サウナー、王都のサウナーを育成する
丘の上の教会サウナの噂は、王都の労働者たちの間で、まるで焚き火の火の粉のようにあっという間に広がっていった。
最初の数日は数人だった客が、一週間も経つ頃には、夕暮れ時になるとどこからともなく人が集まり、教会の前には自然と列ができるようになっていた。
彼らは皆、一日の仕事で疲れ果て、生気を失ったような顔でやってくる。
だが、俺のサウナと水風呂、そしてインフィニティチェアのフルコースを味わった後は、誰もが村長が最初に見せたような、魂が抜けたように穏やかで、幸せそうな顔で帰っていくのだ。
「師匠、見てください! みんな、来た時と帰る時で全然顔が違います!」
アリーが、サドリを手渡しながら嬉しそうに言う。
「ああ。都会の連中は、自分がどれだけ疲れてるか、気づいてすらいなかったんだろうな」
そんな日々が続く中、俺は一つの問題に直面していた。
――圧倒的な、人手不足だ。
俺一人でロウリュを行い、アリーがサドリを準備し、セイルが薬草の管理をする。エリアスは客の案内と整理。
だが、押し寄せる客の数に、明らかに俺たち四人だけでは対応が追いつかなくなっていた。
その日の夜、サウナの営業を終えてぐったりしている俺たちに、エリアスが真剣な顔で切り出した。
「サウナー殿。このままでは、あなたの体が先に壊れてしまう。早急に、我々の他にこのサウナを運営できる人間を育てる必要があります」
「……弟子を、とるってことか」
俺の言葉に、アリーが「私以外にですか!?」と少しだけ頬を膨らませる。
「そうだ。だが、ただやり方を教えればいいものじゃない。サウナへの愛と敬意がなければ、最高の“ととのい”は提供できない」
翌日、俺は常連となった労働者たちの中から、特にサウナへの情熱が強い数人を選び出した。
あの時、最初に声をかけた工事現場の親方、ドノバンもその一人だ。
「俺たちが……サウナーさんの弟子に?」
ドノバンは、その屈強な体に見合わない、子供のような驚きの顔で聞き返した。
「ああ。お前たちに、このサウナの魂を預けたい。ただし、俺のやり方は厳しいぞ」
俺の「王都サウナー育成講座」は、まず、サウナの掃除から始まった。
毎日客が使う場所を、いかに清潔に保つか。神聖な場所への感謝を、掃除という形で示すんだ。
次に、薪の割り方、組み方。火の育て方。
ストーブの機嫌を読み、最高の熱を生み出すための技術を徹底的に叩き込んだ。
そして、一番重要なのが、ロウリュだ。
俺は彼らに、ただ水をかけるのではなく、客のコンディションを見極め、蒸気の発生量をコントロールし、そして、タオルで熱波を送る技術を教えた。
「ただ熱いだけの風は暴力だ! 俺たちが送るのは、客への感謝を込めた“癒やしの風”だ!」
ドノバンたちは、これまで仕事で振るってきたどんな道具よりも真剣な顔で、タオルを握りしめていた。
最初はぎこちなかった彼らの動きも、サウ--ナを愛する心と、持ち前の体格の良さもあってか、驚くべき速さで上達していく。
数週間後。
教会のサウナ室には、俺の代わりにストーブの前に立つ、ドノバンの雄々しい姿があった。
「皆様、お疲れ様です! これより、灼熱の洗礼を始めさせていただきます! ロウリュ!」
彼の野太い掛け声と共に、力強い蒸気が立ち上る。
そして、鍛え上げられた腕から繰り出されるタオルが、唸りを上げて熱波を生み出す。
それは、俺の技術とは違う、荒々しくも、どこか包み込むような優しさに満ちた、彼だけの“癒やしの風”だった。
サウナ室は、客たちの歓声と熱狂に包まれる。
その光景を、俺は少し離れた場所から、アリーと共に満足げに眺めていた。
「師匠……すごいですね。ドノバンさん、すっかり熱波師の顔です」
「ああ。最高の弟子たちだ」
俺がこの街で蒔いたサウウナの種は、確かに芽吹き、新しい世代へと受け継がれようとしていた。
俺は、頼もしく成長した後輩たちの姿に、この王都での成功を確信する。
そして、その成功が、全く新しい出会いを引き寄せることになるのを、俺はまだ知らなかった。




