表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/78

サウナー、基礎を作る

夜が明け、王都の建設予定地に、二組の職人たちが集結した。

片や、王都ギルドが誇る最高の職人集団。

率いる棟梁マグナスは、巨大な羊皮紙に描かれた、寸分の狂いもない精密な設計図を広げている。

片や、村が誇る最高の仲間たち。

大工のゲルドと鍛冶屋のドルガンは、設計図をちらりと見ただけで、あとは己の長年の経験と勘を信じるように、どっしりと構えている。

その間には、素人目にも分かる、ピリピリとした緊張感が漂っていた。


「よし、始めよう」


マグナスが、乾いた声で指示を出す。


「まずは図面通りに縄を張り、基礎の外枠を正確に定める。石工どもは、指定通りの大きさに石材を切り出せ。誤差は指一本分も許さん」


そのあまりに厳格なやり方に、ゲルドが眉をひそめた。


「おいおい、サウナー。あんなふうに石を全部同じ形に切り出しちまったら、石が本来持ってる力が死んじまうぜ。石ってのはな、一つ一つ形が違う。その違いをうまく組み合わせてこそ、一番頑丈な石垣になるんだ」

「馬鹿を言え」


マグナスが、ゲルドを一瞥する。


「勘に頼った仕事など、ただの田舎仕事だ。我ら王都の技術は、寸分の狂いなき“完璧な設計”の上に成り立っている」


一触即発。村の“経験と勘”と、王都の“理論と精密さ”。

二つの正義が、火花を散らす。

俺は、二人の間に割って入った。


「待ってくれ、二人とも。どっちも間違ってない。……サウナと一緒だ」

「「サウナ?」」

「ああ。最高のサウナは、完璧に計算された温度と湿度だけじゃ作れない。その日の客の顔色、薪の燃え方、石の機嫌……そういう“感覚”を読んで、最高のロウリュが生まれるんだ。理論と経験、両方があってこそ、本物が生まれる」


俺は、マグナスとゲルドの顔を交互に見た。


「マグナスの完璧な設計図を“骨”にしよう。そして、ゲルドたちの経験と勘で、そこに最高の“肉”をつけていくんだ。二つの技が合わされば、きっと誰も見たことのない、最高の基礎ができるはずだ」


俺の言葉に、二人の棟梁はしばらく黙って腕を組んでいたが、やがて、お互いの顔を見合わせ、ニヤリと不敵に笑った。


「……面白い。そこまで言うなら、見せてもらおうか。田舎職人の“勘”とやらを」

「おうよ! あんたらの“お絵描き”が、どれだけ現場で通用するか、楽しみにしてるぜ!」


こうして、奇妙で、しかし最高に刺激的な共同作業が始まった。

マグナスの弟子たちが、設計図通りに正確な外枠を作っていく。

その内側で、ゲルドとドルガンが、自然のままのゴツゴツした石を、まるでパズルでも組むかのように、驚異的な速さで組み上げていく。


「こら! その石は角度が悪い! こっちの平らなやつを使え!」

「いや、ゲルド! 設計図では、ここに一番大きな礎石が……!」

「図面の上で石が組めるか! 石の“顔”を見ろ! こいつがここに入れてくれって言ってるんだよ!」 


最初は衝突ばかりだった二つのチームも、作業を進めるうちに、お互いの技術に驚き、そして認め合うようになっていった。

王都の職人たちは、図面なしで完璧な強度を生み出す村の技に舌を巻き、村の職人たちは、ミリ単位の狂いも許さない王都の精密な技術に目を見張った。

エリアスが手配した最高品質のモルタルが、二つの技を繋ぎ合わせる。

アリーとドノバンたちは、両チームの間に立ち、材料を運び、汗を流した。


数日後。

そこに現れたのは、もはや単なる“基礎”とは呼べない、一つの芸術品だった。

外側は、マグナスの設計図通り、寸分の狂いもない直線と曲線を描いている。

しかし、その内側は、ゲルドたちが組んだ、自然の力を最大限に活かした、生命力あふれる石の壁。

精密な“理論”と、野性的な“経験”が、完璧に融合していた。


その日の作業終わり。

ゲルドとマグナスは、完成した基礎の前に並んで座り、サドリを飲んでいた。


「……参ったぜ。図面もなしに、これほど頑丈な石組みができるとはな。あんたらの言う“石の声”とやら、俺も少しだけ、聞こえた気がしたよ」


マグナスが、傷のある顔を少しだけほころばせて言った。

ゲルドは、でかい手でマグナスの背中をバンと叩いた。


「てやんでい! あんたの図面があったから、俺たちも迷わずに進めたんだ! これからは、最高のサウナを作る、最高の仲間だ!」


俺は、肩を組んで笑い合う二人の棟梁の姿を、少し離れた場所から眺めていた。

サウナは、ただ人の体を癒やすだけじゃない。

異なる文化、異なる誇りを持つ者たちの心をも溶かし、一つに繋いでしまう力がある。

王都のサウナは、その土台からして、もうすでに奇跡のような熱を帯び始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ