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サウナー、湯けむり天国を遊びつくす

昨夜の露天風呂での衝撃的な体験から一夜明け、俺たちの心は完全に温泉の虜になっていた。

特に俺は、故郷のDNAが呼び覚まされたかのように、朝からハイテンションだった。


「よし、みんな! 今日はこの湯けむり天国を遊び尽くすぞ! まずは腹ごしらえだ!」

「師匠、目がキラキラしすぎて怖いです……」


俺たちは宿で借りた、異世界風の簡素な浴衣(のような着流し)に着替え、早速、昨日見かけた湯けむりがもうもうと立ち上る広場へと向かった。

そこでは、地面から噴き出す温泉の蒸気を利用した、様々な屋台が軒を連ねている。


「よし、まずはアレだ!」


俺が指差した先には、昨日も見た、黒く変色した卵が山と積まれている。


「昨日言ってた温泉卵だ! 硫黄の香りが染み込んだ、最高の逸品だぞ!」


俺は興奮して人数分の卵を買い、殻を割って差し出した。

アリーは最初、「本当に美味しいんですか、この黒い卵……」と疑いの目を向けていたが、一口食べると目を丸くした。


「……おいしい! なんだか、普通のゆで卵より味が濃くて、とろとろです!」


セイルは、冷静に成分を分析し始める。


「ふむ。硫黄成分が卵白のタンパク質と結合し、独特の風味と旨味を生み出しているのか。興味深い……」


エリアスは、「これは土産物として売れる!」と商売の算段を始めている。反応は三者三様だが、誰もがその味に魅了されていた。


「次はこれだ!」


俺が次に目をつけたのは、昨日も見かけた、ほかほかの湯気を上げる、丸くて白い饅頭。


「温泉まんじゅう! 温泉の蒸気で蒸した、ふわふわの甘いやつだ!」


これもまた、全員が大絶賛。特に甘いものに目がないアリーは、「師匠! 私、この街に永住したいです!」と、早くも移住宣言をする始末だ。


温泉グルメを満喫した後は、街に点在する様々な種類の温泉を巡ることにした。

宿の乳白色の湯とは違う、鉄分を多く含んだ赤茶色の湯、肌がすべすべになるという評判の緑色の湯、そして、小さな滝のように湯が流れ落ちる「打たせ湯」。


「うおおっ! 肩こりに効くぅ!」


俺は滝に打たれながら恍惚の声を上げる。

一方、アリーは初めての打たせ湯に、なぜか滝壺で修行僧のように座禅を組んでいた。


「アリー、違う! もっと力を抜け!」

「はい、師匠! これも“ととのい”の修練ですね!」


(……まあ、気持ちよさそうだからいいか)


セイルは、それぞれの湯の泉質を熱心に記録し、効能を分析している。


「この赤湯は血行促進、緑湯は皮膚疾患に効果がありそうだ。湯治場として、非常に優れた環境だ」


エリアスは、そんな俺たちを少し離れた場所から見守りながら、手帳に何かを書き込んでいる。

(あの人はあの人で、ビジネスとしての温泉の可能性を探ってるんだろうな……)


温泉巡りの合間には、街の土産物屋を冷やかしたり、温泉で茹でた野菜を食べたり、卓球(のような板で球を打ち合う遊戯)に興じたり。

俺たちは、心ゆくまでこの湯けむりの楽園を満喫した。

夕暮れ時、街を見下ろす高台の足湯に浸かりながら、俺たちはぼんやりと湯けむりに霞む街並みを眺めていた。

サウナとは違う、どこまでも穏やかで、時間がゆっくりと流れるような感覚。


「……最高だな」


俺が呟くと、隣に座っていたアリーがこくりと頷いた。


「はい、師匠。私、こんなにのんびりしたの、初めてかもしれません」


彼女の顔には、疲れを知らない子供のような、純粋な笑顔が浮かんでいた。

セイルも、エリアスも、それぞれのやり方でこの街の癒やしを受け取っているようだった。

この温泉街は、サウナとは違うベクトルで、人を根っこから“ととのえて”くれる力がある。

(……だが)


俺は、ふと気づいた。

これほど素晴らしい場所なのに、街全体にどこか活気が足りないような……?

屋台の数も、想像していたより少ない。行き交う人々も、年寄りが多い気がする。

その、ほんの小さな違和感が、俺の心の隅に引っかかった。

だが、今はまだ、この心地よい湯けむりの中に身を委ねていたい。

俺たちの、最高に怠惰で、最高に幸せな休日は、まだもう少しだけ続きそうだった。

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