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サウナー、天空の庭を創造する

季節外れの嵐が過ぎ去り、俺たちのサウナは、職人たちの決死の奮闘によってその姿を守り抜いた。

最高のサウナ室、大浴場、そして二つの水風呂。主要な設備は、ほぼ完成した。

アリーが、完成したばかりの水風呂のほとりに立ち、目を輝かせながら言った。


「師匠! この水風呂の横に、村で大人気だった、あの“インフィニティチェア”をたくさん作りましょう! 絶対に最高です!」

「ああ、もちろん作るさ。だがアリー、場所はここじゃない」


俺は、アリーや集まってきた職人たちを促し、建物の中へと入った。

そして、まだ誰も使っていない、屋根裏部屋へと続く階段を指差した。

「俺たちが創る外気浴スペースは、地上じゃない。この、空の真下だ」

「「「屋上!?」」」


俺の突拍子もない提案に、職人たちの驚きの声が重なった。


「正気か、サウナー!」


一番に声を上げたのは、村の大工ゲルドだった。


「屋根の上に何十人も乗っかるなんざ、聞いたこともねえ! 下の梁が重さに耐えきれずに、建物ごと崩れちまうぞ!」


その意見に、村の職人たちは「そうだそうだ」と頷く。

だが、王都の棟梁マグナスだけが、静かに俺の意図を汲み取り、そして不敵に笑った。


「……面白い。奉行殿は、我ら王都の技術を試しておられるのだな」


マグナスは、ゲルドの肩を叩いた。


「ゲルド殿。貴殿らの村ではそうかもしれん。だが、ここ王都では、石と鉄骨を組み合わせたアーチ構造で、二階建て三階建ての建物を支える技術がある。屋根の上に、庭を一つ創り出すことなど、造作もないことだ」


その自信に満ちた言葉に、ゲルドたちは「な、なんだと……!?」と目を丸くする。

俺は、そんな二人の棟梁に、この場所に懸ける想いを語った。


「眼下に広がる王都の夜景、遠くに見える王城、そして満点の星空……。サウナと水風呂で研ぎ澄まされた五感で、その全てを受け止めるんだ。地上では決して味わえない、究極の“ととのい”が、そこにはある。俺は、この場所に『天空のそらのにわ』を創りたい!」


俺の熱弁に、二人の棟梁の目が再び燃え上がった。

村のゲルドと、王都のマグナス。二人の技が、不可能を可能にしようとしていた。


それからの数日間、建設現場は屋根の上が主戦場となった。

マグナスの指揮のもと、王都の職人たちが、建物の強度を飛躍的に高めるための鉄骨の補強を施していく。

その上に、ゲルドたちが、防水性と木の温もりを両立させた、美しいウッドデッキを敷き詰めていった。


「すげえ……本当に屋根の上が広場になっちまった……」 


村の若い職人たちが、その光景に感嘆の声を漏らす。

そして、その広場の主役となる、究極のインフィニティチェア作りも、同時進行で進められた。

村で一度発明した椅子を、ゲルドの「剛」の構造と、マグナスの「巧」の曲線美で、さらに上の次元へと昇華させる。

それは、もはや単なる椅子ではない。王都の技術の粋を集めた、芸術品だった。


アリーとセイルも、天空の庭を彩るために奔走した。

アリーは、夜でも安全なように、精霊をかたどった可愛らしい灯籠をいくつも鍛え、セイルは、風に乗って心地よく香る、特別なハーブを植木鉢に植えた。


そして、全ての準備が整った夜。

俺たちは、完成したばかりの『天空の庭』に立っていた。

屋根の上に広がる、美しいウッドデッキ。

その中央には、芸術品のようなインフィニティチェアが、王都の夜景を見下ろすように並べられている。

アリーの灯籠が足元を優しく照らし、セイルのハーブが風に乗って爽やかに香る。

見上げれば、手が届きそうなほどの満天の星。見下ろせば、宝石を散りばめたような王都の夜景。


「……師匠……」


アリーが、言葉を失ってその光景に見入っている。


「ここ……本当に、私たちが作ったんですか……? 天国みたいです……」


俺も、そのあまりに完璧な空間に、ただただ圧倒されていた。

その時、ずっと黙って夜景を眺めていたエリアスが、静かに口を開いた。


「……サウナー殿。これならば、勝てる」

「え?」

「この景色、この空間、この体験は、王都の……いや、この国のどんな贅沢よりも価値がある。これは、単なる癒やしではない。人の人生を変える力を持った、最高の“商品”だ」


商人の目が、確かな勝算に爛々と輝いていた。

俺は、完成したばかりのインフィニティチェアに深く身を預けた。

(……ああ、最高だ)

俺の呟きは、隣で同じようにとろけている職人たちの、幸せそうな寝息にかき消されていった。

王都の夜空に、一番星が輝き始めた。

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