サウナー、湯けむりの街に希望を灯す
凄まじい轟音と共に源泉が復活し、洞窟内は熱湯と蒸気で満たされた。
俺たちは互いの体を支え合いながら、必死で洞窟の入り口へと引き返す。
全身ずぶ濡れになりながらも、背後から聞こえてくる、力強い湯の噴出音。
それは、絶望的な状況を打ち破った、勝利のファンファーレのように聞こえた。
「やった……やったぞ……!」
セイルが、興奮に息を弾ませている。
「アリー! すごいぞ! さすが俺の弟子だ!」
俺がアリーの頭をわしわしと撫でると、彼女は泥と汗で真っ黒になった顔をくしゃくしゃにして、最高の笑顔を見せた。
「えへへ……師匠のおかげです!」
そして、俺たちの隣で、ユキハはただ静かに涙を流していた。
諦めかけていた街の未来が、今、確かに繋がったのだ。
俺たちが洞窟から生還すると、入り口で待っていたエリアスと、心配して集まってきた街の長老や湯守たちから、割れんばかりの歓声が上がった。
源泉が復活したことは、洞窟から立ち上る湯気の勢いが、以前とは比べ物にならないほど力強くなっていることからも明らかだった。
「おお……! 湯の勢いが……戻っておる!」
「なんと……本当に奇跡を起こしてくださった!」
「これで、この街も……救われる……!」
街の人々は、泥だらけの俺たちを英雄のように迎え入れ、その日の夜、『月見の湯』では街を挙げての盛大な宴会が開かれた。
宴の中心には、もちろん復活したばかりの源泉から引かれた、極上の温泉。
湯船からは、これ以上ないほど豊かに湯気が立ち上り、湯は肌に吸い付くように滑らかで、体の芯から温めてくれる。
「これぞ……わしらの街の宝じゃ……!」
街の長老が、湯船の中で感涙にむせんでいた。他の湯守たちも、ただただ黙って、その恵みの湯の感触を確かめるように何度も湯を掬っては、静かに頷き合っている。
湯上がりの一行に、ユキハが深々と頭を下げた。
「皆様、本当になんとお礼を申し上げたらよいか……。このご恩は、一生忘れません」
俺は、そんなユキハに、サドリを一杯手渡した。
「礼なんていいさ。俺たちは、ただ“ととのい”に来ただけだ。……まあ、ちょっとした冒険付きだったけどな」
俺の言葉に、みんなが笑う。
その時、エリアスが、商人の顔で口を開いた。
「ユキハ殿。源泉は復活した。だが、本当の勝負はこれからですぞ。この最高の湯を、どう活かしていくか。街の未来は、あなた方の手にかかっている」
その言葉に、ユキハは決意を秘めた目で、俺を見た。
「……サウナー様。どうか、私たちにもう一つ、お力をお貸しいただけないでしょうか」
「なんだ?」
「あなたの、あの……『さうな』というものを、この街にも作ってはいただけませんか。この最高の湯と、あなたの最高の癒やしが合わされば……きっと、この街は、以前よりももっと、素晴らしい場所になれるはずです」
ユキハの、心からの願い。
俺は、隣で目を輝かせているアリーと、静かに頷くセイル、そして不敵に笑うエリアスの顔を見た。
(……やれやれ。俺の“癒やしの旅”は、どうやらまだ終わりそうにないらしいな)
俺は、湯けむりの向こうに広がる、この街の新しい未来を思い描きながら、力強く頷いた。
「ああ。任せとけ。温泉とサウナが融合した、最高にととのえる場所を、一緒に創り上げよう!」
俺の言葉に、ユキハの顔がぱあっと輝いた。
湯けむりの街に、新しい希望の光が灯った瞬間だった。




