サウナー、夏の涼をととのえる
うだるような暑さが村を包む、夏本番。
太陽は容赦なく地面を照りつけ、畑仕事に出る村人たちの額からは、玉のような汗が流れ落ちていた。
だが、今年の夏は、これまでとは少しだけ違った。
村には、太陽の熱とは質の違う、もう一つの“熱”と、そして最高の“涼”があったからだ。
「はぁ〜……生き返る……」
昼下がりの「陽だまりのととのい処」。
サウナ室で汗を流した村人たちが、口々に幸せなため息をつきながら、キンキンに冷えた水風呂に体を沈めている。
「サウナーの言う通りだな。夏に汗をかくなんてごめんだと思ってたが、こうしてサウナで良い汗をかいてから水風呂に入ると、体の芯から涼しくなるぜ」
農夫のゴランが、満足げに頭から水をかぶる。
水風呂の横では、子供たちがインフィニティチェアを取り合ってキャッキャとはしゃいでいた。
「次わたしの番ー!」
「だめ! お兄ちゃんが先!」
彼らにとって、ととのいのガーデンは最高の遊び場になっていた。
その日の午後、俺はアリーとセイルと共に、新しい夏の風物詩の開発に取り組んでいた。
「師匠! これです! 夏といえば、やっぱりこれしかありません!」
アリーが、大きな氷の塊を、誇らしげに掲げる。
冬の間に山の洞窟で保存しておいた、貴重な天然氷だそうだ。
俺はニヤリと笑った。
「そうだな。夏のサウナの最高の贅沢……“アイスロウリュ”の時間だ」
セイルは、その氷を冷静な目で見つめている。
「ふむ。ただの氷ではないな。不純物が少なく、透明度が高い。これなら、アロマの香りを邪魔することなく、気化させられそうだ」
俺たちは、その氷の塊にセイルが調合したミントのエキスを数滴垂らし、アロマ氷を作った。
そして、夕暮れ時。
一日の仕事の疲れを癒やしに集まってきた村人たちの前で、俺はそれを熱々のサウナストーンの上に乗せた。
ジュゥゥゥゥ……
石の上で氷が溶け、これまでとは違う、柔らかく、そしてどこまでも清涼な蒸気がゆっくりと立ち上る。
サウナ室の温度は高いままなのに、ミントの爽やかな香りが鼻を抜け、体感温度がすっと下がっていくような不思議な感覚。
「おお……!」
「熱いのに……涼しい……!?」
村人たちから、驚きの声が上がる。
「これが、夏のサウナの楽しみ方だ」
俺はタオルを手に取り、その冷たい蒸気を、優しく、そして力強く、村人たち一人一人へと送り届けた。
熱さと冷たさが同居する、極上の蒸気。
誰もが、うっとりと目を閉じ、夏の暑さも、一日の疲れも忘れ、ただただその快感に身を委ねていた。
サウナから出ると、日が落ちたガーデンを心地よい夜風が吹き抜けていた。
バルタの屋台では、ミーナが夏野菜をたっぷり使った冷たいスープを振る舞っている。
「サウナー! アリーちゃん! こっちで一杯どうだい!」
村長が、祝祭のサドリを片手に手招きする。
見れば、ガーデンのあちこちで、村人たちが輪になって語り合っていた。
男たちは今日の畑仕事の成果を自慢し合い、女たちは子供たちの成長を喜び合う。
その中心には、いつもサウナがある。
アリーが、俺の隣で幸せそうにサドリを飲んでいた。
「師匠。なんだか、村のみんなが、前よりもずっとたくさん笑うようになった気がします」
「ああ。そうだな」
俺も、目の前の光景に目を細めた。
サウナは、ただ体を温めるだけの場所じゃない。
共に汗を流し、語り合うことで、人の心まで温めてくれる場所なんだ。
夏の夜空に、満月が昇る。
俺たちの村の、暑くて、最高に“ととのった”夏は、まだ始まったばかりだった。




