち、案内に従って移動していく。

ヴィオラもそれに習おうとしたところでフリージアに声をかけられる。


「わたくしたちも行きましょう」

「...はい」


どうやら一緒に行くらしい。

共に立ち上がり人の流れに沿って歩いていく。

話題の公爵令嬢様が歩くとまるでモーセのように人だかりが左右に分かれていく。

その真ん中を再び視線にさらされながら歩いていく。

フリージアの半歩後ろを歩くヴィオラだが、先ほどから周囲の人間がこそこそと話をしているのが耳に入ってくる。


「フリージア様よ」

「まぁ素敵だわ」

「後ろにいるのはどなた?」

「さぁ存じ上げませんわ」

「どうせ使用人でしょう」

「いいえ、彼女も制服を身に着けているわ」


などなど。

きっとここにいる誰もがフリージアにお近づきになりたいと考えている。

そんななかすでにフリージアの隣を勝ち取っているヴィオラのことがたいそう妬ましいに違いない。

なかには露骨に敵意を向けてくる人間もいる。


(まあ私には関係ないけど)


いくらヴィオラが嫌がってもフリージアの方から近づいてくるのだからどうしようもない。

平穏な学園生活の雲行きが怪しくなっていき、内心涙目のヴィオラを知ってか知らずかフリージアが話しかける。


「ほらヴィオラ、掲示がありましたよ」


フリージアが指さす先には、壁に大きな紙が貼り付けられており、そこにクラス分けが書かれているようだった。

フリージアのおかげで最前列までこれたので、掲示がとても見やすい。

さっと目を通すとヴィオラの名前が載っていたのは1-Cクラス。


「私はCクラスのようです」

「あら、わたくしはAクラス。離れてしまったわね」


表面上は悲しそうな顔をするフリージアだったが、ヴィオラは内心ほっと息をついた。

少し行動を共にするだけでもこの注目のされようだ。

教室でも一緒にいたらいつ後ろから刺されるか分かったものではない。


「はい、残念です」

「でも同じ学園だもの、これからはいつでも会えるわね」

「...そうですね」

「ふふ、では後ほどお会いしましょう」


笑顔で手を振って自分のクラスへと向かっていくフリージアにヴィオラも小さく手を振ると、自身も教室へと向かった。


 教室は一クラスの生徒の人数のわりに広く、この学園の大きさを物語っていた。

前方にある黒板に張り出された座席表をもとに、自分の席へと座る。

窓側の前から二番目というなかなかに良い場所だ。

ふちが豪華な木彫りでつくられた椅子は、ふんわりとやわらかく座り心地が良い。

トランクを横に置いて一息ついた。

ぐるりと周囲を見渡し、いつものように観察をする。

自分の席につき一人で静かに待つ者もいれば、席を立ち友人と話をする者もいる。

こっそり聞き耳を立てると一人の男子生徒の話題が聞こえてきた。


「このクラスにはジークレイド様がいるそうよ!」

「まあ!あのスペルビア家の!」

「ジークレイド様と同じクラスだなんて、とても運がいいわ」


ジークレイド、は知らないがスペルビアという名前はヴィオラも知っている。

古代より王家を支える三つの家系。

世間から御三家と呼ばれている公爵家の一つ。

剣のスペルビア。

この国を防衛する騎士団の団長を多く輩出する名家だ。

話によるとそのスペルビア家のご子息がこのクラスにいるらしい。

肝心のその姿を誰も知らないようだが、社交界でデビュー前なのでそれも仕方ない。

むしろ、学園というのは社交界以外の貴族たちの貴重な交流の場となるので、ここでより身分の高いものに気に入られようとする動きがあるのは当たり前であった。

 ヴィオラも本来ならば、クラスの人間と交流をはかり少しでも人間関係をひろげなくてはいけないのだが、そこはさすがの陰キャヴィオラ。

知らない人と話すなど、ストレスをためる以外のなにものでもないので自ら交友関係を広げるなんてまっぴらごめんであった。


 人間観察も飽きてきて、ヴィオラは窓の外を眺めた。

校舎の三階から見る眺めはどんなものかと思ったが、別の校舎が見えるだけで面白いものはなかった。

ヴィオラはぼうっと空を眺めた。

空を眺めるのはヴィオラの前世からの癖だ。

広い空を見ていると、どこか心が落ち着くのだ。

水色の空を白い雲がゆっくりと流れていく。

こんな平和な時間がずっと続けばいいのにな、と考えて平和を揺るがすような事件が簡単にあってたまるものかと、思考を改める。

ならば、この穏やかな空のように心の平穏も保たれますように、とヴィオラは燦燦ときらめく太陽に願う。


彼女のささやかな願いがかなわないことを、ヴィオラはまだ知る由もなかった。


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