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サウナー、ととのい奉行に任命される

王が丘の上の教会を訪れた翌日、王都の広場という広場に、王の勅命を記した布告が張り出された。


『布告:丘の上の“さうな”を、王家の庇護のもと、全ての民に開かれた公式な“癒やしの場”と定める。身分の隔てなく、全ての者はここで心身を癒やすべし。なお、この施設の総責任者として、“サウナー”に『王都ととのい奉行』の称号を与えるものとする』


『王都ととのい奉行』


その奇妙きてれつな、しかし紛れもない王が与えた称号に、王都は文字通りひっくり返った。

労働者たちは「俺たちのサウナーが王様に認められたぞ!」と、まるで自分のことのように喜び、祝杯をあげた。

貴族たちは「な、なんだそのふざけた役職は!」「我らが高貴な身を、平民どもと同じ桶で清めろと申すのか!」と大混乱。

そして商人たちは、「王家お墨付きの癒やし…これは莫大な金になるぞ!」と、目の色を変えた。

たった一枚の布告が、王都の秩序を根底から揺るがし始めたのだ。


その日の午後、俺たちの教会サウナは、三つの異なる勢力が入り乱れるカオスな空間と化していた。


「おい、平民! 貴様の汗が飛んだではないか! 無礼であろう!」

「あんだと、貴族様! サウナの中じゃ身分は関係ねえって、王様が言ってんだぜ!」


サウナ室の中では、貴族と労働者が一触即発の睨み合いを繰り広げている。

外では、エリアスが新しい料金体系の看板を掲げようとして、アリーに止められていた。 


「エリアスさん! 師匠は誰でも楽しめる場所にしたいって言ってるんです!」

「アリー殿、これはビジネスです! 王家のお墨付きというブランド価値を、我々は最大限に活かさねば!」 


そして俺はというと……。


「ととのい奉行殿! ぜひ我が派閥の後ろ盾になってはいただけぬか!」

「奉行様! こちらの金貨を! 代わりに、我が商会に独占利用権を!」


貴族や商人たちに取り囲まれ、身動きが取れない状態だった。

(……奉行ってなんだよ……俺はただのサウナーだってのに……!)


もはや、ここは癒やしの場ではない。欲望と見栄と混乱が渦巻く、戦場だ。

俺は、自分のサウナが、自分の手の届かない場所へ行ってしまったような、一抹の寂しさを感じていた。


その夜。

客が去り、静けさを取り戻した教会で、俺は一人、ストーブの残り火を眺めていた。

そこに、静かな足音と共に、騎士団長レオンハルトが現れた。


「……随分と、騒がしくなったものだな」

「あんたのせいでもあるんだぞ、団長」


俺がため息交じりに言うと、レオンハルトは苦笑した。 


「すまんな。だが、陛下は本気だ。……サウナーよ、お主を城へお連れするよう、勅命が下った」


翌日、俺は生まれて初めて、王城へと足を踏み入れた。

玉座に座る王は、サウナで会った時とは比べ物にならないほどの威厳を放っている。

だが、その顔色は、以前よりも明らかに良かった。


「サウナー、いや、『ととのい奉行』よ。よくぞ参った」

「……陛下。俺は、しがないサウナーです。奉行などという大役は…」

「謙遜はよせ」


王は、玉座から立ち上がると、城の大きな窓から、眼下に広がる王都を見下ろした。


「この街は、豊かだ。だが、病んでもおる。人々は富を追い求めるあまり、心の安らぎを忘れ、常に何かに追われ、すり減っておる。……かつての、余がそうであったようにな」


王は、俺に向き直り、力強い声で言った。


「あの丘の上のサウナだけでは、この都の渇きは癒やせん。余は、お主に本当の“奉行”としての仕事を与える」

「この王都の真ん中に、国で一番大きな、誰もが心から“ととのえる”ことのできる、真のサウナを、お主の采配で建ててみせよ!」 


それは、村のサウナ建設とは比べ物にならない、あまりにも壮大な、王からの直々の依頼だった。

俺の小さなサウナから始まった物語は、今や国を挙げての一大プロジェクトへと、その姿を変えようとしていた。

俺は、王の真剣な目を見つめ返しながら、これから始まるであろう途方もない挑戦に、武者震いがするのを止められなかった。 


(……面白い。やってやろうじゃねえか)


俺は、この異世界で、ただのサウナーから、「ととのい奉行」になる覚悟を決めた。

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