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サウナー、鍛冶場をととのえる

うだるような夏の暑さは、村の鍛冶場を本当の地獄に変えていた。

ごうごうと燃える炉の熱と、ぎらつく太陽の熱。二つの熱に挟まれた工房の中は、息をするだけで喉が焼けそうなほどの灼熱地獄だ。


「うおおおっ!」

「はぁっ、はぁっ……!」


上半身裸になったドルガンと、顔を真っ赤にしたアリーが、汗まみれになって鉄を叩いている。

だが、その動きは明らかに鈍かった。


「ドルガン、少し休んだらどうだ?」

様子を見に来た俺が声をかけると、ドルガンは荒い息をつきながら槌を置いた。


「……馬鹿言え。農具の修理が溜まってんだ。休んでる暇なんざねえ」

「でも、お父さん、顔が真っ赤だよ……!」


アリーも、今にも倒れそうなほど消耗している。

このままでは、二人とも熱中症で倒れてしまう。

俺は工房の中を見回した。熱気が天井付近に澱み、空気の流れがほとんどない。

――まるで、換気の悪いサウナ室だ。


「……なるほどな。ドルガンさん、アリー。ちょっといいか」


俺は二人に手招きした。

「この工房、少し“ととのえ”させてもらうぜ」


俺が最初に取り掛かったのは、「換気」だった。


「ドルガン、あの煙突の仕組みを少し変えよう。煙を出すだけじゃなく、熱い空気を工房の外に強力に引きずり出すんだ」


俺は、サウナの煙突で学んだ上昇気流の知識を応用した。

屋根の反対側に、もう一つ小さな吸気口を開ける。そして、煙突の根本に、熱で回る風車のような簡単な仕組みを取り付けた。

炉の熱で煙突内の空気が熱せられると、強い上昇気流が発生。煙突から熱気が吸い出され、同時に工房の反対側にある吸気口から、涼しい外気が流れ込んでくる。

工房の中に、明らかに今までなかった「風の流れ」が生まれた。


「おお……! 風が……工房の中を通り抜けていく……!」


アリーが、頬を撫でる涼風に驚きの声を上げる。

次に俺は、工房のすぐ外にあった大きな水桶を指差した。


「あれだ。焼き入れに使うだけじゃもったいない」

「師匠?」

「名付けて、“鍛冶場専用水風呂”だ。熱気で限界だと思ったら、頭から水をかぶって体を冷やすんだ。サウナと一緒で、急激な温度変化が体をリセットしてくれる」


ドルガンは最初、「仕事場で水浴びなんざできるか」と渋っていた。

だが、試しにアリーが火照った顔を水につけると、「ひゃあ! き、気持ちいい〜!」と歓声を上げる。

それを見て、ドルガンもおそるおそる水を一杯かぶった。


「……う、おお……」


その無骨な顔に、驚きと快感が入り混じった表情が浮かぶ。


「……悪くねえ。いや、かなり……いい」


その日の午後。

生まれ変わった鍛冶場では、ドルガンとアリーが以前とは比べ物にならないほど軽快に槌を振るっていた。

工房の中を風が通り抜け、時折、外の水桶で体を冷やす。


「師匠! これ、すごいです! 全然バテません!」

「だろう?」


アリーが、セイルに相談して作ったという「塩分補給サドリ」を、仕事の合間にゴクゴクと飲み干す。

俺が教えたサウナの知恵が、弟子自身の発想で、こうして新しい文化を生み出していく。その事実が、たまらなく嬉しかった。


夕方、仕事を終えたドルガンが、俺のところにやってきた。

その顔は、いつもの強面ではなく、どこか晴れやかな職人の顔だった。


「サウナー。……礼を言う。あんたの知恵は、どうやら鉄を打つだけじゃねえらしいな」

「俺は、サウナのことしか知らないだけさ」


俺がそう言って笑うと、ドルガンはニヤリと歯を見せた。


「その“サウナのこと”が、どうやらこの村じゃ一番役に立つらしい。……面白いもんだな」


サウナの知恵は、サウナ室の外へも広がり始めた。

それは、この村の暮らしそのものを、少しずつ、しかし確実に“ととのえて”いく、確かな一歩だった。

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