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サウナー、温泉街をととのえる

「……いくぞ」


俺の声に、その場にいた全員が息を呑んだ。

俺は慎重に、だが力強く、竜竹のメインバルブを開放した。


シュォォォォォォ……!!


地底の鼓動のような低い地鳴りと共に、竜竹の配管が熱を帯びて黒光りする。源泉から直接引き込まれた高温の蒸気が、計算し尽くされた経路を通って室内に解き放たれた。


「……熱い! いや、これは……」


室内にいたマツオカさんが驚きの声を上げた。

ドライサウナの刺すような熱気とは違う。全身を濃密な、それでいてシルクのように滑らかな湿気が包み込む。セイルが仕掛けたカミツレと白樺の薬草釜を蒸気が通過し、えもいわれぬ清涼な香りが部屋を満たしていた。


「セイル、薬草の反応は?」

「……問題ない。硫黄の濃度は極めて安定している。マツオカの換気システムが完璧に機能している証拠だ」


セイルは壁の薬草の色が澄んだ青であることを確認し、満足げに頷いた。

俺はアリーと顔を見合わせ、大きく頷いた。


「よし……第一陣、案内してくれ!」


外で待機していた街の長老たちや、ユキハが連れてきた湯治客たちが、おそるおそる中へ入ってくる。

彼らはまず大浴場で体を清め、温泉で十分に下茹でを済ませている。その状態で、この『蒸し湯』へと足を踏み入れたのだ。


「おおお……なんじゃこれは。息苦しくないのに、体の芯から汗が吹き出してくる……」

「温泉に浸かっているのと同じ、いや、それ以上に肌に吸い付くような……」


人々は檜のベンチに腰を下ろし、深い呼吸を繰り返す。

ドーム天井を伝って、結露した雫が壁を静かに流れ落ちる。客の頭に冷たい雫が落ちることは一度もない。

温泉と蒸気が織りなす「究極の癒やし」に、街の人々の表情がみるみる解けていった。


「……仕上げだ。みんな、外へ!」


十分後。蒸し湯を出た人々を待っていたのは、中庭に新設された『冷泉の水風呂』と、満天の星空の下での『外気浴』だ。

火照った体を冷泉で締め、夜風に身を任せる。


「……ああ……ととのう……。神様、わしは今、生きておるぞ……」


長老の一人が漏らしたその言葉に、ユキハが、そして俺たち調査隊の全員が、勝利を確信した。



翌日

『月見の湯』の蒸し湯の噂は、温泉街全域に広まった。


「あの寂れた宿に、魔法のような湯小屋ができたらしい」

「源泉の毒を消し、薬の霧に変える『ととのい奉行』が来たんだ」


噂は尾ひれを付けて広がり、翌日には他の宿の湯守たちが、門前を埋め尽くすほどの勢いで押し寄せてきた。


「マツオカの旦那! うちにも作ってくれ! 竜竹ならわしらが命がけで取ってくる!」

「サウナー様、どうか我らにもその『蒸し湯』の秘訣を!」


マツオカさんは、鼻を高くして笑った。


「ふん、わしに頼む前に、まずはこの『サウナー棟梁』の設計を理解することだな。……よし、サウナー、やってやろうぜ!」


そこからの数週間、温泉街は未曾有の建設ラッシュに沸いた。

俺はマツオカさんと共に、各宿の泉質や広さに合わせた「現地仕様」の蒸し湯を設計していった。

アリーは街の若い衆を集め、竜竹の加工技術を伝授する「アリー塾」を開講。


「いいですか! 叩くのは心で! 壊すのは岩だけにしてくださいね!」


アリーの指導(と時折の破壊)によって、街には次々と新しい職人が育っていった。

セイルは街の薬師たちと協力し、温泉の成分ごとに最適な薬草をブレンドした「ご当地蒸し湯アロマ」を開発。

エリアスはそれらを「温泉街ブランド」としてパッケージ化し、王都の貴族たちへ向けて大々的な宣伝を開始した。


「ユキハ殿、これでこの街は、王都随一の『健康聖地』となりますよ。ふふふ、金貨の山が見えますな」


エリアスの不敵な笑みに、ユキハも今は頼もしげに頷いていた。

街は、かつての活気を取り戻すどころか、これまでにない熱気に包まれていた。

古い伝統を守る湯守たちと、新しい「ととのい」の概念が、温泉の蒸気の中で一つに溶け合っていったのだ。

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