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サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる⑭

あの熱狂の試運転から一夜明けた村は、まるでお祭りの前日のような、浮き足立った興奮に包まれていた。

すれ違う村人たちは皆、どこか肌のツヤが良く、晴れやかな顔で「サウナー!昨日は最高だったぞ!」「次はいつ入れるんだ?」と声をかけてくる。


(……すっかり村人だな、俺も)


まんざらでもない気分でいると、村長が広場に皆を集めて、高らかに宣言した。


「皆の者、よく聞け! 我らの手による至高の癒やしの館、その完成を祝し、三日後より三日三晩にわたる『第一回・ととのい祝祭』を執り行うことを、ここに決定する!」

「「「おおおおおぉぉぉ!!」」」


村中が、大地を揺るがすほどの歓声に包まれた。

俺はと言えば、「え、三日後!?」と現実に引き戻され、一気に血の気が引いていくのを感じていた。


その日の昼。

完成したばかりの外気浴スペース「ととのいのガーデン」に、俺は村の主要メンバーを緊急招集した。


弟子のアリー、大工のゲルド、鍛冶屋のドルガン、パン屋のバルタ、そして薬師のセイル。

俺のサウナ革命を支えてくれた、最高の仲間たちだ。


「……というわけで、三日後に祝祭だそうだ。正直、手が回らん。みんなの力を貸してほしい」


俺が頭を下げると、ゲルドがニカッと笑って胸を叩いた。


「ったりめえだろ、サウナー! 祭りの準備なら任せとけ! ガーデンに屋台の骨組みでもなんでも建ててやるぜ!」

「うむ。ならばわしは、この祝祭にふさわしい“記念品”を鍛えよう」


ドルガンが、隣に立つ娘のアリーに目をやる。


「アリー、お前も手伝え。祝祭でサウナーが使う、最高のロウリュ用柄杓ひしゃくを、わしらの手で作り上げるぞ」

「はい、お父さん!」


アリーの目が、弟子として、そして鍛冶屋の娘としてキラキラと輝いた。


「それなら、俺はパンで祭りをもてなそう!」

バルタが力こぶを作って立ち上がる。


「新作の“薬草入りサウナパン”を、腹がはち切れるほど食わせてやるぜ!」

「ふむ。ならば私はサドリの増産体制に入ろう」


セイルが冷静に、しかしどこか楽しそうに言った。

「祝祭限定の、特別な薬草をブレンドした“祝祭のサドリ”も用意する。疲労回復効果は保証しよう」


次々と決まっていく役割分担。

みんなの顔には、疲れなど微塵もなく、これから始まる最高の祭りを成功させるという、熱い決意がみなぎっていた。


それからの三日間、村はまさにてんてこ舞いの忙しさだった。

ゲルドたちがガーデンに見事な屋台を組み上げ、女たちが色とりどりの布で飾り付けをしていく。

ドルガンの工房からは昼夜を問わず金槌の音が響き渡り、バルタのパン窯からは一日中、食欲をそそる香りが漂っていた。


そして俺はというと……サウナーとして、この祝祭の“メインイベント”の準備に取り掛かっていた。


「アリー、風をもっと柔らかく!」

「はい、師匠!」


俺がやろうとしているのは、熱波師として最高のパフォーマンス、アウフグースだ。

ただタオルを振り回すんじゃない。熱波とアロマと音楽、そして語りを融合させた、一種のエンターテインメント。

俺はこの世界の村人たちに、サウナが持つ無限の可能性と、本当の“ととのいの向こう側”を見せてやりたかった。

俺のタオル捌きに合わせて、助手を務めるアリーも“風の導師”として舞うように風を送る。

二人の動きがシンクロし、サウナ室の中に心地よい風の渦が生まれていく。

(……いける。これなら、最高のショーを見せてやれる)


日が暮れ、準備で疲れ果てた俺が一人、完成したサウナを眺めていると、セイルがサドリが入ったカップをそっと差し出してくれた。


「……随分と熱心だな。ただの蒸し風呂だろうに」

「お前にだけは言われたくないさ。一番楽しそうに薬草をブレンドしてたじゃないか」


俺たちが軽口を叩き合って笑うと、セイルはふいと顔をそむけた。

月明かりに照らされた「ととのいの館」は、静かにその時を待っている。

俺が作った小さなサウナ小屋から始まった物語が、今や村全体の祭りを生み出そうとしている。

(日本にいた頃の俺が見たら、きっと腰を抜かすだろうな)


俺はサドリをぐいと飲み干した。

ベリーの甘酸っぱさと、薬草の心地よい苦みが、祭りの前の高揚した体に染み渡っていく。

明日から、この村の新しい歴史が始まる。

その中心に自分がいるという事実が、誇らしくて、少しだけ怖くて、そして、たまらなく嬉しかった。

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