「第2話 クールな魔女」
リオナは町に戻ると、家でもある冒険者協会へ足を運んだ。協会の奥には冒険者用の宿が併設されている。夕闇が町を包み、日没とともに蕾を閉じ始めるサンセットブルームが風に揺れていた。
扉を押すと、そこには金髪で碧眼の少女が待っていた。髪はサイドテールに結ばれ、眉を寄せてじっとリオナを見上げる。
「お姉ちゃん、今日はいつもより遅くない?心配したんだよ」
リオナは肩をすくめて、手に持っていたモンスターの素材を見せる。
「遅くなってごめん、エリナ。ちょっと上級モンスターに出くわしてね。ほら、これ。売れば結構稼げるぞ」
エリナの目がぱっと輝いた――のも束の間、すぐにふとした表情に変わる。
「……その頬、どうしたの?ハート形の刻印」
リオナは軽く笑って頬をかいた。
「え? これ? あー、呪われちゃったみたい。あはは」
エリナの顔が一瞬で真剣になる。
「お姉ちゃんが呪われた!? 冗談でしょ!? そんなの信じたくないよ。お願い、冗談だって言ってよ。お父さんとお母さんみたいに、呪いでお姉ちゃんを失いたくない!」
エリナの声は震え、瞳に涙がにじむ。リオナはそれを見て、思わず口調を柔らかくする。
「ごめん、エリナ。それは否定できない。でも安心して。あと3年は大丈夫――私が何とかするから」
言い切るとき、つい冗談めかして胸を張る。
「誰が世界一カッコいいお姉ちゃんだと思ってるの? 私に任せときなさい。誰にも取らせないから」
エリナは恥ずかしそうに顔を伏せつつ、でもどこか嬉しそうにリオナにしがみついた。
「もう遅いから寝よう。愚痴は部屋で全部聞いてあげるからね」
リオナはエリナを抱きしめ返し、二人で宿の小さな部屋へ入った。灯りが揺れる中、エリナの小さな寝息を聞きながら、リオナは知らず知らず頬を緩ませて眠りについた。
翌朝、目覚めるとエリナがリオナに抱きついたままぐっすり眠っている。リオナは起こさないようにそっと抜け出し、いつものように掲示板と依頼ファイルをめくった。
「森の探索もそろそろ飽きてきたなぁ……新しい刺激はないかな~」
ページをめくる指先が、古く色あせた一枚に止まる。見出しを読めば――「どんな呪いも解除できる薬のレシピを探せ」。思わず口元が緩む。
「マジで? 私って運がいいな。カレンさん、これ受けたいです!」
受付のカレンに紙を差し出すと、受付嬢はにっこりと微笑んだ。
「こんにちは、リオナちゃん。ずいぶん古い依頼ね。呪いを解除する薬のレシピを探すのね。あら、本当に呪われちゃったの?」
「え、なんで呪いのこと知ってるんですか?」と驚くリオナに、カレンは肩をすくめる。
「昨夜、エリナちゃんがあちこち走り回って、『呪いを解除できる人いませんかー!』って叫んでたのよ。町のみんな、寝不足になったわ」
エリナが自分のために動き回ってくれていた。嬉しいけど、同時に居たたまれなくなる。
「それより、この依頼は冒険依頼よ。パーティーでないと受けられない。リオナちゃんを含めてあと4人必要ね」
「えーっ、そんなぁ……」リオナはわざとぶすっとして見せるが、内心で「人数どうしよう」と計算を始める。すると、そのとき――
深くかぶった帽子の影から現れたのは、紺色の長いストレートヘアと、杖を携えた少女だった。赤い瞳がすっとリオナを捉える。身長は少し高めで、動きに無駄がない。まぎれもなく魔女だ。
「私もその依頼を受けたいの。よかったら、一緒にパーティーを組まない?」と少女は柔らかく申し出る。
リオナは思わず目を奪われる。目が合った瞬間、胸が少し跳ねた。――なんで、だろう。顔がじんわり熱い。
「あなた、名前は?私は、リオナ・スラッシュ。最強の剣士よ」
少女は小さく笑って首を傾げる。
「紹介が遅れたわね。私はアリシア・ミスト。魔女よ。そして――あなたと同じ、呪われた人」
そう言ってアリシアはそっと右腕をまくった。白い肌に浮かぶ薔薇の刻印。リオナは自分の頬に手を当て、同じ刻印の感触を確かめる。目と目が重なると、言葉が静かに途切れた。
一瞬の静寂が二人の間を満たす。リオナの心臓は、どこか落ち着かないリズムを刻んでいた――救うべき呪いが、自分と他者を結びつけるとは思ってもいなかった。
「……そ、それじゃあ、一緒に行く?」リオナは少し顔を赤らめながら訊ねると、アリシアは意味ありげに微笑んだ。
「ええ。あなたの腕、借りるわ。呪いを解くために――それに、あなたと冒険するのも楽しそうだから」
リオナはその言葉に照れながらも、内心で小さく跳ねた。エリナを守るためでもあるけれど、今は単純に、隣に立つこの魔女が気になる――そんな自分を認めたくないようで、少し嬉しかった。
パーティー完成まであと2人。
この物語は百合オタクの自分が趣味で書いてます。自分用ですが、読んでくれる人がいれば嬉しいです。投稿頻度は不定期です。




