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サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる⑮

祝祭の朝は、村中が生まれ変わったかのような、特別な空気で満ちていた。

空は雲一つなく晴れ渡り、川沿いの「ととのいの館」には村人たちが手作りした色とりどりの旗がはためいている。


パン屋のバルタの窯からは夜明け前から香ばしい匂いが立ち上り、セイルが用意した祝祭限定サドリの爽やかな香りが、広場を訪れる人々の鼻をくすぐった。

村人たちは、誰もが一番良い服を着て、そわそわと、そして誇らしげに、自分たちの手で作り上げた聖地の完成を待っている。


やがて、建物の前に設けられた小さな台に村長が立つと、あれほど騒がしかった広場が水を打ったように静かになった。


「皆の者、よくぞ集まってくれた!」


村長の声が、朗々と響き渡る。


「我らの村は、長い間、ただ静かに時が過ぎるのを待つだけの村であった。だが、一人の男がもたらした“サウナ”という名の温かい火が、我々の心に再び活力を灯してくれた! この館は、ただの建物ではない! 汗を流し、笑い合い、共に未来を築き上げた、我ら村の団結の証そのものだ!」


村長の言葉に、村人たちの目頭が熱くなる。

俺も、胸の奥からこみ上げてくるものをぐっとこらえた。


「これより、『第一回・ととのい祝祭』の幕開けを宣言する! そして、この館に最初の火を灯す栄誉は、この三名に!」


村長に促され、俺と、アリー、そして大工の棟梁ゲルドが前に出る。


俺たちが作ったサウナの扉を開け、俺たちが組み上げたベンチ、そしてドルガン親子が鍛えたストーブへと向かう。

俺が薪を組み、ゲルドが火打ち石を打つ。そして、アリーがそっと火種を薪へと移した。

三人の想いを乗せた炎は、あっという間に燃え上がり、ゴウッと力強い音を立ててストーブを温め始めた。


その瞬間、広場から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

祝祭が始まると、ととのいのガーデンは瞬く間に笑顔で溢れかえった。


「うめえ! サウナー! バルタ! この薬草パン、サドリと無限に食えるぞ!」

「セイル様、このサドリはいつものと違う! 体の芯から力が湧いてくるようだ!」

「見て見て、おかあさん! インフィニティチェア、本当に空を飛んでるみたい!」


バルタの屋台には長蛇の列ができ、セイルの前にはサドリのおかわりを求める人々が絶えない。

子供たちは完成したばかりの水風呂の周りを(今度は飛び込まずに)走り回り、年寄りたちはインフィニティチェアに揺られて穏やかに目を細めている。


村中が、これ以上ないほどの幸福感に包まれていた。

そして、いよいよ最初の客たちが、湯気を上げるサウナ室へと足を踏み入れる。

広々とした室内、美しい木目の三段ベンチ、そして中央に鎮座する威風堂々たる薪ストーブ。

村人たちは、自分たちが作り上げたその光景に、改めて息をのんだ。


俺は最初のロウリュを、いつもより丁寧に、そして心を込めて行った。


ジュワァァァ……


セイル特製の「祝祭のアロマ」が、柔らかな蒸気と共に室内を満たす。

以前の小さな小屋とは比べ物にならない、どこまでも優しく、そして力強い熱が、座る人々を包み込んでいく。


「おお……」

「なんて……心地よい熱さだ……」

「これが……俺たちのサウナ……」


誰もが、うっとりと目を閉じ、言葉にならない感動に浸っている。

熱気に耐え、水風呂の冷たさに歓喜し、ガーデンの玉座で魂を解放する。

村人たちは、完成された“ととのいのフルコース”に、次々と骨抜きにされていった。


夕暮れ時。

俺は少しだけ休憩を取ろうと、サウナの熱気から離れて一人、川のせせらぎに耳を傾けていた。

祭りの初日は、文句のつけようがないほどの大成功だ。


「師匠!」


アリーが、頬を興奮で赤らめながら駆け寄ってきた。


「すごいです! みんな、こんなに楽しいお祭りは生まれて初めてだって言ってます! でも、まだ師匠の“あのアウフグース”が残ってますからね!」


アリーの期待に満ちた瞳に、俺は苦笑しつつも頷いた。

そうだ。この祝祭のメインイベントは、日が落ちてから始まる。

俺は、夜の闇に浮かび上がる「ととのいの館」を見つめた。

ストーブの炎が、窓から暖かく揺らめいている。

(待ってろよ、みんな)

俺は心の中で、まだ見ぬ最高のパフォーマンスを思い描き、静かに闘志を燃やした。

(お前たちがまだ知らない、“ととのいの向こう側”へ……俺が連れて行ってやる)

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