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サウナー、黄金のサウナ室を作る

王都の職人たちが仲間に加わったことで、「ととのいの館」の建設ペースは飛躍的に加速した。

精密な設計図を元に、村の職人たちの知恵と経験が加わっていく。それはまさに、理論と実践の完璧な融合だった。


頑丈な石の基礎の上に、太い柱が次々と立てられ、巨大な梁が組み上げられていく。

その光景は圧巻の一言だった。

王都の職人たちが使う、滑車やテコを応用した高度な建築技術に、村の仲間たちは目を丸くしている。


「すげえ……あんな重い梁を、あんなに軽々と……」

「ゲルドさん、俺たちもあれ、覚えましょうよ!」


村の若い大工たちが、棟梁のゲルドに興奮気味に詰め寄る。

ゲルドは、王都の棟梁マグナスと肩を組んでニヤリと笑った。


「おうよ! 技は見て盗め! 最高のサウナ作りは、最高の職人作りでもあるんだ!」


やがて、建物の骨組みと屋根が完成し、いよいよ壁と内装に取り掛かることになった。

俺は、全ての職人を集めて宣言した。


「外壁は、雨風をしのぐための“鎧”だ。だが、サウナ室の内壁は、俺たちの肌が直接触れる“素肌”そのものになる。だから、特別な木材を使いたい」

「特別な木材?」


マグナスが、訝しげに聞き返す。

「ああ。俺の故郷のサウナで使われることがある、“サウナウッド”だ」


俺は、この世界にはない技術を説明し始めた。


「木材に、あえて高温の蒸気を当てて、じっくりと“燻す”んだ。そうすることで、木材は湿気や熱による変形に強くなり、腐りにくくなる。そして何より……」


俺は、恍惚とした表情で続けた。


「燻された木は、その香りが極限まで引き出され、美しい飴色に変わる。最高の癒やし空間を作るための、最高の素材だ」


その突拍子もないアイデアに、職人たちはざわめいた。


「木を……燻すだと?」

「下手にやれば、ただの燃えさしになるだけだぞ!」


その時、腕を組んで黙って聞いていた鍛冶屋のドルガンが、前に進み出た。


「……面白い。熱で鉄の性質を変えるのが、俺たち鍛冶屋の仕事だ。木でそれができねえ道理はねえ」

彼は、隣に立つアリーの頭を無骨な手でわしわしと撫でた。

「なあ、アリー。最高の炉を作った俺たちなら、最高の木材だって作れるはずだ。サウナーに、俺たちの炎の力を見せてやろうぜ」

「はい、お父さん!」


アリーが、最高の笑顔で頷いた。

その日から、ドルガンの工房は「サウナウッド」開発の拠点となった。

ゲルドたちが選び抜いた最高級の白木を、ドルガンとアリーが作った特製の蒸し窯に入れる。

薪の火力を繊細に調整し、セイルが調合した薬草を溶かした水を蒸気にして、窯の中へと送り込んでいく。

温度が高すぎれば木は焦げ、低すぎればただ湿るだけ。

何度も失敗を繰り返し、夜を徹して火の番を続けた。


そして、三日目の朝。

窯の扉が、ゆっくりと開けられた。

中から現れたのは、ただの白い木材ではない。

熱と蒸気によって、まるで蜂蜜を溶かし込んだかのような、美しい黄金色に輝く木材だった。

そして、工房中に広がる、甘く、どこか懐かしい、極上の木の香り。


「……できた……!」


アリーが、感嘆の声を漏らす。

ドルガンも、その見事な出来栄えに、満足げに深く頷いた。

完成した「黄金のサウナウッド」が、建設現場に運び込まれると、王都の職人たちからどよめきが上がった。


「なんだこの木は……! なんて美しい色と香りだ……!」

「硬さも増している……これなら、何十年でも持つぞ!」


ゲルドとマグナスは、まるで宝物を扱うかのように、その一枚一枚を丁寧に切り出し、サウナ室の内壁に張り付けていく。

壁が仕上がるにつれて、サウナ室は、ただの木の部屋ではない、まるで黄金の宝箱のような、神聖な空間へと姿を変えていった。


全ての壁が張り終えられた時。

俺たちは、初めて完成したサウナ室の内部へと足を踏み入れた。

扉を閉めると、外の喧騒が嘘のように遠のき、静寂と、木の甘い香りに満たされた空間が広がる。

窓から差し込む夕日が、黄金の壁を照らし、室内は温かい光で満たされていた。


「師匠……」


アリーが、感極まったように壁にそっと触れた。


「まるで……お日様の中にいるみたいです……」

「ああ……」


俺も、その完璧な空間に、言葉を失っていた。

これはもう、俺が知っているサウナじゃない。

俺の知識と、この世界の職人たちの魂が融合して生まれた、全く新しい、最高の聖地だ。

(あとは……この空間を満たす、最高の“ととのい”を設えるだけだな)

俺は、まだ空いているベンチのスペースを見つめながら、最後の仕上げへの決意を新たにするのだった。

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