サウナー、湯けむりの街をあとにする
いよいよ、出発の朝が来た。
『月見の湯』の門前には、ユキハを筆頭に、マツオカさん、街の長老たち、そして数えきれないほどの街の人々が集まっていた。
「サウナー様、本当に、本当に行ってしまうのですか……」
ユキハが、寂しさを堪えるように俺の手を握った。
「ああ。俺の仕事は『ととのい』を広めることだ。この街はもう、あんたたちだけで十分やっていける」
俺は、自信に満ちた彼女の顔を見て微笑んだ。
「マツオカさん、蒸し湯のメンテナンス、頼んだぜ。特に竜竹の継ぎ目は……」
「分かってるよ、棟梁! あんたに怒鳴られる前に、ピカピカに磨き上げといてやるさ!」
マツオカさんは豪快に笑い、俺の肩を叩いた。
「アリー! セイル! エリアス! 準備はいいか!」
俺が馬車の御者台に飛び乗ると、仲間たちがそれぞれ元気よく応えた。
「いつでもいけますよ、師匠! 新しい岩盤、探しに行きましょう!」
「……ふん。次の街では、もう少し衛生的な環境だといいんだがな」
「さて、次はどんな富が我らを待っていることか。楽しみですな」
馬車が動き出す。
背後からは、いつまでも止まない歓声と、感謝の声が響いていた。
「……師匠、次はどこへ?」
アリーが隣で尋ねる。
「そうだな。噂によれば、西の湿地帯に、冷え性に悩む村があるらしい。そこには冷たい水が湧く湖もあるとか……」
俺は馬車を走らせた。
異世界に「ととのい」の火を灯す旅。
温泉街で得た新しい知恵と、固い絆。
それを胸に、サウナー達は、まだ見ぬ未知の土地へと突き進んでいく。
その行く先には、きっとまだ誰も知らない、最高の「ととのい」が待っているはずだ。




