サウナー、魂の薪ストーブを完成させる
ドルガンとボルツ。
村の経験と、王都の技術。二人の天才職人が、初めて同じ目標に向かって並び立った。
アリーのドジが偶然にも示した「力のドルガン」と「技のボルツ」の融合という道筋。それを現実のものとするため、王都の鍛冶場はかつてないほどの熱気に包まれた。
「サウナー! 設計図をもう一度見せろ! 最高の熱を生む空気の流れとやらを、この目に焼き付けてやる!」
「アリー! ふいごの勢いを落とすな! 俺の人生で最高の鉄を打つ!」
二人の親方の檄が飛び交う。
俺は設計者として、アリーは弟子として、そして二人を繋ぐ潤滑油として、この歴史的な共同作業に加わった。
作業は、まさに魂と魂のぶつかり合いだった。
カン! カン! と工房に響き渡る、二つの異なる槌の音。
ドルガンの振るう大槌は、力強く、そして大胆に、分厚い合金の板を叩き、曲げ、ストーブの骨格となる力強い火室を作り上げていく。
一方、ボルツが握る精巧な小槌は、小刻みに、そして正確に、熱を伝えるための複雑な配管を打ち出し、磨き上げていく。
一見バラバラに見える二人の仕事が、俺の設計図の上で、奇跡のように一つに組み合わさっていく。
ドルガンの「力の火室」が生み出す凄まじい熱を、ボルツの「緻密な配管」が余すことなく受け止め、ストーブの上部に設置されるサウナストーンへと導く。
それは、どちらか一人では決して到達できなかった、完璧な熱の循環システムだった。
「師匠! お父さんとボルツさん、なんだか楽しそうです!」
真っ赤な顔でふいごを操りながら、アリーが嬉しそうに叫ぶ。
その通りだった。最初は反発しあっていた二人の職人は、お互いの神業のような技術を目の当たりにし、言葉を交わさずとも、槌音だけで会話し、敬意を払い合っている。
工房の熱気は、サウナ室にも負けない、職人たちの情熱そのものだった。
そして、七日目の夕暮れ。
最後の部品が組み付けられ、工房に静寂が訪れた。
俺たちの目の前にそびえ立つのは、もはや「ストーブ」という言葉では表現できない、一つの芸術品だった。
ドルガンの力強さが表れた、どっしりとした黒い鉄の胴体。
ボルツの緻密さが体現された、龍の血管のように複雑に絡み合う配管。
そして、アリーが想いを込めて作り上げた、開閉しやすい頑丈な扉。
それはまるで、今にも鼓動を始めそうな、巨大な黒竜の心臓のようだった。
「……できたな」
「……ああ」
ドルガンとボルツは、自分たちの最高傑作を前に、ただ静かに頷き合った。
ストーブの運び出しは、村と王都の職人たち総出で行われた。
ゲルドとマグナスが指揮を執り、丸太と縄を巧みに使って、鉄の塊を、慎重に、ゆっくりとサウナ室へと運んでいく。
黄金のサウナウッドで囲まれたサウナ室の中央、石で組まれた土台の上に、黒い心臓が静かに設置される。
その瞬間、がらんどうだった空間に、確かな「魂」が宿ったのを、俺は感じた。
まだ火も入っていない、ただの鉄の塊。
だが、俺にはもう見えていた。このストーブが真っ赤に燃え上がり、最高の蒸気を生み出す未来が。
アリーが、完成したストーブにそっと触れた。
「師匠……すごい……。本当に、できちゃった……」
「ああ。最高の心臓だ。……だがな」
俺は、まだがらんどうの、広大なベンチスペースを見渡した。
「心臓がどれだけすごくても、その熱を受け止める体がなきゃ意味がない」
俺は、大工のゲルドとマグナスに向き直った。
「二人の棟梁。次は、この聖域にふさわしい“玉座”を作るぞ」
その言葉に、二人の大工の目が、待ってましたとばかりに輝いた。
サウナ室の完成は、もう目前に迫っていた。




