表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/78

サウナー、初めての野営に挑む

王都へと向かう道は、想像以上に穏やかだった。

馬車の車輪が心地よくガタゴトと音を立て、アリーは初めて見る景色に「わぁー!」と歓声を上げっぱなしだ。

俺も、どこか冒険の主人公にでもなったような気分で、鼻歌の一つでも歌いたくなる。


――だが、そんなロマンチックな気分は、日が暮れると共にきれいさっぱり消え去った。


「さて……そろそろ野営の準備をするか」

俺が言うと、三人の仲間たちはきょとんとした顔で俺を見た。


「野営? 師匠、次の宿場町まではまだ距離があるんですか?」

「エリアスさん、地図ではもうすぐだと……」

「サウナー、まさかとは思うが、衛生環境の保証されない屋外で夜を明かすつもりか? 論外だ」


……こいつら、まさか旅の基本を知らないのか!?

俺は頭を抱えた。

アリーは村の外に出ること自体が初めて。セイルは一人旅の経験こそあれど、常に清潔な宿を選んできたらしい。

そして、商人エリアスに至っては、言わずもがなだ。


「当たり前だろ! 旅に野営はつきものだ! さあ、火を起こして飯の準備をするぞ!」


俺の号令で、四人の初めての共同作業が始まったが、それは前途多難を予感させるものだった。

まず、火起こし。


「火なら私に任せてください!」と名乗り出たアリーだったが、鍛冶場の炉の感覚で薪を組んだものだから、火はつかずに煙だけがもうもうと立ち上る。 


「ごほっ、ごほっ! アリー! 火力が強すぎるん

だ!」

「煙で目が、目がぁ!」


全員が涙目で大騒ぎだ。


次に、食事の準備。

俺が「まあ、最初は簡単なスープでも」と干し肉と豆を鍋で煮始めたが、そこに“専門家”二人が口を出してきた。


「待て、サウナー。その干し肉は塩分が強すぎる。長旅では塩分の過剰摂取は体に毒だ」

「師匠! こっちの森で採ってきたキノコも入れましょう! 美味しくなりますよ!」

「アリー! そのキノコは食えん! 幻覚作用がある!」


結果、完成したのは何の味もしない豆の煮込み汁。


そして極めつけは、商人エリアスだった。

彼はどこから取り出したのか、天蓋付きの豪華な一人用寝台を組み立て始め、シルクの枕まで用意している。


「エリアスさん、あなた……本気でそれで寝るつもりか?」

「当然です。真の商人は、いかなる環境でも生活水準を維持するものですよ」 


その言葉とは裏腹に、彼は慣れない作業で指を挟み、「い、痛っ!」と小さな悲鳴を上げていた。

煙たい火、まずい飯、やたらと豪華だが落ち着かない寝床。

俺たちの記念すべき旅の初日は、理想とはほど遠い、気まずい沈黙に包まれていた。


「……はぁ」


俺は、もう一度だけ火をいじりながら、深いため息をついた。

このままじゃ、王都に着く前に仲間割れだ。

(……いや、待てよ)

俺は馬車に積んだ荷物の中から、あるものを取り出した。

ドルガンが「予備だ」と持たせてくれた、サウナストーン用の黒くて硬い石だ。

俺はその石を数個、焚き火の中に投入し、真っ赤になるまで熱した。

そして、熱くなった石を火から取り出し、大きな岩の上に並べる。


「みんな、ちょっとこっちに来て、この石の周りに座ってみろ」


訝しげな顔で集まってきた三人に、俺はセイル特製のアロマウォーターを数滴、熱い石の上に垂らした。


シュゥゥゥゥ……


心地よい音と共に、森の香りをまとった、柔らかな蒸気が立ち上る。

焚き火の直接的な熱とは違う、石から放射される、どこまでも優しい遠赤外線の熱。

そして、心を落ち着かせる聖樹の香り。


「「「……ああ……」」」


さっきまで不満顔だった三人の口から、同時に気の抜けた声が漏れた。

強張っていた肩の力が抜け、険しかった表情が、ふにゃりと溶けていく。


「……なんだ、これは。体が……芯から温まる……」


エリアスが、うっとりとした目で呟いた。


「すごい……師匠、こんな場所でもサウナが作れるんですね……!」


アリーが、尊敬の眼差しで俺を見つめる。

これはサウナじゃない。「石焼き」と呼ばれる、ただの熱の楽しみ方だ。

だが、俺は得意げに胸を張った。


「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」


その夜、俺たちはまずい豆のスープをすすりながらも、不思議と穏やかな気持ちで星空を眺めていた。

旅の先行きは不安だらけだ。

だが、この仲間たちと、そしてサウナの魂(と石)さえあれば、きっとどんな困難も“ととのえ”ていける。

俺は、そんな根拠のない自信に満たされていた。

お読みいただきありがとうございました。

☆押して頂けると励みになります!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ