サウナー、温泉調査隊を結成する
俺が『月見の湯』の創業者も異世界転生者だと気づき、源泉調査を申し出た翌日。
宿の一室は、急遽作戦司令室と化していた。
テーブルにはエリアスがどこからか入手してきた古い地図が広げられ、その周りを俺、アリー、セイル、そして宿の若女将ユキハが囲んでいる。
「ユキハさん、改めて聞かせてほしい。源泉があるという山の洞窟について、知っていることを全て」
俺の言葉に、ユキハはこくりと頷き、語り始めた。
「はい。言い伝えでは、『竜の寝息が聞こえる洞窟』と呼ばれています。奥からは常に熱い風が吹き出し、硫黄の匂いが満ちているとか。昔は湯治客が度胸試しに近づくこともあったそうですが、落盤が起きてからは、危険なため誰も近づかなくなりました」
「竜の寝息……か。火山性ガスが噴き出している可能性が高いな」
セイルが、地図に記された山の形状を指でなぞる。
「源泉の枯渇は、地殻変動による水脈の変化か、あるいは物理的な閉塞か……。いずれにせよ、内部を調査する必要がある」
「しかし、落盤があったとなると、道が塞がっているかもしれませんね」
エリアスが、商人らしい現実的な視点で懸念を口にする。
「洞窟探検に必要な装備も調達しなければなりません。松明、縄、それに……」
「――つるはし、です!」
そこで勢いよく手を挙げたのは、アリーだった。
「師匠! もし岩で道が塞がっているなら、私とお父さんが鍛えたつるはしがあれば、打ち破れるかもしれません!」
その目は、久しぶりの「破壊」の機会にキラキラと輝いている。
(……いや、アリー。お前がつるはしを振るうと、洞窟ごと崩落しかねないからやめてくれ……)
俺は心の中でツッコミを入れつつも、彼女のやる気に頼もしさを感じていた。
「よし、決まりだ」
俺は立ち上がり、メンバーを見渡した。
「俺とアリー、セイル、そして案内役としてユキハさん。エリアスは後方支援と情報収集を頼む。これが、俺たち『温泉調査隊』だ!」
調査隊結成が決まると、準備は急ピッチで進められた。
エリアスはその手腕を発揮し、あっという間に洞窟探検に必要なロープや保存食、そして頑丈な革鎧(万が一の落石対策)を調達してきた。さすが、金さえあれば何でも揃うのが都会の商人だ。
セイルは、洞窟内の有毒ガスを警戒し、特殊な薬草を染み込ませた布マスクを人数分用意してくれた。
「まあ、気休め程度だがな。長居は禁物だ」
そして、アリーは父ドルガンの工房に一時帰還(エリアスの馬車で爆走)。数日後、息を切らせて戻ってきた彼女の手には、見たこともない奇妙な道具があった。
それは、つるはしのような形をしているが、先端が特殊な合金でできており、異様に鋭い輝きを放っている。
「師匠! これ、『岩盤破砕槌』です! お父さんと一緒に作りました! これなら、どんな硬い岩でも……!」
アリーが、目を輝かせながらそれを振りかぶる。
ブンッ!
「あぶねっ!!」
俺は間一髪でそれをかわした。槌の先端が、宿の床柱にめり込んでいる。
(……やっぱり、アリーにこれを持たせるのは危険すぎる……!)
出発の前夜。
俺たちは、『月見の湯』の露天風呂に浸かりながら、最後の作戦会議を開いていた。
空には、故郷で見たのと同じ、穏やかな月が浮かんでいる。
「……本当に、大丈夫でしょうか」
ユキハが、不安げに呟いた。
「もし、源泉が本当に枯れてしまっていたら……この街は……」
「諦めるのはまだ早い」
俺は、湯けむりの向こうに見える月を見上げた。
「俺たちの故郷には、『為せば成る』って言葉がある。……あんたの宿の創業者も、きっとそうやって、何もないこの谷に湯を湧かせたはずだ」
俺の言葉に、ユキハははっとしたように顔を上げた。
彼女の目に、再び強い光が宿る。
「……はい!」
俺は、隣で気持ちよさそうに湯に浸かっているアリーとセイルに目を向けた。
(……まあ、こいつらが一緒なら、なんとかなるだろ)
明日、俺たちは未知なる洞窟へと挑む。
それは、この温泉街の未来を救うための、そして、遠い過去に生きた同郷の魂に応えるための、俺たちなりの戦いだった。
俺は、静かに湯の中で拳を握りしめた。




